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2016.05.31 Tuesday
吹奏楽コンクール課題曲2016トランペット解説【1.マーチ・スカイブルー・ドリーム / 矢藤学】後編
みなさんこんにちは!
先週より課題曲1「マーチ・スカイブルー・ドリーム」の解説をしております。
現在、課題曲2を残してすでに掲載を終えています。これまで書いてきた課題曲解説の本文をご覧になりたい方は以下をクリックしてください。
↓
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」前編
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」後編
課題曲5.焔 前編
課題曲5.焔 後編
課題曲3.ある英雄の記憶 〜「虹の国と氷の国」より 前編
課題曲3.ある英雄の記憶 〜「虹の国と氷の国」より 後編
課題曲1.マーチ・スカイブルー・ドリーム 前編
では、今週は曲に沿って書いていきます。
この作品を演奏しない、という方も、きっと参考になることがたくさん書いてあるはずですので、とりあえず一度ご覧いただければと思います。
【冒頭】
[ダブルタンギングは表現方法のひとつ]
冒頭部分の印象的なファンファーレは、サックスやユーフォニアムも一緒に演奏しているとは言え、この動きは金管だからこそ発揮できるスタイルですから、ほぼトランペットに託されている場面と言えるでしょう。
ここはダブルタンギングで演奏することが好ましいと考えます。「え、シングルでできるよこれくらい(俺シングルタンギング速いもん!)」なんて思う方もいらっしゃるかもしれません。
「俺、シングルタンギングでこのテンポまで速めてできるようになったぜ」といった「シングルタンギング速い速い自慢」は、「ハイノート出る出る自慢」の次くらいに耳にします。リップトリル速い速い自慢なんてものありますね。
確かに、シングルタンギングで速いリズムを演奏できるならば、それはそれで表現の選択肢が広くなるわけですから大変結構なことです。しかし、ダブルタンギングやトリプルタンギングは「シングルでできない人が妥協して行う方法」ではありません。
シングルタンギングでは表現できない独特な「演奏表現方法のひとつ」なんです。
ダブルタンギングでファンファーレを「タカターン!」と吹くのと、シングルで「タタターン!」と吹くのでは、同じメロディであっても受ける印象は変わります。ダブルで演奏した時特有の「音符どうしがやや接近している印象」はトランペットをはじめとした金管楽器特有のかっこよさを醸し出します。一方、シングルで演奏すると「丁寧さ」や「正確性」「落ち着き」の印象を与える力を持っています。
ですから、どのように表現したいのかでどちらのタンギングを使うのかを考えることも必要であり、この場面では、シングルでできるできない関係なく、全員がダブルで演奏することが望ましいと個人的には考えます。
シングルかダブルのどちらで演奏するのか、パートで話題になることもあると思うのですが、常にどちらかに統一すべきだと僕は思います。「シングルでしかできないから」という人はぜひ沢山練習して身につけてください。「シングルでできるよこんなの余裕!」という人はまずその言葉を慎んだ上で、そのフレーズ、メロディはシングルとダブル、どちらが相応しいのかを「音楽的観点から選択」するようにしてください。
[ダブルタンギングの練習方法]
では、タブルタンギングの練習方法についても少し触れておきましょう。
タンギングはシングルも全て含めて「舌の使い方」に焦点を当てて練習しすぎてしまう場合がとても多く見られます。もちろん、舌によって行う奏法ではありますが、一番大切なのは「空気の流れ」を意識することです。
発音は、空気の流れや空気圧が存在して初めて「音(おん)」となり、舌の動きだけでは音にならないのです。
ですから、ダブルタンギングを練習する上でも、まずは空気の流れをしっかり確保し、意識することから始まります。
この作品の冒頭を使って練習してみましょう。
この楽譜を演奏できるようにするには、まずはすべてをつなげて吹けるようにします。
こうすることで、「このメロディは空気の流れ(ブレスコントロール)によって演奏できている」ことを自覚できますね。何度か吹いてみましょう。
次に、このように吹きます。
タンギングを添えても、空気の流れが遮断されずに吹けているかがポイントです。タンギングの方法によっては空気を遮断することで明瞭な発音をする場合もありますが、この場合は空気の流れを止めないタンギングの方法を模索しましょう。
これができたら、ダブルタンギングに変更します。空気の流れを意識できるようにオリジナルでは休符になっているアタマにも音符を入れました。
タブルタンギングであっても空気の流れを遮断しないで吹けるようになるまで研究を繰り返した練習をしましょう。
ここで詳しくは書きませんが、もうひとつ大切なことは「TKTK」の「K」の発音位置です。我々が日常発音している「K」、いわゆる「カ行」の発音は舌の奥(口の奥)で発音していますが、ダブルやトリプルの「K」はそこではなく、もっともっと前方位置の「T」のすぐ近くで行う、ということだけここに書いておきます。
ちなみに、この部分でいうところの八分音符はスタッカートで演奏するのが一般的だと思います。こういうのがきっと作曲者の言う「楽譜に書かれていない(中略)演奏をする上で自然に発生する表現」のひとつだと思います。
[ダブルタンギングはテヌートで演奏するもの]
ダブルタンギングというのは、素早いリズムで演奏することが通常です。
ですので、ダブルで演奏している時に、やたらとスタッカートぎみに表現しようと心がける必要はありません。聴こえてくる音は短い時間で次々と繰り出されていくのですから、結果的にスタッカートに聴こえてしまいます。
したがって、どんなに速く演奏する場面であっても、空気の流れを遮断しないで、テヌートぎみに吹けば、そのほうがむしろしっかりした音の連続に聴こえてきます。無理にスタッカートにする必要はありません。
ダブルタンギングについては過去の記事
「タンギング7(ダブル、トリプルタンギング)」
「タンギング8(ダブル、トリプルタンギング)」
を参考にして頂くか、これから始まる僕のトランペット講習会で、「タンギング」がテーマの日が数回あります。そちらに参加して頂けると非常に効率よくテクニックを身につけることができますので、ぜひご検討下さい。詳しくはこちらをクリック。
なお、上記の解説はトリプルタンギングにおいても同様の解釈です。
[吹き初めが休符の場合]
そしてもうひとつここで書いておきたいことがあります。
この作品はトランペットの吹き始めが休符になっています。このような拍のアタマや1拍目から音が始まっていない場面にはよく遭遇しますよね。ポップスやジャズでもとても多く出てきます。
こういった時、音を出すところが「吹き初め」と考えてはいけません。『最初の休符もメロディに含める』と捉えましょう。
どういうことかと言うと、演奏するとき、我々は空気を取り込んでタンギング準備をし、舌をオープンする(音が出る)、という流れで演奏をしていますね。そのときの「音を出し始めるところ=音楽(メロディの始まり)」と解釈すると、フレーズを表現できない場合がとても多いのです。
この作品の場合は、冒頭の八分休符がそれにあたります。この八分休符から吹き始めるつもりで呼吸の流れから音を出すセッティングまでを行います。もちろん、休符ですから音を出すわけにはいきませんが、舌がタンギング準備を完了していれば、口の中から空気が漏れ出ることはありませんから、意識も体も、休符の部分ですでに吹き始めている状態にしてしまいます(舌で密閉されているので実際には音が出ていない)。
「音は出さない(出せない)けれど、休符もメロディ部分と捉えてすでに演奏している状態」です。
休符の部分は舌で密閉していますから、空気を外に出せず「ストレス」を感じることでしょう。そのストレスが、1拍目のウラにある音符に対して強い力で開放され、より推進力のあるフレーズを生み出せるのです。
休符も含めて音楽と捉える。これは非常に大切なことですから、他の作品で出てきた時に思い出して下さい。
【練習番号B】
[2nd,3rdの方へ]
1stのみ、アウフタクトからメロディとして参加します。では2nd,3rdはもう少しの間ボーっとしていて良いかというと、もちろんそうではありません。
話がそれますが、みんながワイワイ盛り上がっているパーティ会場やカラオケ、飲み会などの席に後から参加したことありますか?僕はあれ、すごい苦手なんですね。最初からみんなでワイワイやっていれば何てことないのですが、途中から参加するとあのテンションに最初ついていけず、どうしたらいいか非常に戸惑ってしまうんです。みなさんはどうでしょうか。
何の話かと言いますと、この練習番号Bのように1stだけ先に演奏していて、2nd,3rdが後から一緒になる場面の時、自分の出番のところだけ意識して吹き始めようとすると、音楽に乗り遅れてしまうのです。
これ、結構聴いている人に「なんかずれたぞ」と露骨にバレてしまいます。
ですから、2nd,3rdの人たちはぜひ、練習の時には1stと一緒にメロディを吹いてみましょう。合奏ではもちろん一緒に吹けないでしょうが(指揮者に一度だけ吹かせてくれるようにお願いしてもいいかもしれません)、ともかく自分の演奏する箇所だけが音楽ではなく、ずっと演奏に参加しているのだと意識して合奏に参加してください。
[ジャンプするメロディ]
このメロディは八分音符の間に休符が入っています。
メロディの間に休符が含まれている場合、どのように表現するかを必ずイメージして演奏しましょう。
この部分はどのように演奏すると自然な表現になりますか?
ひとつの案としては「軽やかに飛び越える」というのはいかがでしょう。
その表現を実現するためにはどのようなブレスコントロールやタンギングをすると良いか、ぜひいろいろ研究してみてください。
参考までに過去の記事「スタッカート」や「「走る」ということについて3」も読んでみてください。
【練習番号C】
いわゆる「Bメロは中低音楽器がメロディ担当」のシーンで「この時トランペットは裏打ちをする」という更に定番シーンですが、ここであまり一生懸命に吹かないようにしましょう。その理由は「バテ防止」だけでなく、一音一音を一生懸命吹きすぎることでフレーズ感(音楽の流れ)をせき止めてしまい、非常に重々しく聴こえてしまうからです。
タンギングの質にこだわり、形をはっきり出すことを第一に、トロンボーンなどの近くにいる楽器のメロディをよく耳に入れてアンサンブルをしてください。音を短くする意識が強すぎると、「音」としての存在を忘れて「打楽器」のようなアタック音だけの演奏をしてしまいがちです。必ず「1つの音がたとえ短くても、全パートに音律があり、みんなで和音を作っている」ことを忘れずに演奏しましょう。
この場面は木管楽器の多くも同じことをしていますから、トランペットが前面に出てきて音楽を先導する必要もありません。バランス感を重視しましょう。
【練習番号D 1小節前(1st,2nd)】
この部分の短いファンファーレはトランペット(とユーフォニアム)だけで演奏している部分です。かっこよく「ダブルタンギング」で決めて下さい。その直後のアウフタクトに現れる主題に勢い余って流れ込まないようにしましょう。切り替える時間がないのですが、役割としても立場としても別物ですから、個人練習を積み重ねて、上手に切り替えられるようにしましょう。
【練習番号E 2小節前 Trio】
転調し、それを聴く人に感じさせる最初の動機をトランペットが担当しています。
この部分のように、順番に音を出して積み重ねていく表現を「ベルトーン」と呼びます。ベル(鐘)のように聴こえるからそう呼ばれているのだと思いますが、よく「ベルなんだから音を出したらすぐ抜いて」とfp指示をする人がいます。しかし、それをあまり極端にしてしまうと「積み重なった(和)音」がよくわからずベルトーンの魅力を充分発揮できません。音を強く張れ、とは言いませんが、やたらと音を抜こうとせず、しっかりと和音を積み重ねている自覚を持って演奏して下さい。ぜひパート練習でじっくり研究したいところですが、客観的にどう聴こえるのかを重視しないと意味ないですから、いろんな人に聴いてもらったり、録音してみたり(録音方法には注意が必要)、工夫して練習をしてみましょう。
また、この部分で重要なのは2ndの実音Hです。この音を聴いた時に「あれ?何か(雰囲気が)変わった?」と聴く人は強く感じることでしょう(転調します)。だからといってやたら強く吹いたり、特別なことをする必要はありません。きちんとバランス良く、ツボに当たった良い音で吹ければそれで充分です。
自分のパートだけでなく、結果的にこの部分はどんな和音を奏でているのか、トランペット奏者全員が予め自覚しておきたいところです。個人練習やパート練習の時に、ピアノなどを使って和音を確認し、各自インプットをしてから吹いてみましょう。
【練習番号E】
この場面は演奏はしていませんが、ミュートをセットする時間です。
結構時間があるので、余裕を持ってセットすることはできますが、とても静かな場面です。変に勢いを付けてねじ込むと「キュッ!」とコルクが鳴ってしまう恐れがあります。ゆっくり丁寧に付けましょう。(かと言って緩く入れると演奏中に落ちるかもしれないので注意)
参考までに過去の記事「ミュート1」「ミュート2」を読んでみてください。
【練習番号F】
この場面にしかない、しかもトランペットしか担当していない伴奏リズムです。課題曲マーチにたびたび出てきますね、こういうの。
手が抜けないのです。この先もずっと吹かないといけないのに。
ともかく、ここはすべてシングルタンギングでいくのが良いと思います。2拍目がシンコペーションの書き方をしていますが、あまり大げさに意識的なシンコペーションの表現をする必要はないと思います。「シンコペーションによって推進力が強まる」ことができる演奏はまわりにも良い影響を与えられると思いますので、丁寧に練習してください。
しかし、テンポが速い中での演奏ですから、2拍目真ん中の八分音符にもスタッカートを付け、結果的に1拍間すべて16分音符で吹いてしまうのが良いと思います。練習番号Cと同様、スマートに、しかしリズムをしっかり聴かせるためにタンギングの質にはこだわりましょう。ミュートをしている時には音がモゴモゴしやすいのですが、これは音のツボに当たっていない時顕著にそうなってしまいます。音のツボにしっかり当てるコントロールを得るために、まずはそれぞれの音をロングトーンで見つけてください。その後、楽譜のリズムで練習してみましょう。
もし1つのパートを複数人で吹いているようでしたら、この場面はそれぞれ1本ずつにしてもいいかと思います。交代制にすれば、この後にくるすぐミュートopenのシーンも慌てずに済みますし。
ミュートの素早いopenの仕方も、先程リンクしたミュートの記事に書いてありますので参考にしてください。
【練習番号G】
冒頭と同じ練習をしてみましょう。どんどん和音が変わって、聴いていても吹いていても不安定で気持ち悪い流れではありますが、こういった場面こそ前後の音程感が曖昧にならないよう、声に出して歌ってみるなどのソルフェージュの力で安定性を高められるよう心がけましょう。
前回の記事(前編)に書きましたが、作曲者曰くこの作品はテンポの変化がありません。ですから、練習番号Hに入る時にも、いわゆる「タメ」をしないように注意しましょう。感覚的にそうしたくなるとは思うのですが(こういったスタイルの作品の演奏経験がある人は特に)、むしろ突っ込んでいくくらいの気持ちがないと、どうしても重くなってしまいます。
また、この場面はフォルテがまだ1つです。次の練習番号Hからがff(フォルテシモ)ですから、頑張って吹きたい場面ではありますが、まだもう少しガマンしましょう。推進力のある音と明瞭なタンギング、そして感覚的テンポをしっかり持ち、スピード感溢れる演奏をすれば、f(フォルテ)でも力強く感じさせる演奏はいくらでもできます。決してデシベル的要素だけで強弱を捉えないように注意してください。
【練習番号H】
[バンド全員での音量競争にならないで!]
Animatoと書いてあるので、通常でしたらテンポは上がるはずですが、前回の記事に書いたようにテンポ変化はしないと作曲者からコメントがありましたので、気をつけて下さい。
生き生きしたメロディを表現するためにはまず「音形(音のキャラクター性)」を統一させます。具体的には「八分音符以下はスタッカート(歯切れよく)」「四分音符以上は音価を守ってしっかりテヌート(推進力を作る)」にします。
これだけ守って統一させれば、それほど頑張って吹かなくても曲の求めている雰囲気はしっかり出せます。
吹奏楽でよくやってしまうのが、音量競争です。特にTutti(全員での演奏)時に f や ff が出てくると、ここぞとばかりにみんなが一生懸命デシベル的大音量を出そうと頑張ってしまいます。中でもトロンボーンなどの猛烈に大きな音が出せる楽器や、太鼓やシンバルなどの噪音楽器は、一台だけでも全員をかき消してしまう威力を持っているので注意が必要です。
音量ばかり大きくして注目を集めようとしている政治家の街頭演説って、「うるさい」と思うだけで聞きたいと思いません(むしろ離れたい)。
それよりも美しい声やイケメン声で心地よく耳に入ってくるほうがよっぽど魅力的で聴きたい!と思うはずです。
生き生きとした雰囲気や力強い響きは、筋肉に負担をかけて絞り出すものではありません。それぞれの楽器がその楽器らしさを失わずに響かせるための様々な「コントロール」が大切です。
ぜひ街頭演説ではなくて魅力的なサウンドで演奏するように心がけましょう。
【練習番号 I (1st)】
さて出てきました、トランペットソロ。他の数多くある課題曲マーチと一線を画してユニークな箇所ですよね。
しかし、何か特別なことをしようと思う必要もありません。ここまでのffの演奏そのままで突っ込んでいくほうが失敗もしないし良いと思います。
ひとりで吹くわけですから、相対的な観点からすれば結果的に音量もfに落ちますし、場面が変わるわけでもないので吹き方も変える必要はありません。
ですので、僕が思うに、ソロのためにその前を休ませておいて、変な緊張感を煽るよりは、その前からずっと吹いていて、シレっとソロも担当してしまうのが一番安定すると思います。
吹く人も周りの人も、あまり特別扱いしないほうが良いのではないでしょうか。
ただ、少しヴィブラートをかけて「ソロらしさ」を感じさせるのも良いと思います。結局はソロを務める奏者のセンスですね。
ということで、課題曲の曲解説を一回で書くのは文字の量が多くてしんどいです(笑)。読んで頂いている方もしんどいですよね。申し訳ないです。来年からは3回か4回に分けて書こうかな。
ともかく、この作品を演奏する団体が一番多いであろうと勝手に予測していますので、ぜひパートの皆さんで読んで参考にして頂ければ幸いです。
次回からは、ついに最後、課題曲2について書いていきます。
次回も曲解説に留まらない記事にしますので、演奏されない方もぜひ読んでくださいね。
また来週!
先週より課題曲1「マーチ・スカイブルー・ドリーム」の解説をしております。
現在、課題曲2を残してすでに掲載を終えています。これまで書いてきた課題曲解説の本文をご覧になりたい方は以下をクリックしてください。
↓
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」前編
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」後編
課題曲5.焔 前編
課題曲5.焔 後編
課題曲3.ある英雄の記憶 〜「虹の国と氷の国」より 前編
課題曲3.ある英雄の記憶 〜「虹の国と氷の国」より 後編
課題曲1.マーチ・スカイブルー・ドリーム 前編
では、今週は曲に沿って書いていきます。
この作品を演奏しない、という方も、きっと参考になることがたくさん書いてあるはずですので、とりあえず一度ご覧いただければと思います。
【冒頭】
[ダブルタンギングは表現方法のひとつ]
冒頭部分の印象的なファンファーレは、サックスやユーフォニアムも一緒に演奏しているとは言え、この動きは金管だからこそ発揮できるスタイルですから、ほぼトランペットに託されている場面と言えるでしょう。
ここはダブルタンギングで演奏することが好ましいと考えます。「え、シングルでできるよこれくらい(俺シングルタンギング速いもん!)」なんて思う方もいらっしゃるかもしれません。
「俺、シングルタンギングでこのテンポまで速めてできるようになったぜ」といった「シングルタンギング速い速い自慢」は、「ハイノート出る出る自慢」の次くらいに耳にします。リップトリル速い速い自慢なんてものありますね。
確かに、シングルタンギングで速いリズムを演奏できるならば、それはそれで表現の選択肢が広くなるわけですから大変結構なことです。しかし、ダブルタンギングやトリプルタンギングは「シングルでできない人が妥協して行う方法」ではありません。
シングルタンギングでは表現できない独特な「演奏表現方法のひとつ」なんです。
ダブルタンギングでファンファーレを「タカターン!」と吹くのと、シングルで「タタターン!」と吹くのでは、同じメロディであっても受ける印象は変わります。ダブルで演奏した時特有の「音符どうしがやや接近している印象」はトランペットをはじめとした金管楽器特有のかっこよさを醸し出します。一方、シングルで演奏すると「丁寧さ」や「正確性」「落ち着き」の印象を与える力を持っています。
ですから、どのように表現したいのかでどちらのタンギングを使うのかを考えることも必要であり、この場面では、シングルでできるできない関係なく、全員がダブルで演奏することが望ましいと個人的には考えます。
シングルかダブルのどちらで演奏するのか、パートで話題になることもあると思うのですが、常にどちらかに統一すべきだと僕は思います。「シングルでしかできないから」という人はぜひ沢山練習して身につけてください。「シングルでできるよこんなの余裕!」という人はまずその言葉を慎んだ上で、そのフレーズ、メロディはシングルとダブル、どちらが相応しいのかを「音楽的観点から選択」するようにしてください。
[ダブルタンギングの練習方法]
では、タブルタンギングの練習方法についても少し触れておきましょう。
タンギングはシングルも全て含めて「舌の使い方」に焦点を当てて練習しすぎてしまう場合がとても多く見られます。もちろん、舌によって行う奏法ではありますが、一番大切なのは「空気の流れ」を意識することです。
発音は、空気の流れや空気圧が存在して初めて「音(おん)」となり、舌の動きだけでは音にならないのです。
ですから、ダブルタンギングを練習する上でも、まずは空気の流れをしっかり確保し、意識することから始まります。
この作品の冒頭を使って練習してみましょう。
この楽譜を演奏できるようにするには、まずはすべてをつなげて吹けるようにします。
こうすることで、「このメロディは空気の流れ(ブレスコントロール)によって演奏できている」ことを自覚できますね。何度か吹いてみましょう。
次に、このように吹きます。
タンギングを添えても、空気の流れが遮断されずに吹けているかがポイントです。タンギングの方法によっては空気を遮断することで明瞭な発音をする場合もありますが、この場合は空気の流れを止めないタンギングの方法を模索しましょう。
これができたら、ダブルタンギングに変更します。空気の流れを意識できるようにオリジナルでは休符になっているアタマにも音符を入れました。
タブルタンギングであっても空気の流れを遮断しないで吹けるようになるまで研究を繰り返した練習をしましょう。
ここで詳しくは書きませんが、もうひとつ大切なことは「TKTK」の「K」の発音位置です。我々が日常発音している「K」、いわゆる「カ行」の発音は舌の奥(口の奥)で発音していますが、ダブルやトリプルの「K」はそこではなく、もっともっと前方位置の「T」のすぐ近くで行う、ということだけここに書いておきます。
ちなみに、この部分でいうところの八分音符はスタッカートで演奏するのが一般的だと思います。こういうのがきっと作曲者の言う「楽譜に書かれていない(中略)演奏をする上で自然に発生する表現」のひとつだと思います。
[ダブルタンギングはテヌートで演奏するもの]
ダブルタンギングというのは、素早いリズムで演奏することが通常です。
ですので、ダブルで演奏している時に、やたらとスタッカートぎみに表現しようと心がける必要はありません。聴こえてくる音は短い時間で次々と繰り出されていくのですから、結果的にスタッカートに聴こえてしまいます。
したがって、どんなに速く演奏する場面であっても、空気の流れを遮断しないで、テヌートぎみに吹けば、そのほうがむしろしっかりした音の連続に聴こえてきます。無理にスタッカートにする必要はありません。
ダブルタンギングについては過去の記事
「タンギング7(ダブル、トリプルタンギング)」
「タンギング8(ダブル、トリプルタンギング)」
を参考にして頂くか、これから始まる僕のトランペット講習会で、「タンギング」がテーマの日が数回あります。そちらに参加して頂けると非常に効率よくテクニックを身につけることができますので、ぜひご検討下さい。詳しくはこちらをクリック。
なお、上記の解説はトリプルタンギングにおいても同様の解釈です。
[吹き初めが休符の場合]
そしてもうひとつここで書いておきたいことがあります。
この作品はトランペットの吹き始めが休符になっています。このような拍のアタマや1拍目から音が始まっていない場面にはよく遭遇しますよね。ポップスやジャズでもとても多く出てきます。
こういった時、音を出すところが「吹き初め」と考えてはいけません。『最初の休符もメロディに含める』と捉えましょう。
どういうことかと言うと、演奏するとき、我々は空気を取り込んでタンギング準備をし、舌をオープンする(音が出る)、という流れで演奏をしていますね。そのときの「音を出し始めるところ=音楽(メロディの始まり)」と解釈すると、フレーズを表現できない場合がとても多いのです。
この作品の場合は、冒頭の八分休符がそれにあたります。この八分休符から吹き始めるつもりで呼吸の流れから音を出すセッティングまでを行います。もちろん、休符ですから音を出すわけにはいきませんが、舌がタンギング準備を完了していれば、口の中から空気が漏れ出ることはありませんから、意識も体も、休符の部分ですでに吹き始めている状態にしてしまいます(舌で密閉されているので実際には音が出ていない)。
「音は出さない(出せない)けれど、休符もメロディ部分と捉えてすでに演奏している状態」です。
休符の部分は舌で密閉していますから、空気を外に出せず「ストレス」を感じることでしょう。そのストレスが、1拍目のウラにある音符に対して強い力で開放され、より推進力のあるフレーズを生み出せるのです。
休符も含めて音楽と捉える。これは非常に大切なことですから、他の作品で出てきた時に思い出して下さい。
【練習番号B】
[2nd,3rdの方へ]
1stのみ、アウフタクトからメロディとして参加します。では2nd,3rdはもう少しの間ボーっとしていて良いかというと、もちろんそうではありません。
話がそれますが、みんながワイワイ盛り上がっているパーティ会場やカラオケ、飲み会などの席に後から参加したことありますか?僕はあれ、すごい苦手なんですね。最初からみんなでワイワイやっていれば何てことないのですが、途中から参加するとあのテンションに最初ついていけず、どうしたらいいか非常に戸惑ってしまうんです。みなさんはどうでしょうか。
何の話かと言いますと、この練習番号Bのように1stだけ先に演奏していて、2nd,3rdが後から一緒になる場面の時、自分の出番のところだけ意識して吹き始めようとすると、音楽に乗り遅れてしまうのです。
これ、結構聴いている人に「なんかずれたぞ」と露骨にバレてしまいます。
ですから、2nd,3rdの人たちはぜひ、練習の時には1stと一緒にメロディを吹いてみましょう。合奏ではもちろん一緒に吹けないでしょうが(指揮者に一度だけ吹かせてくれるようにお願いしてもいいかもしれません)、ともかく自分の演奏する箇所だけが音楽ではなく、ずっと演奏に参加しているのだと意識して合奏に参加してください。
[ジャンプするメロディ]
このメロディは八分音符の間に休符が入っています。
メロディの間に休符が含まれている場合、どのように表現するかを必ずイメージして演奏しましょう。
この部分はどのように演奏すると自然な表現になりますか?
ひとつの案としては「軽やかに飛び越える」というのはいかがでしょう。
その表現を実現するためにはどのようなブレスコントロールやタンギングをすると良いか、ぜひいろいろ研究してみてください。
参考までに過去の記事「スタッカート」や「「走る」ということについて3」も読んでみてください。
【練習番号C】
いわゆる「Bメロは中低音楽器がメロディ担当」のシーンで「この時トランペットは裏打ちをする」という更に定番シーンですが、ここであまり一生懸命に吹かないようにしましょう。その理由は「バテ防止」だけでなく、一音一音を一生懸命吹きすぎることでフレーズ感(音楽の流れ)をせき止めてしまい、非常に重々しく聴こえてしまうからです。
タンギングの質にこだわり、形をはっきり出すことを第一に、トロンボーンなどの近くにいる楽器のメロディをよく耳に入れてアンサンブルをしてください。音を短くする意識が強すぎると、「音」としての存在を忘れて「打楽器」のようなアタック音だけの演奏をしてしまいがちです。必ず「1つの音がたとえ短くても、全パートに音律があり、みんなで和音を作っている」ことを忘れずに演奏しましょう。
この場面は木管楽器の多くも同じことをしていますから、トランペットが前面に出てきて音楽を先導する必要もありません。バランス感を重視しましょう。
【練習番号D 1小節前(1st,2nd)】
この部分の短いファンファーレはトランペット(とユーフォニアム)だけで演奏している部分です。かっこよく「ダブルタンギング」で決めて下さい。その直後のアウフタクトに現れる主題に勢い余って流れ込まないようにしましょう。切り替える時間がないのですが、役割としても立場としても別物ですから、個人練習を積み重ねて、上手に切り替えられるようにしましょう。
【練習番号E 2小節前 Trio】
転調し、それを聴く人に感じさせる最初の動機をトランペットが担当しています。
この部分のように、順番に音を出して積み重ねていく表現を「ベルトーン」と呼びます。ベル(鐘)のように聴こえるからそう呼ばれているのだと思いますが、よく「ベルなんだから音を出したらすぐ抜いて」とfp指示をする人がいます。しかし、それをあまり極端にしてしまうと「積み重なった(和)音」がよくわからずベルトーンの魅力を充分発揮できません。音を強く張れ、とは言いませんが、やたらと音を抜こうとせず、しっかりと和音を積み重ねている自覚を持って演奏して下さい。ぜひパート練習でじっくり研究したいところですが、客観的にどう聴こえるのかを重視しないと意味ないですから、いろんな人に聴いてもらったり、録音してみたり(録音方法には注意が必要)、工夫して練習をしてみましょう。
また、この部分で重要なのは2ndの実音Hです。この音を聴いた時に「あれ?何か(雰囲気が)変わった?」と聴く人は強く感じることでしょう(転調します)。だからといってやたら強く吹いたり、特別なことをする必要はありません。きちんとバランス良く、ツボに当たった良い音で吹ければそれで充分です。
自分のパートだけでなく、結果的にこの部分はどんな和音を奏でているのか、トランペット奏者全員が予め自覚しておきたいところです。個人練習やパート練習の時に、ピアノなどを使って和音を確認し、各自インプットをしてから吹いてみましょう。
【練習番号E】
この場面は演奏はしていませんが、ミュートをセットする時間です。
結構時間があるので、余裕を持ってセットすることはできますが、とても静かな場面です。変に勢いを付けてねじ込むと「キュッ!」とコルクが鳴ってしまう恐れがあります。ゆっくり丁寧に付けましょう。(かと言って緩く入れると演奏中に落ちるかもしれないので注意)
参考までに過去の記事「ミュート1」「ミュート2」を読んでみてください。
【練習番号F】
この場面にしかない、しかもトランペットしか担当していない伴奏リズムです。課題曲マーチにたびたび出てきますね、こういうの。
手が抜けないのです。この先もずっと吹かないといけないのに。
ともかく、ここはすべてシングルタンギングでいくのが良いと思います。2拍目がシンコペーションの書き方をしていますが、あまり大げさに意識的なシンコペーションの表現をする必要はないと思います。「シンコペーションによって推進力が強まる」ことができる演奏はまわりにも良い影響を与えられると思いますので、丁寧に練習してください。
しかし、テンポが速い中での演奏ですから、2拍目真ん中の八分音符にもスタッカートを付け、結果的に1拍間すべて16分音符で吹いてしまうのが良いと思います。練習番号Cと同様、スマートに、しかしリズムをしっかり聴かせるためにタンギングの質にはこだわりましょう。ミュートをしている時には音がモゴモゴしやすいのですが、これは音のツボに当たっていない時顕著にそうなってしまいます。音のツボにしっかり当てるコントロールを得るために、まずはそれぞれの音をロングトーンで見つけてください。その後、楽譜のリズムで練習してみましょう。
もし1つのパートを複数人で吹いているようでしたら、この場面はそれぞれ1本ずつにしてもいいかと思います。交代制にすれば、この後にくるすぐミュートopenのシーンも慌てずに済みますし。
ミュートの素早いopenの仕方も、先程リンクしたミュートの記事に書いてありますので参考にしてください。
【練習番号G】
冒頭と同じ練習をしてみましょう。どんどん和音が変わって、聴いていても吹いていても不安定で気持ち悪い流れではありますが、こういった場面こそ前後の音程感が曖昧にならないよう、声に出して歌ってみるなどのソルフェージュの力で安定性を高められるよう心がけましょう。
前回の記事(前編)に書きましたが、作曲者曰くこの作品はテンポの変化がありません。ですから、練習番号Hに入る時にも、いわゆる「タメ」をしないように注意しましょう。感覚的にそうしたくなるとは思うのですが(こういったスタイルの作品の演奏経験がある人は特に)、むしろ突っ込んでいくくらいの気持ちがないと、どうしても重くなってしまいます。
また、この場面はフォルテがまだ1つです。次の練習番号Hからがff(フォルテシモ)ですから、頑張って吹きたい場面ではありますが、まだもう少しガマンしましょう。推進力のある音と明瞭なタンギング、そして感覚的テンポをしっかり持ち、スピード感溢れる演奏をすれば、f(フォルテ)でも力強く感じさせる演奏はいくらでもできます。決してデシベル的要素だけで強弱を捉えないように注意してください。
【練習番号H】
[バンド全員での音量競争にならないで!]
Animatoと書いてあるので、通常でしたらテンポは上がるはずですが、前回の記事に書いたようにテンポ変化はしないと作曲者からコメントがありましたので、気をつけて下さい。
生き生きしたメロディを表現するためにはまず「音形(音のキャラクター性)」を統一させます。具体的には「八分音符以下はスタッカート(歯切れよく)」「四分音符以上は音価を守ってしっかりテヌート(推進力を作る)」にします。
これだけ守って統一させれば、それほど頑張って吹かなくても曲の求めている雰囲気はしっかり出せます。
吹奏楽でよくやってしまうのが、音量競争です。特にTutti(全員での演奏)時に f や ff が出てくると、ここぞとばかりにみんなが一生懸命デシベル的大音量を出そうと頑張ってしまいます。中でもトロンボーンなどの猛烈に大きな音が出せる楽器や、太鼓やシンバルなどの噪音楽器は、一台だけでも全員をかき消してしまう威力を持っているので注意が必要です。
音量ばかり大きくして注目を集めようとしている政治家の街頭演説って、「うるさい」と思うだけで聞きたいと思いません(むしろ離れたい)。
それよりも美しい声やイケメン声で心地よく耳に入ってくるほうがよっぽど魅力的で聴きたい!と思うはずです。
生き生きとした雰囲気や力強い響きは、筋肉に負担をかけて絞り出すものではありません。それぞれの楽器がその楽器らしさを失わずに響かせるための様々な「コントロール」が大切です。
ぜひ街頭演説ではなくて魅力的なサウンドで演奏するように心がけましょう。
【練習番号 I (1st)】
さて出てきました、トランペットソロ。他の数多くある課題曲マーチと一線を画してユニークな箇所ですよね。
しかし、何か特別なことをしようと思う必要もありません。ここまでのffの演奏そのままで突っ込んでいくほうが失敗もしないし良いと思います。
ひとりで吹くわけですから、相対的な観点からすれば結果的に音量もfに落ちますし、場面が変わるわけでもないので吹き方も変える必要はありません。
ですので、僕が思うに、ソロのためにその前を休ませておいて、変な緊張感を煽るよりは、その前からずっと吹いていて、シレっとソロも担当してしまうのが一番安定すると思います。
吹く人も周りの人も、あまり特別扱いしないほうが良いのではないでしょうか。
ただ、少しヴィブラートをかけて「ソロらしさ」を感じさせるのも良いと思います。結局はソロを務める奏者のセンスですね。
ということで、課題曲の曲解説を一回で書くのは文字の量が多くてしんどいです(笑)。読んで頂いている方もしんどいですよね。申し訳ないです。来年からは3回か4回に分けて書こうかな。
ともかく、この作品を演奏する団体が一番多いであろうと勝手に予測していますので、ぜひパートの皆さんで読んで参考にして頂ければ幸いです。
次回からは、ついに最後、課題曲2について書いていきます。
次回も曲解説に留まらない記事にしますので、演奏されない方もぜひ読んでくださいね。
また来週!
当ブログの写真・記事等の(全部、一部問わず)無断利用、ネット上(TwitterやFacebookなどのSNSを含む)などへの無断転載を禁止します。
at 05:50, 荻原明(おぎわらあきら), 吹奏楽コンクール課題曲2016
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2016.05.24 Tuesday
吹奏楽コンクール課題曲2016トランペット解説【1.マーチ・スカイブルー・ドリーム / 矢藤学】前編
[トランペット講習会2016のお知らせ]
「ラッパの吹き方」著者の荻原明が、トランペット奏者の多くが最も苦手意識や疑問を持つ「ハイノート」「呼吸」「タンギング」「リップスラー」の4大テーマに限定し、少人数制で楽器を吹きながら理論と実践両面からのアプローチで解決の糸口を見つけていきます。
詳細、お申し込みは下のバナーからご覧ください。
「トランペット ウォームアップ本」Amazonにて好評発売中!
[荻原明トランペットリサイタル開催]
この度トランペットリサイタルを開催することになりました。
草加にあるとても素敵なサロンで演奏します。定員20名ほどの会場ですので、ご興味ございましたらぜひお早めのご予約をお願いいたします。
9月18日(日)14:00開演(13:40開場)
9月24日(土)17:00開演(16:40開場)
9月25日(日)14:00開演(13:40開場)
詳細はこちらをご覧ください。
[大編成トランペットアンサンブル参加者募集中!]
10月10日開催のプレスト音楽教室アンサンブル発表会に参加していただけるトランペット、トロンボーン、ユーフォニアム、テューバ奏者を募集しております。なかなか実現できない大編成トランペットアンサンブルを気軽に楽しく体験しませんか?練習は土日祝日に全3回ですので、参加しやすいと思います!
詳細、参加お申し込みはこちら
なお、その他に金管4重奏、5重奏、8重奏、プロ奏者とのデュエットステージ、トランペット小編成、ユーフォテューバ4重奏も企画しており、こちらも募集しております。
詳細、お申し込みはこちらのバナーよりご覧ください。
課題曲に関する進め方やお願いごとなどがございます。こちらの記事もご覧下さい「吹奏楽コンクール課題曲トランペット解説2016【はじめに】」
みなさんこんにちは!
只今、「吹奏楽コンクール課題曲トランペット解説2016」開催中です。
今週から課題曲1について解説します。これまで課題曲4,5,3と書いてまいりましたので、残すところあと1曲です。課題曲2を演奏される方、もう少々お待ちくださいね。ただ、演奏されない曲の中にも、様々な角度から書いておりますので、かなり参考になることがあるはずです、ぜひ一度目を通してみてください。
これまで書いてきた課題曲解説の本文をご覧になりたい方は以下をクリックしてください。
↓
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」前編
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」後編
課題曲5.焔 前編
課題曲5.焔 後編
課題曲3.ある英雄の記憶 〜「虹の国と氷の国」より 前編
課題曲3.ある英雄の記憶 〜「虹の国と氷の国」より 後編
「まってました!」と思った方、たぶん多いと思います。アンケートをとったわけではありませんが、きっと今年のコンクールのほとんどの団体はこの作品を演奏されるのではないでしょうか(消去法で)。
さて、ほかの作品もそうでしたが、まずはスコアに書いてある作曲者本人によるコメントの中からいくつかピックアップしてみたいと思います。
《発想記号に含まれる意味》
作曲者は「テンポは終始一貫した設定であること」とコメントしているのですが、その先にこう書かれています。
「発想記号([中略]Animato Grandioso)は曲想のためのもので、速度に関する意図はありません。」
これには少々驚きました。というのも「Animato」という発想記号は、「生き生きと速く、元気に速く」という意味で、一般的にこの記号が出てきたら、テンポが速くなります。ですから、このコメントを読まずに楽譜だけを見た人の多くは、終始一貫したテンポで演奏せよという作曲者の指示はどこからも得ることができず、様々な解釈で演奏することになるでしょう。
ですからこの場合、もしテンポ変化をしてほしくないと思うのであればAnimato以外の楽語を用いるとか、メトロノーム記号を書くなど「譜面上だけで演奏する人全員が同じように理解できる書き方」をすべきだと思います。
特にこの作品では一番盛り上がるクライマックス(練習番号H)にAnimatoが書かれているので、テンポを上げて演奏しても何ら違和感がありませんし、そのほうが盛り上がるので、そう演奏してしまう団体がいるのではないかと思います。しかし、コンクールの場でテンポを速くしてしまったことで審査員に「コメントを読んでないのかね?」と、減点対象になるのだとしたら、その団体はとてもかわいそうです。
作曲者は通常、楽譜だけで演奏者に意思(意図)を伝えるよう心がけなくてはならないし、そのために楽譜があります。
現代音楽のように特殊な奏法や、一般的ではない楽譜の書き方をしていたり、演奏(楽器)以外に必要なものがあり、それをどのように使用するのかなどに関しては別に書き込んだ指示書があっても仕方ありませんが、この作品は普通の吹奏楽編成の楽曲であり、普通の(コンサート)マーチであり、ましてや「課題曲」なのですから、徹底して欲しいと感じました。
どうあれ、作曲者は「テンポは一定」と(わかりにくい場所に)書いてあるので、コンクールに限りそれを遵守したほうが良さそうです。
《演奏者任せの吹奏楽譜は本来必要のない一手間がかかる》
そしてコメントの後半にこう書かれています。
『…「場面ごとに表情をつけること」です。楽譜に書かれていない「デュナーミク」「スタッカート」「テヌート」「アクセント」など、演奏をする上で自然に発声する表現を大切にしてください。むしろそれらを奏者に託すため、楽譜には最小限のことしか書いていません。」
おっしゃることはとてもよくわかります。教育的配慮も含まれているかもしれません。ちなみに「デュナーミク(ドイツ語)」はこのブログでは「ダイナミクス(英語)」と書いています。fやpといった音量変化、強弱のことです。
このコメントを見た瞬間、課題曲4のコメントを思い出しました。今回の課題曲解説でも課題曲4についてはすでに書いているので、詳しくはそちらをご覧頂ければと思いますが、ソロの楽譜ならまだしも、大勢で演奏をする吹奏楽譜でアーティキュレーションの丸投げはいかがなものか、と思うのです。
この作品はマーチですし、とてもシンプルなメロディで、構成も明確です。ですので確かに多くの奏者が統一した「一般的な表現」になるとは思います。
ただ、吹奏楽は数十人でひとつの作品を作り上げるのですから、最初の段階で各奏者の解釈がバラバラだと、本来は必要でない「一手間」が生まれてしまうのです。それが、
「指揮者があらかじめどのように吹くのかを決めて指示をしておく」
ということ。本来このアクションは必要ないものです。楽譜にさえ書いておけば、各奏者は譜読みの段階でほぼ同じ見解、方向性を持つことができるわけで、スタッカートが書いてある音符に対してわざわざテヌートで表現しようとする可能性はとても低いはずです。とてもキレのあるスタッカートを演奏するか、優しく弾むスタッカートをするかは奏者によって異なる可能性はありますが、それでも奏者全員「ここはスタッカートだ」と認識しているだけで、向いている方向は同じになりますから、そういった状態で指揮者が、
「この場所のスタッカートはこのように演奏しましょう」と決定することで、音楽がまとまっていくわけです。これが通常(理想)の合奏です。
しかし、アーティキュレーションがまったく記されていない楽譜の場合、そうはいきません。解釈は無限に広がってしまうし、それを否定することもできません。いわば奏者によって向いている方向がバラバラになってしまうのです。もっと良くないのが経験年数の少ない奏者が多い部活動の場合「アーティキュレーションについて何の意識も持たない」という奏者が生まれてしまう可能性があることです。ただ音符をリズムに合わせて並べるだけだと、その音楽の持っている性質がまるで発揮されない演奏になるかもしれません。
したがって、効率よく合奏をしたいのであれば、パート譜を配る時に「この場面はスタッカートです」「ここはテヌートです」のような指示をするという手間がかかり、結局、作曲者が最初から書き込んでおけばよかったのでは?ということになるのです。
本来合奏は各奏者が(楽譜に書かれていることをしっかりと)作り上げてきた音楽を尊重しつつ、「方向性を定めて作品を仕上げる」場であり、楽譜に書かれていないことをひとつひとつ指示したり確認したりする時間ではありませんし、そこに時間をかけることは非常にもったいと思います。時間がとても限られている部活動であればなおのこと、ですよね。
ですから、少し話は違いますが、合奏でひとりの奏者を捕まえて「テンポ!(指揮棒で譜面台バシバシ叩く)」とか「ピッチ悪い!(チューナーで周波数を確認する)」とか、本当はそういうことをする場面でもありません。理想を言えば合奏までに徹底的にそれを作り上げていくことが大切なのです。こういうの、とっても効率悪いです。
課題曲4もそうでしたが、作曲された方は職業音楽家ではないようですから、きっとご自身が経験されてきたこれまでの「音楽作り」のみから生まれた独特な楽譜の書き方や解釈になってしまったのかもしれません。課題曲としてはいかがなものでしょうか。
《効率の良い練習とは》
効率的の良い練習とはどのようなものか、僕のイメージする理想的な楽曲完成までの進め方を書いてみます。
[個人練習:吹けないところを吹けるようにすることが先]
個人練習というと、楽譜を「アタマから終わりまでなんとなく吹いている」方がとても多いです。もちろん、楽譜をもらった直後に一回通すのは良いと思います。それも目的意識があれば、ですが。
ある程度の経験年数がある人は実際に音を出さなくても楽譜を見ただけで「ここは吹けそうだ」とわかると思います。そういったところは後回しにして、ここは時間をかけないと吹けないだろうな、というところだけをピックアップしておきます。大きな作品であれば吹けない箇所に鉛筆で薄く印をつけておいてもいいかもしれませんね(あとで簡単に消せる程度)。
吹けないところが出てきたら、まず「なぜそこが難しいのか」原因を考えます。フィンガリング(運指)が難しいのか、リズムが理解できていないのか、音が取りにくいのか、楽譜そのものが読みにくい(書き方が悪い)のか、など。
原因がわかったら、今度はそれを解決するための方法を模索します。決してやってほしくないのが、難しい箇所を何万回も吹いているうちに「惰性で吹けるようになった」という状態です。この方法は、違う難しい箇所や作品に遭遇した時にまた同じように何万回も吹かなければならなくなる応用がきかない練習です。時間と労力ばかりかかってしまい、しかも成長しません。
難しく感じる場所には必ず理由があるので、その原因を見つけてください。
例えばフィンガリングが難しいのであれば、まずはその箇所の調が何かを探ってください。一概に○調と言い切れない場合や何調かわかりにくい場合もありますが、わかる範囲で箇所の音階を理解し、吹けるようにします(できれば暗譜で音階を行ったり来たり、スタート地点がどこであってもスラスラ吹けるまでにしておく)。
その後、難しいと思われる(指がひっかかってしまう)最小限のポイントを見つけてください。多分、音2つか3つだけがそのメロディを吹きにくくしていると思います。その最小限の音の並びを、リズムやテンポを変えて徹底的に練習をします。
練習方法については過去の記事「フィンガリング練習」を読んでみてください。
また、リズムや音が取りにくい場合は、わざわざ楽器を使わなくてもいいですよね。ピアノを使って声に出して歌えるようにするとか、そういったアプローチから入っていくほうが効率的です。
そのような練習が先決です。
[パート練習:目的や目標を決めてから行う]
パート練習はきっとどこの団体でもやっていることでしょう。
しかし、惰性で行ってはいけません。大切なのは目的、目標です。
楽譜を最初から最後まで通して「…うん、いいんじゃない(よくわかんないけど)」みたいな展開にだけはなりたくないのです。パート練習という時間をただ過ごせて満足、となってしまうのは非常によくありません。
こうなってしまう一番の原因は「目的や目標設定がはっきりしていないから」です。パート練習は何を目的とし、どんな結果を求めて行うのかをそのつどリーダーさんや先輩などが決め、それができるようになる(全員が理解できる)まで行います。したがって、その目標に到達できればすぐに終えてしまっても良いと思うのです(他に目標がなければ)。逆に解決しない場合はいつまでもパート全員で悩まずに、誰のどんなところを解決すべきかを具体的にし、「どうしたらそれが解決できるのか」を課題に個人練習に立ち返るなどして、また後日パートで集まる日程を決めるのが良いと思います。
そして、パート練習の時にはメトロノームや、パートリーダーさんのような立場の人が床だのイスだの机だのに打楽器のバチでバンバン叩いてテンポを取ることは決してやってはいけません。手拍子も必要ありません。そんなことをするのでしたら、一緒に吹いてください。
室内楽をイメージしてもらえればわかると思いますが、各自がしっかりしたテンポ感を持っていさえいれば指揮者などいなくても意思疎通はすぐにできますから、テンポは乱れません。逆にテンポが乱れてしまった場合、その原因を見つけて考え、そして解決することで、各奏者の演奏レベルも上がります。メトロノームのカチカチ音に合わせて音楽を作るというのは、フレーズ感や音の処理に対して意識を持てずに機械的で雑な演奏になる原因のひとつです。何よりも各奏者がメトロノームと一対一の関係に集中してしまい、隣の人の演奏にまったく関心を持てなくなってしまいます。これではアンサンブル力を培うことはできません。メトロノームを音楽を司る神様のように崇めるのはやめましょう。メトロノームというのは「おおよそのテンポがどのくらいなのか」を瞬時に「確認する」ただの道具であり、演奏しながら使うものではありません。
むしろ使わないほうが自分の中のテンポ感培われて、良くなります。
[セクション練習:それよりも曲に合わせた様々な編成で合わせてみましょう]
パート練習以外に「セクション練習」をしているところも多いと思います。要するに金管楽器全員での練習です。それはそれで非常に中身のある練習ではありますが、意外にも金管全員(だけ)で合わせて意味のある箇所というのは結構限られているものです。
ですので、なんとなく「今日はセクション練習しよう」というのではなくて、「練習番号○を完成させるためにセクション練習をしよう」といった具体的な目標を持った上で集合することが大切です。パート練習と同じ。当然ながら、セクション練習を行うまでに個人の譜読み、パートでの練習をしっかりを築いた上でないと意味がありません。そしてこの場合もメトロノームに合わせるようなことはしてはいけません。金管アンサンブル(10人以上でも)指揮者がなくても曲を完成させることはできるのです。もちろん、指導してくださる先生がいる場合は別です。
そして、もっと大切なのが、「場面ごとに関係の強い楽器との練習」です。例えばある場面でトランペットとクラリネット、フルートが同じメロディを担当しているのであれば、そのメンバーで合わせをしてみるとか、トランペット3rdとホルン、テナーサックスが関連性の高いことをしているのであればそのメンバーだけで合わせるなどです。トランペットパートが演奏すると、それに呼応してトロンボーンが動きだす、なんて場面があればそれもチェックしておきたいですよね。
しかし、これをしている団体が結構少ないんです。多分、スケジュールを組むのが大変だからだと思います(先生が)。しかし、工夫していけばそんな事務作業はいくらでも解決できますから、「面倒だからパート練習、セクション練習、合奏」みたいな単純な区分けだけで毎日の練習をしてほしくないと思っています。
結果的に、パートやセクションで行うべき練習を合奏でやってしまっているところが多いです。しかしこれを合奏でしてしまことで該当しない奏者がとても無駄な時間を過ごすことになってしまいます。身に覚えありませんか?合奏中ずーっと誰かが捕まっていて、他の人が何もすることなくボーっと座っているだけの無駄な時間。個人練習でもしていたほうがよっぽど意味がありますよね。
ですから合奏を進める方も、もしセクションに問題があるな、とわかったら課題だけ出しておき、合奏ではひとまず置いておくなどの工夫や割り切りが大切だと思います。
指揮者がなんでもかんでも合奏で片付けてしまうと、奏者は「合奏でなんとかしてくれる」と人任せになりがちで、自主性がどんどん失われてしまいます。
ぜひ合奏では「それぞれが持ち寄った完成品」をひとつの素晴らしい大きな作品として磨き上げていく時間であるよう、心がけてください。
これらの話はもちろん理想です。それぞれの団体の様々な事情によってはこのようにはできないかもしれません。ともかくどうあれ「効率良い練習」を毎日毎回心がけていくことが、結果的に完成度の高い演奏になりますので、工夫して実践してみてください。
ということで今回はここまでです。
来週は作品に沿って解説をしていきます。この曲を演奏されない方も、トランペットがよく直面するリズムやフレーズを練習するための手順を解説なども掲載しますので、ぜひ引き続きご覧ください。
それではまた来週!
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2016.05.17 Tuesday
吹奏楽コンクール課題曲2016トランペット解説【3.ある英雄の記憶 〜「虹の国と氷の国」より / 西村友】後編
みなさんこんにちは!
只今、「吹奏楽コンクール課題曲トランペット解説2016」開催中です。
これまでに課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」、課題曲5「焔」について書きました。本文をご覧になりたい方は以下をクリックしてください。
↓
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」前編
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」後編
課題曲5.焔 前編
課題曲5.焔 後編
課題曲3.ある英雄の記憶 〜「虹の国と氷の国」より 前編
なお、課題曲1,2,についてはまだ掲載しておりません。順次アップしていきますので少々お待ち下さい。
今週は課題曲3の後編。曲に沿って解説をしていきますが、この作品を演奏されない方も、そもそも課題曲を演奏されない方も参考になる内容ですので、ぜひご覧ください。
【冒頭】[音楽的に揃うタテの線]
冒頭はトランペットパートだけで演奏するファンファーレです。
よくテンポに合わせる時には指揮者(指揮棒)をよく見る、なんて言いますが、指揮棒の動きにぴったり合わせることなど不可能です。指揮棒は細く長く、ブレながら宙を舞っているわけですから、どこが拍のアタマかなんてわかりません。人間が動かしているのものに絶対的位置など設定できるわけがないのです。指揮者はメトロームではありません。もっと重要な役割を持った人なのです(指揮者について詳しくは「音色に対するこだわり」、「理想的なパート練習 3」)。
では何で合わせるのか。
奏者ひとりひとりが確固たるテンポを演奏前に強く持つことです(初見合奏でなければどのくらいのテンポか、ある程度想像できると思います)。
まずはここから。
そしてその時その時の指揮者のうごき、表情から察することのできる「意志」「表情」「雰囲気」「おおよそのテンポ」を参考にし、安定した正しく、この場面に合った呼吸をし、体に負担がかかるような不自然なことをせずに音を出します(指揮者は機械ではありませんから、まったく同じテンポを毎回振ることはできませんし、ありません)。
これで「音楽的タテの線」は相当揃うと思います。
音楽というのは、機械にプログラミングされた精密なものではありません。あくまでも人間が行っていることですから、毎回の演奏が少しずつ違って当たり前だし、それが面白いのです。
吹奏楽の世界、特にコンクールに向けた合奏では、それがいかにも「良くないこと」のように捉えられるのですが、「安定感がある」ことと、「人間らしさ=不安定」はまったく別物です。もちろん、ミスや演奏が崩れてしまうことを望むわけではなく、人間が作り上げるものに完璧に同じものは存在しない、ということです。
工場のロボットが何百個、何千個と変化なく生産するのと同様な音楽を作ろうとしてはいけません。音楽は、職人がひとつひとつ丁寧に作り上げる陶芸や彫刻、大地に咲く花のような、方向性や目的、意志は同じであっても、ひとつひとつが違う魅力を持ったものでなければならないのです。
話が逸れました。
ええと、冒頭はすべての音にアクセントがついています。
「アクセントはタンギングの強さで表現する」と舌に力を入れて頑張ってしまう方がいらっしゃるのですが、アクセントというのは舌に力を込めて表現するのではありません。音色や音の中身(音圧)、音の推進力など様々なものが要素になります。
そもそも、「アクセントが書いてあるからアクセントで吹きます」というのはあまりにも安直です(しかも意味がよくわからない)。こういうときは次のように考えてみましょう。
「アクセントがついているこのメロディは、どんな演奏になったらかっこいいのだろうか」
「作曲者はなぜこの場面にアクセントをつけたのだろうか(どんなイメージを持っているのだろうか)」
「もしもアクセントがなかったらこの場面はどうなってしまうのか」
こういった感じで考えてみます。
特に最後の「もしもアクセントがなかったら」という「真逆の発想」は、様々な場面でとても明確に答えを導きだせる方法です。例えば、
「この場面にクレッシェンドがなかったら」
「(pの場面が)もしffだったら」
「ここにrit.がなかったら」
「フェルマータがなかったら」
など。「それだと物足りないなあ」「かっこ悪い!」「そんなんじゃなくて、もっとこうしたい!」などと思えれば、自然と楽譜(作曲者)が求めているイメージに導かれます。ぜひいろいろな場面でこの方法を使ってみてください。
また、アクセントについては過去の記事「アクセント」も参考にしてください。
【練習番号A】
冒頭のファンファーレがピークになるのが練習番号Aアタマです。この先、トランペットの音はなくなりますが、練習番号Aの3小節目からデクレッシェンドがあり、練習番号Bに向かって落ち着いていきます。
トランペットが演奏している間はデクレッシェンドがまだ出てこないので、意識的にデクレッシェンドにならない吹き方=音を張り続けている状態を心がけます。
音を張り続けているように聴こえるためには、圧力を維持し続けるための「力」や「推進力」が必要です。「維持しているつもり」だけでは、減衰して聞こえるかもしれません。特に音の吹き終わる瞬間(音の処理)が緩むと、それだけでデクレッシェンドに聴こえてしまうので、最後の最後まで吹ききる(むしろ音の処理はクレッシェンドするくらいのつもりで)演奏を心がけてください。
【練習番号E】[文字によるアーティキュレーション指示は誤解を招きやすい]
stacc.の指示があります。これはもちろん「スタッカート」のことです。この箇所、スタッカートに対して2通りの考え方ができます。なぜなら、文字で出てきた時というのは、同じ音価(音符)が続く時に多く用いられるからで、「これから先に出てくる音符すべてにスタッカート」という捉え方が一般的だからなのです。しかしこの部分、三連符+四分音符のパターン。よってこう考えられます。
考え方1:三連符だけスタッカート
考え方2:四分音符も全部スタッカート
最終的には指揮者の判断になりますが、もし四分音符もスタッカートだったら、わざわざ四分音符で書くかなあ?という疑問が残ります。そうだとしたら四分音符ではなく八分音符で書かないかなぁ、と。
これも、もしかするとわざと選択の幅を増やしてのことかもしれません(いちいち音符に入力するのが面倒だったとも考えられますが)。
文字によるアーティキュレーション指示は、解釈がやっかいです。楽譜によっては、どこまでがその指示なのかわからないものもあります。もし、いちいち音符に入力するのが面倒だとしても「こうして欲しい」と具体的なイメージがあるのでしたら、文字にしないで音符すべてに書いたほうがいいです。僕はあまり好きではないです。
ともかく、三連符にスタッカートをつけることは明白ですので、奏法について解説します。
スタッカートが連続している時には、次のスタッカートを演奏するために、舌をすぐ次の音を出すための準備(=舌で空気の流れを止める動き)が必要です。
その際、舌がopenしている時間を短くするために(音を短くするために)、「すぐ舌で塞がなければ」と思うあまり、きちんと音になる前に塞いでしまうことが多発します。
その結果、きちんと音のツボを捉えられず、ピッチも音色も不安定なスタッカートの音になってしまいやすいのです。
それぞれの音がしっかりと鳴っている状態(=音のツボに当たっている状態)を出すためには、その音が一番鳴る口の中の空間をたとえ瞬間的であっても作る必要があります。なので、スタッカートが連続する時には、口の中(舌)は結構あわただしく動いているのです。ただし、素早い動きなだけで、力をかけているわけではありません。あくまでも「滑舌よく動く舌」であるだけなので負担はかかりません。
この作品に限らず、スタッカートはどこにでも出てきますから、ぜひ基礎練習の時間にしっかり音のツボに当たっているスタッカートを演奏できるよう、練習してみてください。
音のツボに関しては「ハイノート(ハイトーン)へのアプローチ6」を読んでみてください。
【43小節目(1st,2nd)】
「en dehors(オ・ドール)」=表面に出して、という意味のフランス語です。正直、初めて見ましたこの楽語。トランペットだけがメロディを担当していますから、もちろん先頭に立って主張するようにしましょう。わざわざフランス語で書く必要があるのか、そもそも書く必要があるのか疑問。
【練習番号G】[リップトリルの練習をしましょう]
引き続き主旋律をホルンと一緒に演奏しています。注目すべきは47小節目。フィンガリングが若干難しいですね。まずは「付点8分+16分」と「三連符」のリズムがしっかり差別化できるような演奏を心がけてください。いわゆる付点音符(1拍目,4拍目)のリズムが緩くなり、三連符寄りになってしまうと、途端にだらしない演奏になってしまいます。
また、1stに関しては3拍目の最後の音から4拍目の「実音G→H」が少し吹きにくいかと思います(47小節目、51小節目)。Gの音をフィンガリング3番に置き換えて演奏するのも手ですし、自身の成長を目指すならG→H音に留まらずに、たくさんのリップトリルを毎日の練習メニューに取り入れてみましょう。トランペットはこのような3度音程の移動が(特に音域が高くなるにつれ)同じフィンガリングで演奏することが多くなり、そこで上がりきれずに音をはずしてしまうことが多くなりがちです。ですので、リップトリル練習は常に練習に取り入れておきたいものです。
【練習番号H】
バンド全体のアンサンブルが非常に難しいところです。
トランペットパートに限定して書きますが、まず、三連符のアタマが休符になっているとき、休符を「ウン」とか「ン」と数えたり意識しているとそれだけで出遅れてしまいます。休符の次にある音符が、拍のアタマに音があるつもりで吹くくらいがちょうどよくなります。1拍1拍をウンウンウン、と数えながら吹けば吹くほどフレーズ感がなくなり、出遅れる原因になるので注意してください。
また、トランペットが音を出していない休符や拍の部分は低音楽器が演奏してる「掛け合い」のような状態です。その低音楽器をきちんと聴いてから入ろうとするのも確実に出遅れる原因になります。他のパートを聴くことは決して悪いことではありませんが、こういった厳しいタイミングでアンサンブルをする場所で他の奏者の音を聴きすぎるとズレやすいので注意してください。
練習番号Hの3小節目(55小節目)は「三連符の8分音符ひとつ」を「1」としたときに、1〜2拍目を「2+2+2」と考えることもできますね。解釈はいろいろできますから、ぜひいろいろな可能性を考えて、指揮者とともに良いアンサンブルを構築できるように工夫して練習してください(工夫しない練習とは、例えばメトロノームのカチカチ音に合わせ続ける練習とかです。これでは何の意味も発展も進歩もありません)。
【練習番号J】[演奏しやすい楽譜ほど作品の表現の幅がひろがります]
トランペットの出番はありませんが、この箇所に書いてある「Pochi. più mosso」の「Pochiss.」は「Pochissimo(ポチッシモ)」で、「とても少し」という意味です。楽譜に出てくる文字で最後に「 . 」が付いていたら文字が省略されていると思ってください。
ですので、例えば「rit.」を「リット」と、さもそれが正式な単語かのように呼ぶ方がとても多いのですが、表記上そうしているだけで、声に出す時は「リタルダンド」と呼ぶほうが良いのでは?と僕は勝手に思っているので省略形であまり言いません(伝われば別にどうでもいいことですけどね)。そういえば「diminuendo」のことを「ディム(dim.)」と呼ぶ人には出会ったことないですね。ディム…ガンダムのモビルスーツみたい。
ところで、「少し」というのはみなさんもご存知「poco(ポーコ)」です。「Pochissimo」はこれよりももっと少しだけ、という時に使うのかもしれませんが、pocoで充分ではないか、細かすぎやしないかと思います(作曲者のこだわりがあるのかと思うのですが)。pocoという超メジャーな楽語があるにもかかわらず、一瞬「なんだっけ?」と思わせる出現率の低い楽語を用いてくるところなんかも「わざとかなぁ?(教育的配慮?)」と勘ぐってしまう理由のひとつです。
具体的なテンポ表記(メトロノーム表記)がされていない以上、どのくらいテンポを落とすのかは指揮者と演奏者次第ということなのですから、楽譜上の「少し」も「ほんの少し」も変わらないと思うのです。
作曲者のこだわりよりスムーズに演奏できる楽譜(楽語)で構成されていたほうがより自然に演奏できるし、発想の幅が広がり、音楽を作る楽しみも聴く楽しみも増えると思っているのは僕だけでしょうか。楽語ひとつで細かいこと言い過ぎ?(笑)
ちなみに練習番号Kの1小節前にも「pochiss.rit.」が出てきますが、こんなの初めて見ました。poco rit.じゃダメですか?(2位じゃダメですか?←古い)
【78小節目】[高音域をやさしく演奏する]
吹き始めはその1小節前ですが、78小節目からは特に1stはG音まで上がります。高音域を吹くと、大きくて強く、鋭い音を「つい」出して(出て)しまう方は、今こそ他の方法で高音域を出す技術を身につけたいところです。
吹奏楽は特に高音域を求められるときは往々にして大きな音量でもあります。また、「出さなきゃいけない」プレッシャーに負けて「どんな手段でもとにかく音を出すことが先決」と無理な奏法で高音域を吹くクセを持ってしまった人がとても多いです。
これらに共通していることは「力によって出す」という方法です。
音量が大きくなっているときは、腹筋を強く使っています。腹筋に(どのような使い方であれ)力がかかると、お腹の中にある内臓をひとつにまとめている袋、「腹腔(ふくくう)」に圧力がかかり、腹腔のすぐ上にある横隔膜を強く押し上げます。トランペットを吹いている最中は(通常)鼻から空気は抜けませんし、アパチュアという小さな穴しか出口がないので、結果的に空気が溜まっている肺から口の中までの空気圧が高くなります。
そうすると、唯一の空気の出口であるアパチュアに勢いよく空気が流れていくのです。
この非常に力強い空気の流れは、スピードもとても速くなりますから、結果的に音量の大きい高音域が出るのです。
これは音を出す方法のひとつですから、度が過ぎた使い方でなければ問題ありません。しかし、高音域と大音量はイコールでは結べません。ピアニッシモで高音域を出す場面は当たり前に出てきますから、そのための奏法を練習する必要があります。
具体的にどうすればいいのか。過去の記事にハイノートについてとてもたくさん書いてあります。こちらから参考になる記事を見つけてみてください(ハイノートカテゴリー記事群にジャンプ)。
この78小節目はまさに木管楽器と調和した音量を求められています。トランペットらしい美しい音色はそのままに(変にブレンドさせた音を作ろう=トランペットらしくない音を出そうと思ってはいけません)、良いバランスでアンサンブルしたいところです。
【練習番号M】[ブレスは”休符”や”隙”を見つけてするものではありません]
最初に1stが旋律を担当し、2nd,3rdが途中から引き継ぎます。このメロディは、ついつい1小節ごとに(付点4分音符を吹いた後に)吹き直したくなる人(ブレスをとってしまう人)が多くなりそうですが、メロディとしては最低でも4小節ひとフレーズで吹いてください。
フレーズについては過去の記事「フレーズ」を参考にしてください。
長い音や休符が出てくると、それらすべてを「ブレスポイント」と思ってしまうのは間違いです。休符は「休(む)」という字を使いますが、休息時間ではありません。音が出ていないだけで音楽は常に進んでいるのです。
そして、ブレスは「隙」ができたから吸うのではありません。音楽的な流れの中に自然に組み込める「ブレスポイント」がたくさんありますから、それをぜひ見つけてください。一番良くないのは「ブレスはできるだけするものではない(ブレスしないで吹けたらどんなに素晴らしいだろうか!)」と思うことです。先ほどと矛盾しているようですが、ブレスを厄介者のような存在にすると、どんどん「音楽」「作品」から呼吸が分離してしまい、実際に聴いていても、本当にブレスが邪魔な存在に感じてしまうのです。
しかし、呼吸をすることはだれもが生きるための当然の行為なのですから、呼吸(ブレス)すらも音楽の中に取り込んでしまえば、決して「邪魔者」や「ないほうがいいもの」にはなりえないのです。
【115小節目〜(1st)】[朗々と響かせて演奏するために必要なこと]
もうここは完全にトランペットソロであり(もちろん複数で吹いてもいいのですが)、腕の見せ所です。大きな音でしっかり吹こう、と思うのは間違っていませんが、それだけのボキャブラリーからはどうしても「頑張る」「力を込める」という方向性になりがちです。そこで、もう少し具体的に奏法面からもしっかりとアプローチして演奏できるようにしましょう。
客席までトランペットの素晴らしいサウンドを朗々と届かせるためには、「音のツボ」に当り続けていることが必須です。ツボに当たっていないのに頑張って吹いていても客席に音は届かず(届いても音色が悪い)体力ばかりが消耗され、報われません。言い換えるならば、音のツボにさえ当たっていれば音というのはとりあえずしっかり客席まで聴こえます。
次に「音の中身」を意識しましょう。言い方を変えればこれは「音の密度」であり、「圧力バランス」がそれを決定します。度を超さないバランスの良い「強い圧力」でそれぞれの音符の最後までブレることなく吹き続けることが大切です。楽譜に指示がないのに音を抜いたり(音を抜くクセが出てしまったり)、2分音符なのにそれよりも短い長さで吹き終わってしまうというのは良くありません。
もうひとつ大切なのはタンギングです。タンギングというのは例えるなら「音の外壁」です。タンギングの種類によって鉄製の外壁か木製か、または綿のコーティングか、といった具合に変化します。タンギングの質を変えるのは「発音」です。舌にかける筋力ではありません。
簡単にいえば「Tを頭文字にした発音」を用いると、一番明瞭でしっかりした音の外壁が作られ、「D」「N」「S」の順番で徐々に柔らかい外壁になっていきます。
タンギングはすべて「Tu(トゥ)」だと思っている方が多いのですが(そういう書き方をしている教本が多いのが悪い)、頭文字を変えることで外壁の質が変化し(「Du(ドゥ)」「Nu(ヌ)」など)、母音が変化することで出す音域が変化します(「To(トォ)」「Tu(トゥ)」「Ti(ティ)」など)。
もうひとつは「ヴィブラート」です。好みもありますが、ソロ(っぽい)シーンには積極的に使うべきだと僕は思っています(ハモってる場合はトップ奏者、メロディ担当限定)ヴィブラートをかけることで「他の楽器との差別化」がより明確になります。要は目立つんですね。かっこいいヴィブラート、ぜひかけてみてください。
この作品は短いながらも変化に富んでおり、演奏していても聴いていても楽しいのでは、と思いました。
演奏する上でまず大切なのは「イメージ」です。そのイメージは、自分の頭の中にあるものですから、誰にも否定されません。そして、そのイメージを演奏に反映させることも誰も咎めません。もちろん、イメージが自分の中から飛び出した瞬間から、誰かの目や耳にとまるわけですから、ここで何かしらのアクションが起こる可能性はありますが、音楽とはそもそもそういうものなので、そこか覚悟が必要です。ぜひこの作品、場面から受けるイメージを演奏に思い切り出してください。
課題曲3の解説はここまでです。次回は他の作品について書いていきますので、引き続きおつきあいください。
それでは、また来週!
只今、「吹奏楽コンクール課題曲トランペット解説2016」開催中です。
これまでに課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」、課題曲5「焔」について書きました。本文をご覧になりたい方は以下をクリックしてください。
↓
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」前編
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」後編
課題曲5.焔 前編
課題曲5.焔 後編
課題曲3.ある英雄の記憶 〜「虹の国と氷の国」より 前編
なお、課題曲1,2,についてはまだ掲載しておりません。順次アップしていきますので少々お待ち下さい。
今週は課題曲3の後編。曲に沿って解説をしていきますが、この作品を演奏されない方も、そもそも課題曲を演奏されない方も参考になる内容ですので、ぜひご覧ください。
【冒頭】[音楽的に揃うタテの線]
冒頭はトランペットパートだけで演奏するファンファーレです。
よくテンポに合わせる時には指揮者(指揮棒)をよく見る、なんて言いますが、指揮棒の動きにぴったり合わせることなど不可能です。指揮棒は細く長く、ブレながら宙を舞っているわけですから、どこが拍のアタマかなんてわかりません。人間が動かしているのものに絶対的位置など設定できるわけがないのです。指揮者はメトロームではありません。もっと重要な役割を持った人なのです(指揮者について詳しくは「音色に対するこだわり」、「理想的なパート練習 3」)。
では何で合わせるのか。
奏者ひとりひとりが確固たるテンポを演奏前に強く持つことです(初見合奏でなければどのくらいのテンポか、ある程度想像できると思います)。
まずはここから。
そしてその時その時の指揮者のうごき、表情から察することのできる「意志」「表情」「雰囲気」「おおよそのテンポ」を参考にし、安定した正しく、この場面に合った呼吸をし、体に負担がかかるような不自然なことをせずに音を出します(指揮者は機械ではありませんから、まったく同じテンポを毎回振ることはできませんし、ありません)。
これで「音楽的タテの線」は相当揃うと思います。
音楽というのは、機械にプログラミングされた精密なものではありません。あくまでも人間が行っていることですから、毎回の演奏が少しずつ違って当たり前だし、それが面白いのです。
吹奏楽の世界、特にコンクールに向けた合奏では、それがいかにも「良くないこと」のように捉えられるのですが、「安定感がある」ことと、「人間らしさ=不安定」はまったく別物です。もちろん、ミスや演奏が崩れてしまうことを望むわけではなく、人間が作り上げるものに完璧に同じものは存在しない、ということです。
工場のロボットが何百個、何千個と変化なく生産するのと同様な音楽を作ろうとしてはいけません。音楽は、職人がひとつひとつ丁寧に作り上げる陶芸や彫刻、大地に咲く花のような、方向性や目的、意志は同じであっても、ひとつひとつが違う魅力を持ったものでなければならないのです。
話が逸れました。
ええと、冒頭はすべての音にアクセントがついています。
「アクセントはタンギングの強さで表現する」と舌に力を入れて頑張ってしまう方がいらっしゃるのですが、アクセントというのは舌に力を込めて表現するのではありません。音色や音の中身(音圧)、音の推進力など様々なものが要素になります。
そもそも、「アクセントが書いてあるからアクセントで吹きます」というのはあまりにも安直です(しかも意味がよくわからない)。こういうときは次のように考えてみましょう。
「アクセントがついているこのメロディは、どんな演奏になったらかっこいいのだろうか」
「作曲者はなぜこの場面にアクセントをつけたのだろうか(どんなイメージを持っているのだろうか)」
「もしもアクセントがなかったらこの場面はどうなってしまうのか」
こういった感じで考えてみます。
特に最後の「もしもアクセントがなかったら」という「真逆の発想」は、様々な場面でとても明確に答えを導きだせる方法です。例えば、
「この場面にクレッシェンドがなかったら」
「(pの場面が)もしffだったら」
「ここにrit.がなかったら」
「フェルマータがなかったら」
など。「それだと物足りないなあ」「かっこ悪い!」「そんなんじゃなくて、もっとこうしたい!」などと思えれば、自然と楽譜(作曲者)が求めているイメージに導かれます。ぜひいろいろな場面でこの方法を使ってみてください。
また、アクセントについては過去の記事「アクセント」も参考にしてください。
【練習番号A】
冒頭のファンファーレがピークになるのが練習番号Aアタマです。この先、トランペットの音はなくなりますが、練習番号Aの3小節目からデクレッシェンドがあり、練習番号Bに向かって落ち着いていきます。
トランペットが演奏している間はデクレッシェンドがまだ出てこないので、意識的にデクレッシェンドにならない吹き方=音を張り続けている状態を心がけます。
音を張り続けているように聴こえるためには、圧力を維持し続けるための「力」や「推進力」が必要です。「維持しているつもり」だけでは、減衰して聞こえるかもしれません。特に音の吹き終わる瞬間(音の処理)が緩むと、それだけでデクレッシェンドに聴こえてしまうので、最後の最後まで吹ききる(むしろ音の処理はクレッシェンドするくらいのつもりで)演奏を心がけてください。
【練習番号E】[文字によるアーティキュレーション指示は誤解を招きやすい]
stacc.の指示があります。これはもちろん「スタッカート」のことです。この箇所、スタッカートに対して2通りの考え方ができます。なぜなら、文字で出てきた時というのは、同じ音価(音符)が続く時に多く用いられるからで、「これから先に出てくる音符すべてにスタッカート」という捉え方が一般的だからなのです。しかしこの部分、三連符+四分音符のパターン。よってこう考えられます。
考え方1:三連符だけスタッカート
考え方2:四分音符も全部スタッカート
最終的には指揮者の判断になりますが、もし四分音符もスタッカートだったら、わざわざ四分音符で書くかなあ?という疑問が残ります。そうだとしたら四分音符ではなく八分音符で書かないかなぁ、と。
これも、もしかするとわざと選択の幅を増やしてのことかもしれません(いちいち音符に入力するのが面倒だったとも考えられますが)。
文字によるアーティキュレーション指示は、解釈がやっかいです。楽譜によっては、どこまでがその指示なのかわからないものもあります。もし、いちいち音符に入力するのが面倒だとしても「こうして欲しい」と具体的なイメージがあるのでしたら、文字にしないで音符すべてに書いたほうがいいです。僕はあまり好きではないです。
ともかく、三連符にスタッカートをつけることは明白ですので、奏法について解説します。
スタッカートが連続している時には、次のスタッカートを演奏するために、舌をすぐ次の音を出すための準備(=舌で空気の流れを止める動き)が必要です。
その際、舌がopenしている時間を短くするために(音を短くするために)、「すぐ舌で塞がなければ」と思うあまり、きちんと音になる前に塞いでしまうことが多発します。
その結果、きちんと音のツボを捉えられず、ピッチも音色も不安定なスタッカートの音になってしまいやすいのです。
それぞれの音がしっかりと鳴っている状態(=音のツボに当たっている状態)を出すためには、その音が一番鳴る口の中の空間をたとえ瞬間的であっても作る必要があります。なので、スタッカートが連続する時には、口の中(舌)は結構あわただしく動いているのです。ただし、素早い動きなだけで、力をかけているわけではありません。あくまでも「滑舌よく動く舌」であるだけなので負担はかかりません。
この作品に限らず、スタッカートはどこにでも出てきますから、ぜひ基礎練習の時間にしっかり音のツボに当たっているスタッカートを演奏できるよう、練習してみてください。
音のツボに関しては「ハイノート(ハイトーン)へのアプローチ6」を読んでみてください。
【43小節目(1st,2nd)】
「en dehors(オ・ドール)」=表面に出して、という意味のフランス語です。正直、初めて見ましたこの楽語。トランペットだけがメロディを担当していますから、もちろん先頭に立って主張するようにしましょう。わざわざフランス語で書く必要があるのか、そもそも書く必要があるのか疑問。
【練習番号G】[リップトリルの練習をしましょう]
引き続き主旋律をホルンと一緒に演奏しています。注目すべきは47小節目。フィンガリングが若干難しいですね。まずは「付点8分+16分」と「三連符」のリズムがしっかり差別化できるような演奏を心がけてください。いわゆる付点音符(1拍目,4拍目)のリズムが緩くなり、三連符寄りになってしまうと、途端にだらしない演奏になってしまいます。
また、1stに関しては3拍目の最後の音から4拍目の「実音G→H」が少し吹きにくいかと思います(47小節目、51小節目)。Gの音をフィンガリング3番に置き換えて演奏するのも手ですし、自身の成長を目指すならG→H音に留まらずに、たくさんのリップトリルを毎日の練習メニューに取り入れてみましょう。トランペットはこのような3度音程の移動が(特に音域が高くなるにつれ)同じフィンガリングで演奏することが多くなり、そこで上がりきれずに音をはずしてしまうことが多くなりがちです。ですので、リップトリル練習は常に練習に取り入れておきたいものです。
【練習番号H】
バンド全体のアンサンブルが非常に難しいところです。
トランペットパートに限定して書きますが、まず、三連符のアタマが休符になっているとき、休符を「ウン」とか「ン」と数えたり意識しているとそれだけで出遅れてしまいます。休符の次にある音符が、拍のアタマに音があるつもりで吹くくらいがちょうどよくなります。1拍1拍をウンウンウン、と数えながら吹けば吹くほどフレーズ感がなくなり、出遅れる原因になるので注意してください。
また、トランペットが音を出していない休符や拍の部分は低音楽器が演奏してる「掛け合い」のような状態です。その低音楽器をきちんと聴いてから入ろうとするのも確実に出遅れる原因になります。他のパートを聴くことは決して悪いことではありませんが、こういった厳しいタイミングでアンサンブルをする場所で他の奏者の音を聴きすぎるとズレやすいので注意してください。
練習番号Hの3小節目(55小節目)は「三連符の8分音符ひとつ」を「1」としたときに、1〜2拍目を「2+2+2」と考えることもできますね。解釈はいろいろできますから、ぜひいろいろな可能性を考えて、指揮者とともに良いアンサンブルを構築できるように工夫して練習してください(工夫しない練習とは、例えばメトロノームのカチカチ音に合わせ続ける練習とかです。これでは何の意味も発展も進歩もありません)。
【練習番号J】[演奏しやすい楽譜ほど作品の表現の幅がひろがります]
トランペットの出番はありませんが、この箇所に書いてある「Pochi. più mosso」の「Pochiss.」は「Pochissimo(ポチッシモ)」で、「とても少し」という意味です。楽譜に出てくる文字で最後に「 . 」が付いていたら文字が省略されていると思ってください。
ですので、例えば「rit.」を「リット」と、さもそれが正式な単語かのように呼ぶ方がとても多いのですが、表記上そうしているだけで、声に出す時は「リタルダンド」と呼ぶほうが良いのでは?と僕は勝手に思っているので省略形であまり言いません(伝われば別にどうでもいいことですけどね)。そういえば「diminuendo」のことを「ディム(dim.)」と呼ぶ人には出会ったことないですね。ディム…ガンダムのモビルスーツみたい。
ところで、「少し」というのはみなさんもご存知「poco(ポーコ)」です。「Pochissimo」はこれよりももっと少しだけ、という時に使うのかもしれませんが、pocoで充分ではないか、細かすぎやしないかと思います(作曲者のこだわりがあるのかと思うのですが)。pocoという超メジャーな楽語があるにもかかわらず、一瞬「なんだっけ?」と思わせる出現率の低い楽語を用いてくるところなんかも「わざとかなぁ?(教育的配慮?)」と勘ぐってしまう理由のひとつです。
具体的なテンポ表記(メトロノーム表記)がされていない以上、どのくらいテンポを落とすのかは指揮者と演奏者次第ということなのですから、楽譜上の「少し」も「ほんの少し」も変わらないと思うのです。
作曲者のこだわりよりスムーズに演奏できる楽譜(楽語)で構成されていたほうがより自然に演奏できるし、発想の幅が広がり、音楽を作る楽しみも聴く楽しみも増えると思っているのは僕だけでしょうか。楽語ひとつで細かいこと言い過ぎ?(笑)
ちなみに練習番号Kの1小節前にも「pochiss.rit.」が出てきますが、こんなの初めて見ました。poco rit.じゃダメですか?(2位じゃダメですか?←古い)
【78小節目】[高音域をやさしく演奏する]
吹き始めはその1小節前ですが、78小節目からは特に1stはG音まで上がります。高音域を吹くと、大きくて強く、鋭い音を「つい」出して(出て)しまう方は、今こそ他の方法で高音域を出す技術を身につけたいところです。
吹奏楽は特に高音域を求められるときは往々にして大きな音量でもあります。また、「出さなきゃいけない」プレッシャーに負けて「どんな手段でもとにかく音を出すことが先決」と無理な奏法で高音域を吹くクセを持ってしまった人がとても多いです。
これらに共通していることは「力によって出す」という方法です。
音量が大きくなっているときは、腹筋を強く使っています。腹筋に(どのような使い方であれ)力がかかると、お腹の中にある内臓をひとつにまとめている袋、「腹腔(ふくくう)」に圧力がかかり、腹腔のすぐ上にある横隔膜を強く押し上げます。トランペットを吹いている最中は(通常)鼻から空気は抜けませんし、アパチュアという小さな穴しか出口がないので、結果的に空気が溜まっている肺から口の中までの空気圧が高くなります。
そうすると、唯一の空気の出口であるアパチュアに勢いよく空気が流れていくのです。
この非常に力強い空気の流れは、スピードもとても速くなりますから、結果的に音量の大きい高音域が出るのです。
これは音を出す方法のひとつですから、度が過ぎた使い方でなければ問題ありません。しかし、高音域と大音量はイコールでは結べません。ピアニッシモで高音域を出す場面は当たり前に出てきますから、そのための奏法を練習する必要があります。
具体的にどうすればいいのか。過去の記事にハイノートについてとてもたくさん書いてあります。こちらから参考になる記事を見つけてみてください(ハイノートカテゴリー記事群にジャンプ)。
この78小節目はまさに木管楽器と調和した音量を求められています。トランペットらしい美しい音色はそのままに(変にブレンドさせた音を作ろう=トランペットらしくない音を出そうと思ってはいけません)、良いバランスでアンサンブルしたいところです。
【練習番号M】[ブレスは”休符”や”隙”を見つけてするものではありません]
最初に1stが旋律を担当し、2nd,3rdが途中から引き継ぎます。このメロディは、ついつい1小節ごとに(付点4分音符を吹いた後に)吹き直したくなる人(ブレスをとってしまう人)が多くなりそうですが、メロディとしては最低でも4小節ひとフレーズで吹いてください。
フレーズについては過去の記事「フレーズ」を参考にしてください。
長い音や休符が出てくると、それらすべてを「ブレスポイント」と思ってしまうのは間違いです。休符は「休(む)」という字を使いますが、休息時間ではありません。音が出ていないだけで音楽は常に進んでいるのです。
そして、ブレスは「隙」ができたから吸うのではありません。音楽的な流れの中に自然に組み込める「ブレスポイント」がたくさんありますから、それをぜひ見つけてください。一番良くないのは「ブレスはできるだけするものではない(ブレスしないで吹けたらどんなに素晴らしいだろうか!)」と思うことです。先ほどと矛盾しているようですが、ブレスを厄介者のような存在にすると、どんどん「音楽」「作品」から呼吸が分離してしまい、実際に聴いていても、本当にブレスが邪魔な存在に感じてしまうのです。
しかし、呼吸をすることはだれもが生きるための当然の行為なのですから、呼吸(ブレス)すらも音楽の中に取り込んでしまえば、決して「邪魔者」や「ないほうがいいもの」にはなりえないのです。
【115小節目〜(1st)】[朗々と響かせて演奏するために必要なこと]
もうここは完全にトランペットソロであり(もちろん複数で吹いてもいいのですが)、腕の見せ所です。大きな音でしっかり吹こう、と思うのは間違っていませんが、それだけのボキャブラリーからはどうしても「頑張る」「力を込める」という方向性になりがちです。そこで、もう少し具体的に奏法面からもしっかりとアプローチして演奏できるようにしましょう。
客席までトランペットの素晴らしいサウンドを朗々と届かせるためには、「音のツボ」に当り続けていることが必須です。ツボに当たっていないのに頑張って吹いていても客席に音は届かず(届いても音色が悪い)体力ばかりが消耗され、報われません。言い換えるならば、音のツボにさえ当たっていれば音というのはとりあえずしっかり客席まで聴こえます。
次に「音の中身」を意識しましょう。言い方を変えればこれは「音の密度」であり、「圧力バランス」がそれを決定します。度を超さないバランスの良い「強い圧力」でそれぞれの音符の最後までブレることなく吹き続けることが大切です。楽譜に指示がないのに音を抜いたり(音を抜くクセが出てしまったり)、2分音符なのにそれよりも短い長さで吹き終わってしまうというのは良くありません。
もうひとつ大切なのはタンギングです。タンギングというのは例えるなら「音の外壁」です。タンギングの種類によって鉄製の外壁か木製か、または綿のコーティングか、といった具合に変化します。タンギングの質を変えるのは「発音」です。舌にかける筋力ではありません。
簡単にいえば「Tを頭文字にした発音」を用いると、一番明瞭でしっかりした音の外壁が作られ、「D」「N」「S」の順番で徐々に柔らかい外壁になっていきます。
タンギングはすべて「Tu(トゥ)」だと思っている方が多いのですが(そういう書き方をしている教本が多いのが悪い)、頭文字を変えることで外壁の質が変化し(「Du(ドゥ)」「Nu(ヌ)」など)、母音が変化することで出す音域が変化します(「To(トォ)」「Tu(トゥ)」「Ti(ティ)」など)。
もうひとつは「ヴィブラート」です。好みもありますが、ソロ(っぽい)シーンには積極的に使うべきだと僕は思っています(ハモってる場合はトップ奏者、メロディ担当限定)ヴィブラートをかけることで「他の楽器との差別化」がより明確になります。要は目立つんですね。かっこいいヴィブラート、ぜひかけてみてください。
この作品は短いながらも変化に富んでおり、演奏していても聴いていても楽しいのでは、と思いました。
演奏する上でまず大切なのは「イメージ」です。そのイメージは、自分の頭の中にあるものですから、誰にも否定されません。そして、そのイメージを演奏に反映させることも誰も咎めません。もちろん、イメージが自分の中から飛び出した瞬間から、誰かの目や耳にとまるわけですから、ここで何かしらのアクションが起こる可能性はありますが、音楽とはそもそもそういうものなので、そこか覚悟が必要です。ぜひこの作品、場面から受けるイメージを演奏に思い切り出してください。
課題曲3の解説はここまでです。次回は他の作品について書いていきますので、引き続きおつきあいください。
それでは、また来週!
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JUGEMテーマ:吹奏楽
at 06:45, 荻原明(おぎわらあきら), 吹奏楽コンクール課題曲2016
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2016.05.10 Tuesday
吹奏楽コンクール課題曲2016トランペット解説【3.ある英雄の記憶 〜「虹の国と氷の国」より / 西村友】前編
みなさんこんにちは!
只今、「吹奏楽コンクール課題曲トランペット解説2016」開催中です。
これまでに課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」、課題曲5「焔」について書きました。本文をご覧になりたい方は以下をクリックしてください。
↓
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」前編
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」後編
課題曲5.焔 前編
課題曲5.焔 後編
なお、課題曲1,2,についてはまだ掲載しておりません。順次アップしていきますので少々お待ち下さい。
そして今回からは課題曲3.『ある英雄の記憶 〜「虹の国と氷の国」より』について書いていきます。
この作品の「虹の国と氷の国」ってどんな作品なんだろうと思って調べていても書籍とか何も出てこないのでどういうことかと思っていたら、どこかの幼稚園オリジナルの演劇で、その劇伴(舞台などで流れる伴奏音楽)が課題曲の元になっているとのこと。
ストーリーに関してはぜひ会報「すいそうがく」に掲載してある作曲者本人の解説を読んでみてください。よくできたお話しです。課題曲になったことをきっかけに本とかゲームとかになっちゃえばいいのにとか思ったり。
そんな背景がありますから、曲を聴くだけで「冒険もの」の本や、アニメ、ゲーム(PRG)、舞台作品っぽいな、と感じる方は多いと思います。
《音楽はイメージによって作られる》
この作品のように、元になるストーリーがある作品は、演奏する上でもイメージが比較的容易です。
そもそも、音楽はイメージから生まれています。作曲する人も演奏する人もイメージをしています。
しかし、こんな場面に遭遇することがたびたびあるのです。
中高生くらいの管楽器奏者さんに「この場面はどんなイメージ?」とか「どんなイメージで演奏しよう?」と聞くと、ほとんどの方はなんらかのイメージを言ってくれるのですが、たまに「ありません」「わかりません」と言う方もいるんですね。
「わかりません」というのは単なる反抗期なのかもしれませんが、「ありません」というのは少し驚きます。楽譜に書いてある情報を再現するだけで精一杯なのかもしれませんが、演奏している時にしかその音楽に触れているわけではありませんから(記憶しているわけですから)作品から受ける「何か」を少しも持っていないのかな、と不思議に思ってしまいます。
単に心の中に浮かんでいるものを素直に口に出すことが恥ずかしいとか、言語化するのが難しいだけならば別にいいのですが(演奏で出せる/出そうとしているのだったら別に良い)。
《指導者という名のクレーマーにご注意を》
演奏によって自分のイメージを出せるのだったら、言葉なんてなくても本当は良いんです、音楽ってものは。
前述のように「イメージしましょう!」という言葉は、みなさんイヤというほど言われていると思います。部活指導をしている人のほとんどが口にしますからね。
しかし、その「イメージしたもの」を「聴く人に伝わる演奏をしましょう」という指導者は少ないかもしれません。さらには「聴く人に伝わる演奏をするにはどうすべきか」を的確に指摘、指導できる人はもっともっと少ないかもしれません。
「指導者」とはよく言ったもので、演奏者に「指摘」をするだけなら誰でもできます。しかし、中には指摘なんて生易しいものではなく、鉛玉のような罵声を「投げつける」「叩きつける」人もいますが、それは指導者ではなく「クレーマー」です。
指導者とは、演奏に対して気づいたことを的確に指摘し、良い方向、解決、完成へ向かうための方法や考えを的確に示し「導く」人のことを言います。
「テンポ乱れた!(メトロノーム カチカチスタート)」
「音程悪い!(ハーモニーディレクター「ポーー(大音量)」)」
「ピッチ悪い!(チューナースイッチON)」
「何やってんだ!(足を組む)」
「また間違えたな!今度間違えたらただじゃすまないからな!(指揮棒バキッ)」
だけしか言わない(言えない)のは指導者ではありません。気をつけましょう。
《聴く人に伝わることが「表現」する、ということ》
みなさんは合奏やレッスンで指摘されたことに対して「ちゃんとやってるじゃん!」「何度も言わなくてもわかってるよ!」って思ったこと、ありますか?自分では意識してやっているのに、先生からは「もっと!」とか「できてない!」とか言われてイライラしたこと。
これは、先生がイジワルしているわけではないんです(多分)。本当にできていないんです。できていないというよりも「伝わっていない」のです。
もしも自分ではちゃんとやっているつもりなのに、できていないと指摘されたらイライラするのではなく「伝わっていないのだな」と理解し、今以上におおげさに表現してみましょう。「こんなにやって大丈夫かな?」「なんか恥ずかしい」とか思うくらい思いっきりやってみましょう。もしかすると、それでやっと周囲の人に伝わる程度かもしれません。それくらい表現というのは人に伝わりにくい、理解されにくいものなのです。
音楽は舞台で演奏します。お客さんというのは「聴く側」「アウェイ」の意識が非常に強く、演奏者の立場になっている人はほとんどいません(これを読んでいる多くの方が演奏者でしょうからピンとこないかもしれませんが、まったく楽器を演奏しない人や舞台で演奏した経験のない方は、距離があるところに心を置いています)。身内とか、熱狂的ファンなど一部の人だけが「一生懸命理解しよう」「一生懸命受け入れよう」という覚悟で客席にいます。
そういった方はすべてを肯定的に受け入れてくれるので演奏する側も気が楽なのですが、そうでない人のほうが大多数だと思って演奏するべきです。特にコンクールというのは「義理」や「妥協」がまったく通用しない環境ですから、なおさらです。
そんな外側にいるお客さんを演奏によって引き込むためには、それはそれは強い表現力が必要です。
僕もレッスンでとてもよく言うのですが、まずはとにかく「伝えよう」という強い意志を持つことが大切です。そのためにこんなことを言います。
『あなたは、大きなホール(3000席完売)でリサイタルをしているソリストです。そのホールの3階最後列端っこの人に強烈に自分のイメージ、表現が伝わるように意識して演奏をしましょう』
これだけで演奏はガラリと変わることが多いのですが、さらに、
『あなたのリサイタルに、もうひとりのあなたが客席で聴いているとします。今日のリサイタルチケットは5,000円。演奏を聴いて、明日友人に「昨日のコンサートすごい良かったよ!聴きにいかなかったなんてもったいない!」と心から言えますか?』
と聴きます。その後、もう一度演奏してもらいます。
ちなみに「はい」と言った生徒さんは未だいません(笑)
ともかく、それくらいの強い意識で演奏をすることを常に心がけるだけで、表現力(発信力)はとても強くなります。これは合奏で指摘されて急にできることではなく、日頃の個人練習の段階から意識し、鍛えておくことが大切です。
《楽語の多い作品》
この作品の特徴のひとつに「楽語が多い」ことが挙げられます。作品がひとつの物語ですから、場面がどんどん変わっていくので結果的にそうなるのでしょうが、あまり一般的でない(楽語ではない)文字もいくつか出てくるので、フランス語やイタリア語が全然わからず楽語だけ知っている身としては、「これ何?」となります。調べるしかありません。
大半の人はこうなってしまうと思うのですが、これは作曲家さん、わざとやっているのでしょうか。作曲者さんとのインテリジェンスの差なだけではないはずです(そう思っておくこおとにします)。
まあそれはどうでも良いのですが、イメージを具体的(限定的)にするために書いたのか、「楽語」を無視しないよう、きちんと調べてね、といった「教育目的」なのかもしれません。ともかく、わからない楽語(単語)は必ず調べてみましょう。
《楽譜には書き込まない!》
そして、調べた楽語は楽譜に直接書き込まないようにしましょう。違う紙や単語帳などに書いて、覚えてください。
そもそも、楽譜に書き込こと自体僕は否定的です。楽譜を見て演奏している間は、文字を読んだりそれを理解するための時間はありません。視覚に入ってきた文字を読んで理解しようとするときの脳は、イメージをふんだんに必要とする「音楽をする」脳の使い方とはまるで違うので、どんどん機械的な演奏になってしまうのです。
例えばみなさんにも経験があると思いますが、楽器を始めて間もない初心者の頃はひとつひとつの音符に運指を書き込んでいたと思います。その楽譜を見て演奏するとき、どこに焦点が合っていましたか?そのとき、どんな意識で拭いていましたか?
きっと「1,2」「1,3」と、運指ばかりを見ていて、音符などほとんど視界に入っていなかったはずです。
これでは単に左から右に数字を見てリズムに合わせてその通りピストンを押す「作業」をしているだけなのです。
初心者の頃に限っていえばそれもしかたがないのですが、もう楽譜も結構読めるようになってからも、「音程!」「はしるな!」「テンポ!」などと楽譜にやたらと日本語を書いてしまうと音楽的イメージや表現することが難しくなってしまうのです。
そもそも「音程」も「テンポ(一定のテンポで演奏できていない)」ことも音楽の基本的な約束であって、その場面に書き込み、意識するものではありません。
「走ってしまう原因はなんなのか」「走らなくするためにはどのような意識でどのような練習を重ねていくのか」をその作品を演奏する前から準備しておくことが大切です(それが個人練習、基礎練習の目的のひとつ)。
「音程」についてはそもそも「音程が悪いから音程を良くしよう」で解決するようなことではありません。なぜ音程が悪いのか、その原因はツボに当たっていないとか、楽器の吹き方そのものの問題など、様々ですが、どうあれ楽譜に「音程!」と書いたところで音程は絶対解決しません。「音程」と言われただけで音程が解決する人は言われる前から良い音程で演奏をしている人(演奏できる人)だからです。
重要なところにグルグルと丸でかこったり、蛍光ペンで塗ったりするのも、緊張感や特別な意識を生んでしまう結果になるのでオススメしません。
本来、楽譜に書き込むものは「楽譜に書いていないこと、楽譜と違うことを指揮者が要求したとき(追加・変更)」や「楽譜の間違いの修正」「演奏するための作業指示(ミュートのON,OFFを忘れない、繰り返し記号を見落とさない等)」だけにとどめるべきだと僕は思っています。
それでもどうしても思ったこと、教わったことを忘れたくない、後でじっくり考えたいのであれば、最初に言ったように、他の紙にメモをするか、「メモ専用楽譜」としてのパート譜をもう一枚用意してことをオススメします。それを演奏以外の場面で見て確認をするのです。
頭の中に入っていないと演奏はできない、ということです。
ということで、この作品を演奏される方もそうでない方も、楽譜を手に入れたらそこに書かれている楽語をまずすべて調べましょう。その楽語も含めて、その作品の持っている(作曲家の)イメージを感じ、自分の演奏に取り込んでください。
そして、自分自身のその作品に対するイメージも融合させ、それが聴く人に伝わるためにはどうすればいいのかを考えて演奏します。
フィンガリングや音程の難しいところを克服するだけが「譜読み」ではありません。そういったイメージを持って演奏する練習も含めての「譜読み」です。
ということで、次回は課題曲3を順を追って解説していきます。引き続きお付き合いください。
また来週!
只今、「吹奏楽コンクール課題曲トランペット解説2016」開催中です。
これまでに課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」、課題曲5「焔」について書きました。本文をご覧になりたい方は以下をクリックしてください。
↓
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」前編
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」後編
課題曲5.焔 前編
課題曲5.焔 後編
なお、課題曲1,2,についてはまだ掲載しておりません。順次アップしていきますので少々お待ち下さい。
そして今回からは課題曲3.『ある英雄の記憶 〜「虹の国と氷の国」より』について書いていきます。
この作品の「虹の国と氷の国」ってどんな作品なんだろうと思って調べていても書籍とか何も出てこないのでどういうことかと思っていたら、どこかの幼稚園オリジナルの演劇で、その劇伴(舞台などで流れる伴奏音楽)が課題曲の元になっているとのこと。
ストーリーに関してはぜひ会報「すいそうがく」に掲載してある作曲者本人の解説を読んでみてください。よくできたお話しです。課題曲になったことをきっかけに本とかゲームとかになっちゃえばいいのにとか思ったり。
そんな背景がありますから、曲を聴くだけで「冒険もの」の本や、アニメ、ゲーム(PRG)、舞台作品っぽいな、と感じる方は多いと思います。
《音楽はイメージによって作られる》
この作品のように、元になるストーリーがある作品は、演奏する上でもイメージが比較的容易です。
そもそも、音楽はイメージから生まれています。作曲する人も演奏する人もイメージをしています。
しかし、こんな場面に遭遇することがたびたびあるのです。
中高生くらいの管楽器奏者さんに「この場面はどんなイメージ?」とか「どんなイメージで演奏しよう?」と聞くと、ほとんどの方はなんらかのイメージを言ってくれるのですが、たまに「ありません」「わかりません」と言う方もいるんですね。
「わかりません」というのは単なる反抗期なのかもしれませんが、「ありません」というのは少し驚きます。楽譜に書いてある情報を再現するだけで精一杯なのかもしれませんが、演奏している時にしかその音楽に触れているわけではありませんから(記憶しているわけですから)作品から受ける「何か」を少しも持っていないのかな、と不思議に思ってしまいます。
単に心の中に浮かんでいるものを素直に口に出すことが恥ずかしいとか、言語化するのが難しいだけならば別にいいのですが(演奏で出せる/出そうとしているのだったら別に良い)。
《指導者という名のクレーマーにご注意を》
演奏によって自分のイメージを出せるのだったら、言葉なんてなくても本当は良いんです、音楽ってものは。
前述のように「イメージしましょう!」という言葉は、みなさんイヤというほど言われていると思います。部活指導をしている人のほとんどが口にしますからね。
しかし、その「イメージしたもの」を「聴く人に伝わる演奏をしましょう」という指導者は少ないかもしれません。さらには「聴く人に伝わる演奏をするにはどうすべきか」を的確に指摘、指導できる人はもっともっと少ないかもしれません。
「指導者」とはよく言ったもので、演奏者に「指摘」をするだけなら誰でもできます。しかし、中には指摘なんて生易しいものではなく、鉛玉のような罵声を「投げつける」「叩きつける」人もいますが、それは指導者ではなく「クレーマー」です。
指導者とは、演奏に対して気づいたことを的確に指摘し、良い方向、解決、完成へ向かうための方法や考えを的確に示し「導く」人のことを言います。
「テンポ乱れた!(メトロノーム カチカチスタート)」
「音程悪い!(ハーモニーディレクター「ポーー(大音量)」)」
「ピッチ悪い!(チューナースイッチON)」
「何やってんだ!(足を組む)」
「また間違えたな!今度間違えたらただじゃすまないからな!(指揮棒バキッ)」
だけしか言わない(言えない)のは指導者ではありません。気をつけましょう。
《聴く人に伝わることが「表現」する、ということ》
みなさんは合奏やレッスンで指摘されたことに対して「ちゃんとやってるじゃん!」「何度も言わなくてもわかってるよ!」って思ったこと、ありますか?自分では意識してやっているのに、先生からは「もっと!」とか「できてない!」とか言われてイライラしたこと。
これは、先生がイジワルしているわけではないんです(多分)。本当にできていないんです。できていないというよりも「伝わっていない」のです。
もしも自分ではちゃんとやっているつもりなのに、できていないと指摘されたらイライラするのではなく「伝わっていないのだな」と理解し、今以上におおげさに表現してみましょう。「こんなにやって大丈夫かな?」「なんか恥ずかしい」とか思うくらい思いっきりやってみましょう。もしかすると、それでやっと周囲の人に伝わる程度かもしれません。それくらい表現というのは人に伝わりにくい、理解されにくいものなのです。
音楽は舞台で演奏します。お客さんというのは「聴く側」「アウェイ」の意識が非常に強く、演奏者の立場になっている人はほとんどいません(これを読んでいる多くの方が演奏者でしょうからピンとこないかもしれませんが、まったく楽器を演奏しない人や舞台で演奏した経験のない方は、距離があるところに心を置いています)。身内とか、熱狂的ファンなど一部の人だけが「一生懸命理解しよう」「一生懸命受け入れよう」という覚悟で客席にいます。
そういった方はすべてを肯定的に受け入れてくれるので演奏する側も気が楽なのですが、そうでない人のほうが大多数だと思って演奏するべきです。特にコンクールというのは「義理」や「妥協」がまったく通用しない環境ですから、なおさらです。
そんな外側にいるお客さんを演奏によって引き込むためには、それはそれは強い表現力が必要です。
僕もレッスンでとてもよく言うのですが、まずはとにかく「伝えよう」という強い意志を持つことが大切です。そのためにこんなことを言います。
『あなたは、大きなホール(3000席完売)でリサイタルをしているソリストです。そのホールの3階最後列端っこの人に強烈に自分のイメージ、表現が伝わるように意識して演奏をしましょう』
これだけで演奏はガラリと変わることが多いのですが、さらに、
『あなたのリサイタルに、もうひとりのあなたが客席で聴いているとします。今日のリサイタルチケットは5,000円。演奏を聴いて、明日友人に「昨日のコンサートすごい良かったよ!聴きにいかなかったなんてもったいない!」と心から言えますか?』
と聴きます。その後、もう一度演奏してもらいます。
ちなみに「はい」と言った生徒さんは未だいません(笑)
ともかく、それくらいの強い意識で演奏をすることを常に心がけるだけで、表現力(発信力)はとても強くなります。これは合奏で指摘されて急にできることではなく、日頃の個人練習の段階から意識し、鍛えておくことが大切です。
《楽語の多い作品》
この作品の特徴のひとつに「楽語が多い」ことが挙げられます。作品がひとつの物語ですから、場面がどんどん変わっていくので結果的にそうなるのでしょうが、あまり一般的でない(楽語ではない)文字もいくつか出てくるので、フランス語やイタリア語が全然わからず楽語だけ知っている身としては、「これ何?」となります。調べるしかありません。
大半の人はこうなってしまうと思うのですが、これは作曲家さん、わざとやっているのでしょうか。作曲者さんとのインテリジェンスの差なだけではないはずです(そう思っておくこおとにします)。
まあそれはどうでも良いのですが、イメージを具体的(限定的)にするために書いたのか、「楽語」を無視しないよう、きちんと調べてね、といった「教育目的」なのかもしれません。ともかく、わからない楽語(単語)は必ず調べてみましょう。
《楽譜には書き込まない!》
そして、調べた楽語は楽譜に直接書き込まないようにしましょう。違う紙や単語帳などに書いて、覚えてください。
そもそも、楽譜に書き込こと自体僕は否定的です。楽譜を見て演奏している間は、文字を読んだりそれを理解するための時間はありません。視覚に入ってきた文字を読んで理解しようとするときの脳は、イメージをふんだんに必要とする「音楽をする」脳の使い方とはまるで違うので、どんどん機械的な演奏になってしまうのです。
例えばみなさんにも経験があると思いますが、楽器を始めて間もない初心者の頃はひとつひとつの音符に運指を書き込んでいたと思います。その楽譜を見て演奏するとき、どこに焦点が合っていましたか?そのとき、どんな意識で拭いていましたか?
きっと「1,2」「1,3」と、運指ばかりを見ていて、音符などほとんど視界に入っていなかったはずです。
これでは単に左から右に数字を見てリズムに合わせてその通りピストンを押す「作業」をしているだけなのです。
初心者の頃に限っていえばそれもしかたがないのですが、もう楽譜も結構読めるようになってからも、「音程!」「はしるな!」「テンポ!」などと楽譜にやたらと日本語を書いてしまうと音楽的イメージや表現することが難しくなってしまうのです。
そもそも「音程」も「テンポ(一定のテンポで演奏できていない)」ことも音楽の基本的な約束であって、その場面に書き込み、意識するものではありません。
「走ってしまう原因はなんなのか」「走らなくするためにはどのような意識でどのような練習を重ねていくのか」をその作品を演奏する前から準備しておくことが大切です(それが個人練習、基礎練習の目的のひとつ)。
「音程」についてはそもそも「音程が悪いから音程を良くしよう」で解決するようなことではありません。なぜ音程が悪いのか、その原因はツボに当たっていないとか、楽器の吹き方そのものの問題など、様々ですが、どうあれ楽譜に「音程!」と書いたところで音程は絶対解決しません。「音程」と言われただけで音程が解決する人は言われる前から良い音程で演奏をしている人(演奏できる人)だからです。
重要なところにグルグルと丸でかこったり、蛍光ペンで塗ったりするのも、緊張感や特別な意識を生んでしまう結果になるのでオススメしません。
本来、楽譜に書き込むものは「楽譜に書いていないこと、楽譜と違うことを指揮者が要求したとき(追加・変更)」や「楽譜の間違いの修正」「演奏するための作業指示(ミュートのON,OFFを忘れない、繰り返し記号を見落とさない等)」だけにとどめるべきだと僕は思っています。
それでもどうしても思ったこと、教わったことを忘れたくない、後でじっくり考えたいのであれば、最初に言ったように、他の紙にメモをするか、「メモ専用楽譜」としてのパート譜をもう一枚用意してことをオススメします。それを演奏以外の場面で見て確認をするのです。
頭の中に入っていないと演奏はできない、ということです。
ということで、この作品を演奏される方もそうでない方も、楽譜を手に入れたらそこに書かれている楽語をまずすべて調べましょう。その楽語も含めて、その作品の持っている(作曲家の)イメージを感じ、自分の演奏に取り込んでください。
そして、自分自身のその作品に対するイメージも融合させ、それが聴く人に伝わるためにはどうすればいいのかを考えて演奏します。
フィンガリングや音程の難しいところを克服するだけが「譜読み」ではありません。そういったイメージを持って演奏する練習も含めての「譜読み」です。
ということで、次回は課題曲3を順を追って解説していきます。引き続きお付き合いください。
また来週!
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at 06:39, 荻原明(おぎわらあきら), 吹奏楽コンクール課題曲2016
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2016.05.03 Tuesday
吹奏楽コンクール課題曲2016トランペット解説【5.焔 / 島田尚美】後編
みなさんこんにちは!
只今「吹奏楽コンクール課題曲トランペット解説2016」開催中です。
今回は課題曲5「焔」の後編。作品についても書きますが、この作品を演奏されない方、課題曲を演奏されない方にも参考になるように書いていきます。
《ひとつの作品を効率よく完成させる》
課題曲5のように音が取りづらい(調性感がはっきりしない作品)、フィンガリングが難しい作品は特にそうですが、自分のパートをきちんと演奏できるまでにかかる時間が通常よりも長くなりがちです。
そこでまず今回は、譜読みを確実に、そして合奏でも落ちずに演奏できるために心がけておきたいことを順を追って解説します。
【1.作品をスコアから読み取る】
スコアはすべての楽器が同時に何をしているのかが一目でわかる作品の設計図のようなものです。シンプルな作品であればスコア一度も見なくとも合奏だけで様子がわかりますが、この作品に関しては、パート譜だけで作品を作ろうとせずに、奏者全員がスコアをしっかりと見て、自分の立ち位置を理解した上で演奏する習慣を持ちたいところです。
そして、ただスコアを眺めるのではなく、以下の点について把握します。
(トランペットの場合)
・トランペットパートは他の楽器と場面ごとにどんな関係になっているのか。
・トランペットパート内ではそれぞれどのような関係、作り、立場になっているのか
・トランペットパートが入ってくる直前、他の楽器がどんなことをしているのか。
・トランペットパートが吹き終わった後、どんなことが起きているのか。
などです。
まずは自分と他の楽器がそれぞれの場面でどのように関わっているのかを知ることです。この作品でも何度か出てきますが、自分が吹きはじめる1拍前に他の楽器がとても印象的なリズムを演奏していることがあります。それを知っているか知らなかったかではアンサンブルに大きな違いが出るのは想像できることでしょう。
それが理解できた後は、トランペットがそれぞれの場面でどういう立ち位置にいるかを読み取りましょう。わかりやすいところでは、「ソロ」。他に誰も同じことをしていないとか、とても目立つように書かれているとか。
他にも、この作品に多いのがトランペットパートの「ソリ(soli=soloの複数形)」。ユニゾン(同じ音)で動いているとか、他にも、ブラスセクションの響きを求めている場面などもあります。それがわかってくると、さらにアンサンブルの構造を理解した上で、合奏に臨めるようになります。
このように、スコアから読み取れる情報は非常にたくさんあります。難しい理論などは必要なく、同じリズムを演奏しているのがどの楽器なのかとか、どの楽器がどのタイミングでどんな動きをしているのかを「図形的に」把握する程度で充分です。ぜひスコアを読む機会をたくさん設けてください。
【2.自分の立ち位置を合奏で理解する】
スコアを読んである程度場面ごとの構造を把握したら、今度は合奏で実際にどう聴こえているのか確認しましょう。
この時点では「落ちない」という目標を持って吹きましょう。ダイナミクスとか歌い方とか、そういうのはまだきちんとできなくて構いません。言ってしまえば音を間違えても構いません。大切なことは、全員が音の出だしをきちんと演奏することです。
それぞれの楽器が吹き始めるタイミングしっかり吹くことで、その作品の「構造」が見えてきます。
例えるならば、歯車の噛み合わせを確認する、ということでしょうか。噛み合わせの精度を上げるのはその後でも構わないので、とにかく正しく作動した結果、どのようになるのかを確認したいのです。
そのために大切な要素は「テンポ」と「拍(拍子)感」そして「勇気」「決断」です。
指揮者の振る棒の動きも(一応)参考にした上で、自分の中にある「拍感」「テンポ感」に自信を持ち、それぞれの場面が、事前に確認したスコア通りの構造になっているのかを「音」で確認します。
[指揮者は絶対的権力者ではありません]
先ほど「指揮者の棒も(一応)参考に」と言ったのには理由があります。それは、吹奏楽(部)の世界で感じることの多い、指揮者の絶対的権力者的立ち位置です。部活で指揮をしている人が安易に叫んでしまう「指揮に合わせろ!」「全員指揮棒に注目!」「どうして指揮に合わせない?!」といったような脅迫にも感じられる指揮者の言葉は、まるで音楽のすべてを司る神や独裁者のような存在になり、奏者(部員)の自由を奪い、縛り付けて道具のように演奏をさせてしまう力を持っています。
指揮者とは本来「プロデューサー」とか「現場監督」といった立場の人であり、作品をどのように完成させるかを決め、それを伝える人です。
しかし、実際に音を出して作品を音楽にしているのは奏者です。ですから、極端なことを言ってしまえば、指揮者の指示を無視して、奏者同士でアンサンブルを完成させてしまう、なんてこともできてしまうのです。それは決して良いことではありませんが、奏者の力は音楽を完成させるという点で言えば、指揮者以上に強いので、先ほど「指揮者の振る棒の動きも一応参考にした上で、」と書きました。
それだけ演奏者は責任があることを忘れないでください。奏者は指揮者のシモベではないのです。
指揮者がイメージしている(作ろうとしている)音楽を奏者は指揮者の動きや表情を汲み取り、アンサンブルをしていくことが作品の完成度を高めるための大切な条件です。
【3.アンサンブル力をつけるには。落ちないようにするには。】
もしあなたが演劇をやることになったとしましょう。台本をもらったら、自分の台詞だけを丸暗記して終わり、ではないはずです。自分の台詞だけ覚えても、どのタイミングで口を開けばいいのかまったくわかりませんよね。
台本を覚える、ということは誰がどんな台詞を言ったのかも含めて「作品の流れ」覚えることと言えます。
さらにクオリティを高めるには、それぞれの台詞は独り言なのか、誰かに対して言ったのか、それはどんなふうに言ったのか、愛の言葉なのか、攻撃なのかによっても、自分が次に言う台詞の読み方もかなり変わってくることでしょう。
音楽もこれと同じです。他の楽器とのつながり、関係性を理解しておくことがとても大切です。
音楽における台本は「スコア」です。スコアにはすべての台詞(=音符)とそれぞれのつながりが書かれています。しかし、大編成の音楽の場合はスコアを見ながら演奏することが困難なので「パート譜」というものが存在します。要は自分の台詞と、それらをどこで言うかのタイミングだけが書かれた紙。パート譜は演奏する上では効率的ではありますが、全体像を掴みにくいというデメリットもあります。まるで自分のパート譜だけで音楽が完結してしまっている(他のパート=他人)ような錯覚に陥ることもあります。
ですから、この作品のように複雑な構造になっている場合は特に、スコアをたびたび読む習慣を持っておくことが大切なのです。
演劇の話に戻りますが、自分の台詞を言うタイミングだけでなく、自分が発した台詞によって誰か(もしくは全体)にどんな影響を与えるのか(与えようとしているのか)を理解していなければ、ただのブツブツ独り言か、突然吠える変なキャラになってしまい、つながりを持てず、発信力も弱くなってしまいます。
次に口を開く相手が自分の台詞の影響を強く受けて「思わず台詞を発してしまう」そんな力を持った存在が多ければ多いほど、演劇の完成度が上がり、観る人の心を動かすことができるのです。
ですから、パート譜に書かれた音符を吹き終わり、「あ〜ミスしなくてよかった〜」と自分のことだけ考えるのではなく、自分の演奏を次につなげていく気持ちを持ち続けることが大切なのです。
バンドメンバー全員このような姿勢でいれば、初めての合奏でも崩壊したり止まってしまう事故は起こりにくいはずです。
[目的を持った練習形態をそのつど考える]
「トランペット」とか「金管」という分類はありますが、いざ吹奏楽曲を演奏する時、木管と同じメロディを吹くこともありますし、逆にパート内でもバラバラな役割を持っていることだってあります。意外に、トランペットだけとか金管だけで完成度を高める必要のある箇所というのは、ひとつの作品の中でも数箇所で、とても限られていると思いませんか?
しかし吹奏楽部では特に「個人練習」「パート練習」「セクション練習」「合奏」などと、形態だけで区分けしていることが多いです。区分けするのは良いのですが、それぞれの練習形態でどんな意味や目的を持って取り組むのかを事前にしっかりと提示し、それに沿って進めていく綿密な計画性を持っていないと、非効率的になることのほうが多いと考えます。
会社のように「営業部」「人事部」みたいに明確な仕事が分担されているわけではありませんので、指導する先生は安易に「今日の午前はパート練習で(テキトーやってくれ)」とか言わないほうが良いのでは、と個人的には思います。
パート練習を延々をやるのではなく、「練習番号○のこの箇所はクラリネットと同じ動きなので、合同練習する」という時間や、「金管と打楽器のつながりが強いこの箇所のクオリティを上げる」などと目的を持って、短時間で機動力のあるバラバラ練習をすることをお勧めします。
個人の譜読みがほぼ終わり、合奏を一度体験した時(スコアを各自がしっかり読んだ後)、作品の様々な箇所で、どの楽器同士の関係性が強いのかを把握して、いろんな形態で練習をするという練習を積極的に行うと合奏でも非常にコミュニケーションの高いアンサンブルができるはずです。
ぜひ安直なパート練習、セクション練習ばかり行わないようにしてください。
《演奏のポイント》
では、この作品のポイントとなる箇所をいくつか書き出してみたいと思います。
【6〜7小節目】
金管楽器が高音域より重なっていきます。誰が誰の次にくるのかをスコアで把握しておくことは前述の通りですが、2ndトランペットが3連符の3つ目の音から入ってくるのが若干吹きにくいと思います。ここの2nd奏者は、慣れるまで1stの出だしを一緒に吹いて、合成してみてください。タテのつながりがわかってくると思います。
【練習番号A】
この箇所のように、何度か「キメ」ポイントが出てきます。金管全員(+α)でタテをがっちり合わせることで次のシーンへつながっていく重要な箇所です。こういった場所では、各楽器のトップが少しだけアインザッツをしてあげることで安心して演奏ができると思うので、司令塔の意識を持ってください。
【12小節目(1st)】
この箇所のように、1stだけが演奏しているシーンもたびたび出てきます。しかしソロではありません。どの楽器と同じことをしているのか、そのつどスコアを見て確認し、必要であれば同じ動きをしているメンバーだけで練習をしてみてください。
【15小節目】
トランペットが吹き始める1拍前に中音域の楽器群が5連符を演奏しています。先ほど書いた演劇での台詞のつながりのような箇所です。自分のパートだけを「1,2,3,4…」と数えるのではなく、他の楽器が自分たちの演奏開始を促しているのだ、という意識を持てるだけで、よりアンサンブルになっていきます。
その後すぐに来る「練習番号B(1st)」の一拍前も同じです。ホルンが全員で6連符を吹いています。これをきっかけにしましょう。
【19小節目】
ここはトランペットがユニゾンでうごきます。アルトサックスも一緒に動いていますが、こういった全員がまったく同じ動きをしている箇所は「トランペットのサウンド(=トランペットらしさ)を求めている」と考えられます。他の楽器には真似できないトランペットならではの演奏、そしてトランペットパートの統一感を目指してください。ピッチのことだけでなく「息のスピード」「音色」「音の密度」そして同じ音の輪郭を持つための「タンギング(発音、滑舌)」を意識しましょう。これらの条件が整えば結果的に「音のツボ」に当たった演奏ができますから、ピッチは勝手に揃ってくるものです。もちろんソルフェージュ(メロディを歌える)力も必要です。
19小節目に装飾音がありますが、こうした小さなサイズの音符は「素早く演奏するもの」と意識しすぎてしまう傾向があります。しかし、あまりに速く演奏してしまうと、客席には「ミスした(違う音を吹いちゃった)」ように聴こえてしまいがちです。「これは装飾音です!」ということが客席にしっかり伝わる演奏やリズムを心がけてください。そしてここはアルトサックスと一緒に練習してください。
【22〜23小節目(1st)】
デクレッシェンドでmpまで落ちますが、スコアを見てください。この先もまだデクレッシェンドは続いているのです。どこまで続くかというと、26小節目アウフタクトからのEbクラリネットソロまで。このEbクラソロがどんな演奏になるのかは、デクレッシェンドがどんな表現になったかで変化します。その最初のきっかけを作っているひとりがトランペットです。
この作品に限らず、パート譜だけで勝手に理解して「あ、デクレッシェンドね、わかったわかった」と、適当に小さくすると、その先に続く演奏をしている人にとって、「空気が読めないラッパ吹き」になってしまう可能性があります。これはイヤですよね。
同様にクレッシェンドも、好き勝手に大きくすると「空気が読めない」と思われてしまいますので、たびたび注意しましょう。
やはりスコアを見ることは大切です。
【33小節目】
2拍目が4分休符ですが、ここもやはりスコアを見てください。いくつかのパートはこの2拍目も含めたメロディになっています。
よって、2拍目が、音がなくなる「穴」のような意識にならないようにしましょう。
【練習番号D】[ポイント:合成したメロディを練習しよう]
パート譜を見ると、音符と休符が入り乱れてややこしいリズムになっていますが、スコアを見ると、実はトランペット(特に1stと2nd)が一緒に吹くとひとつのメロディになっているのがわかると思います。
Bbクラリネットやアルトサックスは、トランペット1,2番を足した本来のメロディを吹いています。
金管アンサンブルやオーケストラの編曲ものでもこういった手法(配慮)はよく出てきますが(多分、トランペットには難しいから分離してくれていると思われる。違う意味合いから来ていたら失礼。)、このような場合、多少難しいかもしれませんが、パート譜を合成した本来あるべきメロディをまず練習し、それが吹けるようになってから与えられたパート譜通り吹くと、アンサンブルしやすいです。
以下の譜例を参考にしてみてください。
【50小節目(1st)】
木管楽器のほとんどが16分音符で細かく吹いている中に出てくる「金管セクション」であって、ソロではありません。トランペットばかりが出過ぎないように心がけましょう(他の楽器と競争にならないようにしましょう)。ここで求められているのは金管のやかましいサウンドではなく、「音圧」だと僕は思います。ですから、細かい音も、伸ばした音も、すべてが均一に、しっかりと存在している(しかし木管楽器を潰してしまうことのないよう)演奏することが大切です。
吹いている時に、一緒の動きをしている楽器はもちろんのこと、木管楽器の細かな動きも耳に入ってきている音量バランスをキープすることが大切です。
【56小節目】[ポイント:音量変化は口の中の容積でコントロールする]
徐々に金管楽器が一緒の動きになり、56小節目からは金管の力強いロングトーンを求められていますので、美しく、そして意味のある「音の中身」が詰まったサウンドを追求してください。
また、56小節目に「sub.p」があります。「突然pで」の指示です。これが出てくる場面は往々にして直前までfです。この場面もやはりそうなっています。この場面のように音量を瞬間的に変化させるための、理論的なコントロール方法をお伝えしておきます。
簡単に言うと「同じ音の高さである場合、大きな音量ほど口の中の容積が広く、小さな音ほど口の中の容積が小さい」のです。
なぜなら、音量を上げるためには腹圧を高め、肺など空気が詰まっているところの空気圧を高くする必要があるからです。しかし、空気圧が高まると同時にアパチュアに流れる息のスピードも上がってしまうため、そのままだとピッチも高くなってしまいます。それを修正するために、口の中の容積を大きくし(舌の動きや形状と、それにともなうアゴの動き)、ピッチを若干下げる必要がある、ということです。
大きな音量で鳴らす時はそれほど難しくないのですが、デクレッシェンドやピアノで演奏する時に、必要以上に腹圧を弱めてしまい、それを補うためにプレスや口周辺の力を使ってアパチュアサイズを小さくする行為をしてしまうと、音色が悪くなったり不発になるという副作用も生まれてしまうのです。「音を出すために必要な空気圧」はピアノであろうともしっかりをしっかりと確保することが大切で、他の場所に負担をかけることのないよう、口の中の容積を積極的に変化してコントロールしましょう。
このテクニックは身につけておきたいところです。
【練習番号G】
ここはトランペットのソリ(soli=soloの複数形)です。「トランペットらしさ」を求められていると考えます。こういったときは特に「音のツボ」に当たった音を吹き続けることが大切です。
もちろん「音のツボ」に当てることは、どんな場面でも常に求めている必要がありますが、この箇所のようにユニゾンでトランペットパートだけで演奏したときに大概「音程(ピッチ)が悪い」という指摘や意識を持つことが多いものです。「じゃあ全員でチューナーを見ながら吹こう」という発想に至ってほしくないのです。そんなことしてもピッチは揃いません。大切なのは各楽器の持つ一番良い音(=音のツボ)で吹くことであり、それによって音色の統一、ピッチの安定を得ることができるのです。
また、ここからのメロディはとても息の長いものになっています。練習番号Hまではどんどんテンションが上がっていくので、フレーズ感も長く、大切にしてほしいですし、何よりも「長い音」を抜いてほしくありません。音を抜くというのは、聴いている側からすると「収束感」「衰退感」を持ってしまいがちです。この場面は逆なのですから、特に音を張っていくように心がけてください。
78小節目の最後まで音を張り続けてほしいのですが、その小節3拍目でホルンやトロンボーン、打楽器が16分音符を4つ強打します(スコアを見てください)。そのリズムと一緒に長く伸ばした音を処理するようにすると、まとまり感が出ます。
【練習番号H】
練習番号Hからは場面が変わります。惰性で入ってしまうことのないよう、アタマの中を切り替えましょう。
【82小節目(1st)】
1stは82小節目で2拍半、休符になっていますが、その間もメロディは続いています。先ほど「練習番号D」で書いたように2ndの音符を合成をして練習をしてください。
【84小節目(2nd,3rd)】
2nd,3rdは84小節目の最後に3連符を吹きますが、この動きをしているのがアルトクラリネット、テナーサックス、タンバリンのみです。結果的にトランペットに隊長を委ねられていると考え、しっかり主張した演奏にしましょう。楽譜上は細かく見えますが「3つの音がすべてお客さんに聴き取れるようにするためには」という意識を持って演奏してください。もちろん、同じ動きをしている楽器全員での練習も必ず行いましょう。
【92小節目】[ポイント:3番スライド操作は日頃から習慣にして解決]
記譜上(レ ミ♭ レ ミ♭)はフィンガリングが難しいと感じられる方もいらっしゃるかと思いますが、それより何より、「レ(実音C)」は音のツボに当たった状態でピッチが高い音なので、必ず3番スライドを抜いてください。しかし「ミ♭(実音Des)」は3番スライドを抜いたままだと低くなってしまいます。
よって、素早い3番トリガー操作が必要になるので、日頃からトリガーを動かす習慣を身につけておきましょう。慣れてない方も、今から常にしっかり意識してしていればコンクールまでには間に合います。
半音階練習や音階練習を様々なテンポで練習するのが効率的と思います。
【最後の2音】
この2つの音も、短い音を素早く吹く!と思うと乱雑で、結果的にお客さんに何の音を吹いたのか理解してもらえなくなってしまいます。きちんと2つの音が聴こえる演奏をする、と意識して丁寧に演奏してください。クライマックスで「終わる!」という気持ちや、「次の自由曲!」という気持ちなど集中力が落ちる瞬間だからこそ、特に丁寧な演奏を心がけてください。
すべての楽器が同じリズムでこの作品は締めくくられますから、音量はそれほど必要ではありません。大切なのはバランスと「音形」です。タンギングや音の中身(音のツボ)、音の圧力のほうに意識を向けてください。
ということで、課題曲5「焔」の解説はここまでです。長くなってしまいました。
前回の記事でも書きましたが、この作品はそれほど複雑怪奇な作品ではありません。アンサンブル力やフィンガリング、音の跳躍などのコントロールを身につけるなどの、「基礎力」を高めるための勉強になる作品だと思いますので、コンクールで選択しなくてもチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
では、次回はまた他の作品について解説します。
また来週!
只今「吹奏楽コンクール課題曲トランペット解説2016」開催中です。
今回は課題曲5「焔」の後編。作品についても書きますが、この作品を演奏されない方、課題曲を演奏されない方にも参考になるように書いていきます。
《ひとつの作品を効率よく完成させる》
課題曲5のように音が取りづらい(調性感がはっきりしない作品)、フィンガリングが難しい作品は特にそうですが、自分のパートをきちんと演奏できるまでにかかる時間が通常よりも長くなりがちです。
そこでまず今回は、譜読みを確実に、そして合奏でも落ちずに演奏できるために心がけておきたいことを順を追って解説します。
【1.作品をスコアから読み取る】
スコアはすべての楽器が同時に何をしているのかが一目でわかる作品の設計図のようなものです。シンプルな作品であればスコア一度も見なくとも合奏だけで様子がわかりますが、この作品に関しては、パート譜だけで作品を作ろうとせずに、奏者全員がスコアをしっかりと見て、自分の立ち位置を理解した上で演奏する習慣を持ちたいところです。
そして、ただスコアを眺めるのではなく、以下の点について把握します。
(トランペットの場合)
・トランペットパートは他の楽器と場面ごとにどんな関係になっているのか。
・トランペットパート内ではそれぞれどのような関係、作り、立場になっているのか
・トランペットパートが入ってくる直前、他の楽器がどんなことをしているのか。
・トランペットパートが吹き終わった後、どんなことが起きているのか。
などです。
まずは自分と他の楽器がそれぞれの場面でどのように関わっているのかを知ることです。この作品でも何度か出てきますが、自分が吹きはじめる1拍前に他の楽器がとても印象的なリズムを演奏していることがあります。それを知っているか知らなかったかではアンサンブルに大きな違いが出るのは想像できることでしょう。
それが理解できた後は、トランペットがそれぞれの場面でどういう立ち位置にいるかを読み取りましょう。わかりやすいところでは、「ソロ」。他に誰も同じことをしていないとか、とても目立つように書かれているとか。
他にも、この作品に多いのがトランペットパートの「ソリ(soli=soloの複数形)」。ユニゾン(同じ音)で動いているとか、他にも、ブラスセクションの響きを求めている場面などもあります。それがわかってくると、さらにアンサンブルの構造を理解した上で、合奏に臨めるようになります。
このように、スコアから読み取れる情報は非常にたくさんあります。難しい理論などは必要なく、同じリズムを演奏しているのがどの楽器なのかとか、どの楽器がどのタイミングでどんな動きをしているのかを「図形的に」把握する程度で充分です。ぜひスコアを読む機会をたくさん設けてください。
【2.自分の立ち位置を合奏で理解する】
スコアを読んである程度場面ごとの構造を把握したら、今度は合奏で実際にどう聴こえているのか確認しましょう。
この時点では「落ちない」という目標を持って吹きましょう。ダイナミクスとか歌い方とか、そういうのはまだきちんとできなくて構いません。言ってしまえば音を間違えても構いません。大切なことは、全員が音の出だしをきちんと演奏することです。
それぞれの楽器が吹き始めるタイミングしっかり吹くことで、その作品の「構造」が見えてきます。
例えるならば、歯車の噛み合わせを確認する、ということでしょうか。噛み合わせの精度を上げるのはその後でも構わないので、とにかく正しく作動した結果、どのようになるのかを確認したいのです。
そのために大切な要素は「テンポ」と「拍(拍子)感」そして「勇気」「決断」です。
指揮者の振る棒の動きも(一応)参考にした上で、自分の中にある「拍感」「テンポ感」に自信を持ち、それぞれの場面が、事前に確認したスコア通りの構造になっているのかを「音」で確認します。
[指揮者は絶対的権力者ではありません]
先ほど「指揮者の棒も(一応)参考に」と言ったのには理由があります。それは、吹奏楽(部)の世界で感じることの多い、指揮者の絶対的権力者的立ち位置です。部活で指揮をしている人が安易に叫んでしまう「指揮に合わせろ!」「全員指揮棒に注目!」「どうして指揮に合わせない?!」といったような脅迫にも感じられる指揮者の言葉は、まるで音楽のすべてを司る神や独裁者のような存在になり、奏者(部員)の自由を奪い、縛り付けて道具のように演奏をさせてしまう力を持っています。
指揮者とは本来「プロデューサー」とか「現場監督」といった立場の人であり、作品をどのように完成させるかを決め、それを伝える人です。
しかし、実際に音を出して作品を音楽にしているのは奏者です。ですから、極端なことを言ってしまえば、指揮者の指示を無視して、奏者同士でアンサンブルを完成させてしまう、なんてこともできてしまうのです。それは決して良いことではありませんが、奏者の力は音楽を完成させるという点で言えば、指揮者以上に強いので、先ほど「指揮者の振る棒の動きも一応参考にした上で、」と書きました。
それだけ演奏者は責任があることを忘れないでください。奏者は指揮者のシモベではないのです。
指揮者がイメージしている(作ろうとしている)音楽を奏者は指揮者の動きや表情を汲み取り、アンサンブルをしていくことが作品の完成度を高めるための大切な条件です。
【3.アンサンブル力をつけるには。落ちないようにするには。】
もしあなたが演劇をやることになったとしましょう。台本をもらったら、自分の台詞だけを丸暗記して終わり、ではないはずです。自分の台詞だけ覚えても、どのタイミングで口を開けばいいのかまったくわかりませんよね。
台本を覚える、ということは誰がどんな台詞を言ったのかも含めて「作品の流れ」覚えることと言えます。
さらにクオリティを高めるには、それぞれの台詞は独り言なのか、誰かに対して言ったのか、それはどんなふうに言ったのか、愛の言葉なのか、攻撃なのかによっても、自分が次に言う台詞の読み方もかなり変わってくることでしょう。
音楽もこれと同じです。他の楽器とのつながり、関係性を理解しておくことがとても大切です。
音楽における台本は「スコア」です。スコアにはすべての台詞(=音符)とそれぞれのつながりが書かれています。しかし、大編成の音楽の場合はスコアを見ながら演奏することが困難なので「パート譜」というものが存在します。要は自分の台詞と、それらをどこで言うかのタイミングだけが書かれた紙。パート譜は演奏する上では効率的ではありますが、全体像を掴みにくいというデメリットもあります。まるで自分のパート譜だけで音楽が完結してしまっている(他のパート=他人)ような錯覚に陥ることもあります。
ですから、この作品のように複雑な構造になっている場合は特に、スコアをたびたび読む習慣を持っておくことが大切なのです。
演劇の話に戻りますが、自分の台詞を言うタイミングだけでなく、自分が発した台詞によって誰か(もしくは全体)にどんな影響を与えるのか(与えようとしているのか)を理解していなければ、ただのブツブツ独り言か、突然吠える変なキャラになってしまい、つながりを持てず、発信力も弱くなってしまいます。
次に口を開く相手が自分の台詞の影響を強く受けて「思わず台詞を発してしまう」そんな力を持った存在が多ければ多いほど、演劇の完成度が上がり、観る人の心を動かすことができるのです。
ですから、パート譜に書かれた音符を吹き終わり、「あ〜ミスしなくてよかった〜」と自分のことだけ考えるのではなく、自分の演奏を次につなげていく気持ちを持ち続けることが大切なのです。
バンドメンバー全員このような姿勢でいれば、初めての合奏でも崩壊したり止まってしまう事故は起こりにくいはずです。
[目的を持った練習形態をそのつど考える]
「トランペット」とか「金管」という分類はありますが、いざ吹奏楽曲を演奏する時、木管と同じメロディを吹くこともありますし、逆にパート内でもバラバラな役割を持っていることだってあります。意外に、トランペットだけとか金管だけで完成度を高める必要のある箇所というのは、ひとつの作品の中でも数箇所で、とても限られていると思いませんか?
しかし吹奏楽部では特に「個人練習」「パート練習」「セクション練習」「合奏」などと、形態だけで区分けしていることが多いです。区分けするのは良いのですが、それぞれの練習形態でどんな意味や目的を持って取り組むのかを事前にしっかりと提示し、それに沿って進めていく綿密な計画性を持っていないと、非効率的になることのほうが多いと考えます。
会社のように「営業部」「人事部」みたいに明確な仕事が分担されているわけではありませんので、指導する先生は安易に「今日の午前はパート練習で(テキトーやってくれ)」とか言わないほうが良いのでは、と個人的には思います。
パート練習を延々をやるのではなく、「練習番号○のこの箇所はクラリネットと同じ動きなので、合同練習する」という時間や、「金管と打楽器のつながりが強いこの箇所のクオリティを上げる」などと目的を持って、短時間で機動力のあるバラバラ練習をすることをお勧めします。
個人の譜読みがほぼ終わり、合奏を一度体験した時(スコアを各自がしっかり読んだ後)、作品の様々な箇所で、どの楽器同士の関係性が強いのかを把握して、いろんな形態で練習をするという練習を積極的に行うと合奏でも非常にコミュニケーションの高いアンサンブルができるはずです。
ぜひ安直なパート練習、セクション練習ばかり行わないようにしてください。
《演奏のポイント》
では、この作品のポイントとなる箇所をいくつか書き出してみたいと思います。
【6〜7小節目】
金管楽器が高音域より重なっていきます。誰が誰の次にくるのかをスコアで把握しておくことは前述の通りですが、2ndトランペットが3連符の3つ目の音から入ってくるのが若干吹きにくいと思います。ここの2nd奏者は、慣れるまで1stの出だしを一緒に吹いて、合成してみてください。タテのつながりがわかってくると思います。
【練習番号A】
この箇所のように、何度か「キメ」ポイントが出てきます。金管全員(+α)でタテをがっちり合わせることで次のシーンへつながっていく重要な箇所です。こういった場所では、各楽器のトップが少しだけアインザッツをしてあげることで安心して演奏ができると思うので、司令塔の意識を持ってください。
【12小節目(1st)】
この箇所のように、1stだけが演奏しているシーンもたびたび出てきます。しかしソロではありません。どの楽器と同じことをしているのか、そのつどスコアを見て確認し、必要であれば同じ動きをしているメンバーだけで練習をしてみてください。
【15小節目】
トランペットが吹き始める1拍前に中音域の楽器群が5連符を演奏しています。先ほど書いた演劇での台詞のつながりのような箇所です。自分のパートだけを「1,2,3,4…」と数えるのではなく、他の楽器が自分たちの演奏開始を促しているのだ、という意識を持てるだけで、よりアンサンブルになっていきます。
その後すぐに来る「練習番号B(1st)」の一拍前も同じです。ホルンが全員で6連符を吹いています。これをきっかけにしましょう。
【19小節目】
ここはトランペットがユニゾンでうごきます。アルトサックスも一緒に動いていますが、こういった全員がまったく同じ動きをしている箇所は「トランペットのサウンド(=トランペットらしさ)を求めている」と考えられます。他の楽器には真似できないトランペットならではの演奏、そしてトランペットパートの統一感を目指してください。ピッチのことだけでなく「息のスピード」「音色」「音の密度」そして同じ音の輪郭を持つための「タンギング(発音、滑舌)」を意識しましょう。これらの条件が整えば結果的に「音のツボ」に当たった演奏ができますから、ピッチは勝手に揃ってくるものです。もちろんソルフェージュ(メロディを歌える)力も必要です。
19小節目に装飾音がありますが、こうした小さなサイズの音符は「素早く演奏するもの」と意識しすぎてしまう傾向があります。しかし、あまりに速く演奏してしまうと、客席には「ミスした(違う音を吹いちゃった)」ように聴こえてしまいがちです。「これは装飾音です!」ということが客席にしっかり伝わる演奏やリズムを心がけてください。そしてここはアルトサックスと一緒に練習してください。
【22〜23小節目(1st)】
デクレッシェンドでmpまで落ちますが、スコアを見てください。この先もまだデクレッシェンドは続いているのです。どこまで続くかというと、26小節目アウフタクトからのEbクラリネットソロまで。このEbクラソロがどんな演奏になるのかは、デクレッシェンドがどんな表現になったかで変化します。その最初のきっかけを作っているひとりがトランペットです。
この作品に限らず、パート譜だけで勝手に理解して「あ、デクレッシェンドね、わかったわかった」と、適当に小さくすると、その先に続く演奏をしている人にとって、「空気が読めないラッパ吹き」になってしまう可能性があります。これはイヤですよね。
同様にクレッシェンドも、好き勝手に大きくすると「空気が読めない」と思われてしまいますので、たびたび注意しましょう。
やはりスコアを見ることは大切です。
【33小節目】
2拍目が4分休符ですが、ここもやはりスコアを見てください。いくつかのパートはこの2拍目も含めたメロディになっています。
よって、2拍目が、音がなくなる「穴」のような意識にならないようにしましょう。
【練習番号D】[ポイント:合成したメロディを練習しよう]
パート譜を見ると、音符と休符が入り乱れてややこしいリズムになっていますが、スコアを見ると、実はトランペット(特に1stと2nd)が一緒に吹くとひとつのメロディになっているのがわかると思います。
Bbクラリネットやアルトサックスは、トランペット1,2番を足した本来のメロディを吹いています。
金管アンサンブルやオーケストラの編曲ものでもこういった手法(配慮)はよく出てきますが(多分、トランペットには難しいから分離してくれていると思われる。違う意味合いから来ていたら失礼。)、このような場合、多少難しいかもしれませんが、パート譜を合成した本来あるべきメロディをまず練習し、それが吹けるようになってから与えられたパート譜通り吹くと、アンサンブルしやすいです。
以下の譜例を参考にしてみてください。
【50小節目(1st)】
木管楽器のほとんどが16分音符で細かく吹いている中に出てくる「金管セクション」であって、ソロではありません。トランペットばかりが出過ぎないように心がけましょう(他の楽器と競争にならないようにしましょう)。ここで求められているのは金管のやかましいサウンドではなく、「音圧」だと僕は思います。ですから、細かい音も、伸ばした音も、すべてが均一に、しっかりと存在している(しかし木管楽器を潰してしまうことのないよう)演奏することが大切です。
吹いている時に、一緒の動きをしている楽器はもちろんのこと、木管楽器の細かな動きも耳に入ってきている音量バランスをキープすることが大切です。
【56小節目】[ポイント:音量変化は口の中の容積でコントロールする]
徐々に金管楽器が一緒の動きになり、56小節目からは金管の力強いロングトーンを求められていますので、美しく、そして意味のある「音の中身」が詰まったサウンドを追求してください。
また、56小節目に「sub.p」があります。「突然pで」の指示です。これが出てくる場面は往々にして直前までfです。この場面もやはりそうなっています。この場面のように音量を瞬間的に変化させるための、理論的なコントロール方法をお伝えしておきます。
簡単に言うと「同じ音の高さである場合、大きな音量ほど口の中の容積が広く、小さな音ほど口の中の容積が小さい」のです。
なぜなら、音量を上げるためには腹圧を高め、肺など空気が詰まっているところの空気圧を高くする必要があるからです。しかし、空気圧が高まると同時にアパチュアに流れる息のスピードも上がってしまうため、そのままだとピッチも高くなってしまいます。それを修正するために、口の中の容積を大きくし(舌の動きや形状と、それにともなうアゴの動き)、ピッチを若干下げる必要がある、ということです。
大きな音量で鳴らす時はそれほど難しくないのですが、デクレッシェンドやピアノで演奏する時に、必要以上に腹圧を弱めてしまい、それを補うためにプレスや口周辺の力を使ってアパチュアサイズを小さくする行為をしてしまうと、音色が悪くなったり不発になるという副作用も生まれてしまうのです。「音を出すために必要な空気圧」はピアノであろうともしっかりをしっかりと確保することが大切で、他の場所に負担をかけることのないよう、口の中の容積を積極的に変化してコントロールしましょう。
このテクニックは身につけておきたいところです。
【練習番号G】
ここはトランペットのソリ(soli=soloの複数形)です。「トランペットらしさ」を求められていると考えます。こういったときは特に「音のツボ」に当たった音を吹き続けることが大切です。
もちろん「音のツボ」に当てることは、どんな場面でも常に求めている必要がありますが、この箇所のようにユニゾンでトランペットパートだけで演奏したときに大概「音程(ピッチ)が悪い」という指摘や意識を持つことが多いものです。「じゃあ全員でチューナーを見ながら吹こう」という発想に至ってほしくないのです。そんなことしてもピッチは揃いません。大切なのは各楽器の持つ一番良い音(=音のツボ)で吹くことであり、それによって音色の統一、ピッチの安定を得ることができるのです。
また、ここからのメロディはとても息の長いものになっています。練習番号Hまではどんどんテンションが上がっていくので、フレーズ感も長く、大切にしてほしいですし、何よりも「長い音」を抜いてほしくありません。音を抜くというのは、聴いている側からすると「収束感」「衰退感」を持ってしまいがちです。この場面は逆なのですから、特に音を張っていくように心がけてください。
78小節目の最後まで音を張り続けてほしいのですが、その小節3拍目でホルンやトロンボーン、打楽器が16分音符を4つ強打します(スコアを見てください)。そのリズムと一緒に長く伸ばした音を処理するようにすると、まとまり感が出ます。
【練習番号H】
練習番号Hからは場面が変わります。惰性で入ってしまうことのないよう、アタマの中を切り替えましょう。
【82小節目(1st)】
1stは82小節目で2拍半、休符になっていますが、その間もメロディは続いています。先ほど「練習番号D」で書いたように2ndの音符を合成をして練習をしてください。
【84小節目(2nd,3rd)】
2nd,3rdは84小節目の最後に3連符を吹きますが、この動きをしているのがアルトクラリネット、テナーサックス、タンバリンのみです。結果的にトランペットに隊長を委ねられていると考え、しっかり主張した演奏にしましょう。楽譜上は細かく見えますが「3つの音がすべてお客さんに聴き取れるようにするためには」という意識を持って演奏してください。もちろん、同じ動きをしている楽器全員での練習も必ず行いましょう。
【92小節目】[ポイント:3番スライド操作は日頃から習慣にして解決]
記譜上(レ ミ♭ レ ミ♭)はフィンガリングが難しいと感じられる方もいらっしゃるかと思いますが、それより何より、「レ(実音C)」は音のツボに当たった状態でピッチが高い音なので、必ず3番スライドを抜いてください。しかし「ミ♭(実音Des)」は3番スライドを抜いたままだと低くなってしまいます。
よって、素早い3番トリガー操作が必要になるので、日頃からトリガーを動かす習慣を身につけておきましょう。慣れてない方も、今から常にしっかり意識してしていればコンクールまでには間に合います。
半音階練習や音階練習を様々なテンポで練習するのが効率的と思います。
【最後の2音】
この2つの音も、短い音を素早く吹く!と思うと乱雑で、結果的にお客さんに何の音を吹いたのか理解してもらえなくなってしまいます。きちんと2つの音が聴こえる演奏をする、と意識して丁寧に演奏してください。クライマックスで「終わる!」という気持ちや、「次の自由曲!」という気持ちなど集中力が落ちる瞬間だからこそ、特に丁寧な演奏を心がけてください。
すべての楽器が同じリズムでこの作品は締めくくられますから、音量はそれほど必要ではありません。大切なのはバランスと「音形」です。タンギングや音の中身(音のツボ)、音の圧力のほうに意識を向けてください。
ということで、課題曲5「焔」の解説はここまでです。長くなってしまいました。
前回の記事でも書きましたが、この作品はそれほど複雑怪奇な作品ではありません。アンサンブル力やフィンガリング、音の跳躍などのコントロールを身につけるなどの、「基礎力」を高めるための勉強になる作品だと思いますので、コンクールで選択しなくてもチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
では、次回はまた他の作品について解説します。
また来週!
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at 05:11, 荻原明(おぎわらあきら), 吹奏楽コンクール課題曲2016
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