@Rappa_fukikataをフォロー
プレスト音楽教室
ラッパの吹き方bot/Twitter
ラッパの吹き方 Facebook
-
s m t w t f s 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31
- profile
- recommend
-
トランペット ウォームアップ本 (MyISBN - デザインエッグ社) (JUGEMレビュー »)
荻原 明
【販売部数1000部達成!】「ラッパの吹き方」ブログ著者、荻原明 初の教則本!ウォームアップと奏法の基礎を身につけられる一冊です!
- sponsored links
- links
- mobile
-
スマホ版表示に変更
※スマートフォンで閲覧している時のみ作動します
- サイト内検索はこちら↓
2016.06.14 Tuesday
吹奏楽コンクール課題曲2016トランペット解説【2.スペインの市場で / 山本雅一】後編
みなさんこんにちは!
ただ今、吹奏楽コンクール課題曲トランペット解説実施中です。今週は課題曲2「スペインの市場で」の後編です。これで、今年度の課題曲すべての解説が完了します。他の作品解説は以下のリンクよりご覧ください。
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」前編
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」後編
課題曲5.焔 前編
課題曲5.焔 後編
課題曲3.ある英雄の記憶 〜「虹の国と氷の国」より 前編
課題曲3.ある英雄の記憶 〜「虹の国と氷の国」より 後編
課題曲1.マーチ・スカイブルー・ドリーム 前編
課題曲1.マーチ・スカイブルー・ドリーム 後編
課題曲2.スペインの市場で 前編
この作品を演奏しない方も、そもそも課題曲とは無関係の方にも参考になることをできる限り書いておりますので、他の作品解説も目を通してみてください。
それでは今週は順を追って解説していきますが、演奏するにあたって非常に重要なことを先週の記事に書きました。拍子の取り方をまず理解しておかないとこの作品は演奏しにくいので、読んでいない方はまず「課題曲2.スペインの市場で/前編」に書いてあることを理解してからこちらの記事を読み進めてください。
《指揮者の振り方に左右されないように》
場面ごとの解説をする前に、前回の記事で話題にしたように3/4拍子と6/8拍子が混在している音楽です。よって、指揮者がどちらで振るかは、それがメロディに対してなのか、リズムに対してなのかで変化していくものだ、と覚悟しておくと良いでしょう。要するに、「指揮棒の動きに合わせる」「指揮者の棒の動きと拍と合致させる」なんて意識を持ってしまうと、とたんに演奏が崩れてしまいますし、そもそも指揮者は「人間メトロノーム」ではありませんから、テンポキープするための機械のように見ないよう、注意しましょう。指揮者にテンポを出してもらうのではなく、自主的にテンポを培っていくことが、この作品に限らず重要です。
【10小節目】
ここは3/4拍子ではありますが、6/8拍子として捉えてください。連桁(れんこう:8分音符以上に付いている「旗」が隣同士くっつき合って一本の太い横棒になったもの)の付け方を6/8拍子に書き直してみてください(練習番号Bと同じ捉え方にする)。頭の中の音楽(聴こえてくる音楽)と楽譜の拍子が一致すれば、それだけで吹きやすくなります。
これと同じような場面がこの先何度も出てくるので、それぞれ書き直すなど工夫して読みやすくしてみましょう。
【33小節目】
この小節だけ3/4拍子でとります。先週の記事でもこの小節を話題に出しました。
↓
この楽譜を3/4に書き換えるとこうなります
↓
これで簡単になりました。
ちなみに、その前後の小節は6/8ですので、ジャンプ力の加減(前回の記事参照)の切り替えをできるようにしておきましょう。
【38小節目〜(拍子の取り方)】
ここからめまぐるしく感覚的拍子が変わります。以下を参考にしてください。
38小節も6/8拍子
39〜41小節目は3/4拍子
42小節目は6/8拍子
43小節目〜は3/4拍子
【58小節目アウフタクト】
[指揮を参考にして、アインザッツで合わせる]
非常にシンプルな動きですが、トランペット以外誰も演奏していない「むき出し」なところです。こういった箇所でのアンサンブル力は評価の対象としても非常に重要視されます。
まず、各トランペット奏者が指揮者(指揮棒)に合わせようと、それぞれ「指揮者 対 各演奏者」という一対一の関係になると、一向にアンサンブルになりません。どんなときでも同じですが、「それぞれが指揮者に合わせる」のではなく、「指揮者の指示をきっかけ、参考」にして、「1st(トップ奏者)のアインザッツでアンサンブルをする」ことが大切です。
この点については過去の記事
「室内楽(アンサンブル)4」
「室内楽(アンサンブル)でのアインザッツ」
もぜひ参考にしてください。アインザッツをきっかけにしたアンサンブルを日常化するためには、合奏だけでなく様々な練習形態でも同じように行うことが一番です。
パート練習やセクション練習などのときに、メトロノームをカチカチ鳴らしてパートリーダーさんが「1,2,3,4!」とか言って合わせているようでは、アンサンブル力は一向に身につきません。
いわゆる「縦を揃える」とうのは、誰か(メトロノームも含む)の持っている、もしくは表現しているテンポに全員が「合わせにいく」のではなく、確固たるテンポ感、リズム感、フレーズ感をそれぞれの奏者が心や頭の中に強く感じ、それを演奏に表現すること、それと同時に他の奏者のテンポ感やリズム感、フレーズ感を耳や心で感じ取ること。これらがあればメトロームのカチカチに合わせる必要もありませんし、むしろそれがとても窮屈で演奏しにくいものと自覚できることでしょう。
[ピッチ、ハーモニーの合わせ方]
この作品のトランペットは、オクターブやユニゾンで書かれているところが結構あります。オクターブ(8度音程)やユニゾン(1度音程)というのは、ピッチが合っているかどうかが一番わかりやすい音程です。
では、各自のピッチを安定させ、パート内での音程を良くするために、どのような練習をすれば良いでしょうか。
キーボードやチューナーに対して自分の音が正しいかそうでないかを評価する、という行為は音楽的ピッチや音楽的音程感を一向に良くしてくれません。それどころか、「自分の音をどんな手段を使っても、合わせようとする」ことばかりに意識が向いてしまい、ピッチを唇や口周辺の力で変化させ、奏法が崩れてどんどん悪い方向へ進んでいきます。
そもそも、なぜ安定したピッチを求めているのか、根本的な目的を忘れていることが多いのです。美しい響きや美しいメロディを演奏するためにやっていたはずなのに、いつしか「ピッチが安定するためにピッチを安定させる」という目的がさっぱりわからない単なる「作業」になっていることが非常に多いのです。音楽的な目的意識や求めているものを常に明確にしておく必要があります。
では、具体的にどうすればいいのでしょうか。
まず自分の楽器のピッチを安定させるために一番大切なのは「音のツボに当てる」ということです。簡単に言えば、その楽器を持つ一番良くなるポイントで鳴らすこと。すべての音をツボに当てることができれば、もうこれだけで大概はピッチが安定します。
ただ、その楽器の一番良い音=トランペットらしい響きがどういう音なのかを知らなければ目指すもののイメージを持てないので、そこは、生で一流のプロの演奏を聴くとか(録音はあまり参考になりません)、プロにレッスンを受けるなどが必要かもしれません。
そして、すべての音をツボに当てられるためには、「美しい音階(音楽的に美しい音程感)」がないと難しいので、ソルフェージュ力を高めるためのトランペット以外の練習(声に出して歌うなど)やレッスンができると、より近道かと思います。
音のツボを当てられる奏者が揃えば、ある程度の安定したユニゾン、オクターブ、ハーモニーを聴かせることはできます。しかしここでも、「美しいユニゾン」「美しいハーモニー」とはどんな響きなのかを具体的にイメージできるかが非常に大切なので、やはり一流のプロのアンサンブル(楽器や編成問わず)やオーケストラの響きを生で聴くことです。頭の中にイメージのストックが多ければ多いほど、実際の演奏にも影響させやすくなります。
中でもおすすめは、クオリティの高いトロンボーン4重奏や人数の少ない合唱です。バロック音楽などもいいですね(バロック音楽の中でも古楽器で演奏しているものは現代ピッチに比べてとても低いのでびっくりしないでくださいね)。
奏法面から言うと、2人以上の奏者の音が安定した響きに聴こえるためには、単なるチューナー的ピッチの統一ではなく、「音色」「音のスピード感」「演奏スタイル(曲に合っているか)」の要素が非常に大切です。要素や方向性が似ていたり近いもののほうがより安定した響きになるのは想像つくと思います。
ちなみに、65小節目からも同じようにパート内で安定したアンサンブルが求められますが、ここはミュート演奏の指示です。
ミュートの種類にもよりますが、「音のツボ」に当たらないと、くぐもった音になることが多いです。
それに慣れるためにも、ミュートは演奏するときだけ使うのではなく、個人練習などでミュートを付けた状態でずっと安定した演奏ができるか(=音のツボに当たり続けているか)の確認をするために使ってみるのも良いと思います。
また、ミュートはメーカーや種類によって音色が大きく異なりますので、できれば全員が同じミュートで演奏しましょう。
【73小節目】
[テンポの遅い3連符に注意]
ハバネラのメロディには必ずと言っていいほど3連符が出てきます。この、ねっとりとしたメロディが雰囲気を盛り上げているのですが、あまりに歌い込みすぎて、3連符のリズムが崩れてしまわないよう、注意が必要です。
往々にしてこのようなリズムに変形しやすいです。
※わかりやすいように、この作品の倍の長さ(2拍での3連符)に置き換えています。
右のリズムになってしまうと、もはや3連符ではありません。これはポップスによく出てくるリズムで、なんとなく耳に慣れ親しんでいるので、ついついこうなってしまう方も結構多いのです。
対策としては、3連符の最初の音をあまり引っ張りすぎず、すぐに2つ目、3つ目の音に向かってしまうのが良いと思います。そして、3つ目の音を、気持ち長めに歌うことで3連符らしさが出てきます。
ハバネラの間、3連符には注意してください。
【112〜114小節目】
ハバネラから抜け、冒頭の主題に戻ってきたので、また3拍子と6拍子の切り替えに意識してください。
特に、この112小節〜114小節は、楽譜上6/8拍子で書いてありますが、3/4拍子の音楽です。トランペットパート内でのアンサンブル力が試される箇所ですから、拍子の取り方、テンポの感じ方、タンギングのクオリティといった様々なものの統一感を持った上での演奏を心がけましょう。
【練習番号K】
ここから3/4拍子になりますが、最初の小節だけは6/8拍子です。他のパートもすべて6/8拍子ですから、バスクラ、トロンボーン、ユーフォ、テューバ、コントラバスのリズムの感じ方にも注意が必要です。
[まとめ]
この作品は、小編成用での演奏が可能なので、より「ウインドアンサンブル」なオーケストレーションになっています。ということは、自分の担当しているすべての音に対する責任感も大きいのです(自分以外に同じことをしている人が少ないか、だれもいないから)。
心細くなったり、それが緊張の原因になることもあるかもしれませんが、「全員が主役」と意識し、室内楽を楽しんでいるような、それぞれの楽器らしい音色や奏者の個性を生かしたアンサンブルを心がけてください。
みんなが同じ目線で作り上げることを意識し、決して指揮者に付き従う奏者にならないようにしましょう。
ということで、これですべての課題曲解説が終わりました。
次回からは、少し話題を広げて、効率的な練習方法やコンクールなどの舞台に上がるときのこと、メンタル的なことなどを書いていこうと思っていますので、ぜひ引き続きお付き合いください。
それでは、また来週!
ただ今、吹奏楽コンクール課題曲トランペット解説実施中です。今週は課題曲2「スペインの市場で」の後編です。これで、今年度の課題曲すべての解説が完了します。他の作品解説は以下のリンクよりご覧ください。
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」前編
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」後編
課題曲5.焔 前編
課題曲5.焔 後編
課題曲3.ある英雄の記憶 〜「虹の国と氷の国」より 前編
課題曲3.ある英雄の記憶 〜「虹の国と氷の国」より 後編
課題曲1.マーチ・スカイブルー・ドリーム 前編
課題曲1.マーチ・スカイブルー・ドリーム 後編
課題曲2.スペインの市場で 前編
この作品を演奏しない方も、そもそも課題曲とは無関係の方にも参考になることをできる限り書いておりますので、他の作品解説も目を通してみてください。
それでは今週は順を追って解説していきますが、演奏するにあたって非常に重要なことを先週の記事に書きました。拍子の取り方をまず理解しておかないとこの作品は演奏しにくいので、読んでいない方はまず「課題曲2.スペインの市場で/前編」に書いてあることを理解してからこちらの記事を読み進めてください。
《指揮者の振り方に左右されないように》
場面ごとの解説をする前に、前回の記事で話題にしたように3/4拍子と6/8拍子が混在している音楽です。よって、指揮者がどちらで振るかは、それがメロディに対してなのか、リズムに対してなのかで変化していくものだ、と覚悟しておくと良いでしょう。要するに、「指揮棒の動きに合わせる」「指揮者の棒の動きと拍と合致させる」なんて意識を持ってしまうと、とたんに演奏が崩れてしまいますし、そもそも指揮者は「人間メトロノーム」ではありませんから、テンポキープするための機械のように見ないよう、注意しましょう。指揮者にテンポを出してもらうのではなく、自主的にテンポを培っていくことが、この作品に限らず重要です。
【10小節目】
ここは3/4拍子ではありますが、6/8拍子として捉えてください。連桁(れんこう:8分音符以上に付いている「旗」が隣同士くっつき合って一本の太い横棒になったもの)の付け方を6/8拍子に書き直してみてください(練習番号Bと同じ捉え方にする)。頭の中の音楽(聴こえてくる音楽)と楽譜の拍子が一致すれば、それだけで吹きやすくなります。
これと同じような場面がこの先何度も出てくるので、それぞれ書き直すなど工夫して読みやすくしてみましょう。
【33小節目】
この小節だけ3/4拍子でとります。先週の記事でもこの小節を話題に出しました。
↓
この楽譜を3/4に書き換えるとこうなります
↓
これで簡単になりました。
ちなみに、その前後の小節は6/8ですので、ジャンプ力の加減(前回の記事参照)の切り替えをできるようにしておきましょう。
【38小節目〜(拍子の取り方)】
ここからめまぐるしく感覚的拍子が変わります。以下を参考にしてください。
38小節も6/8拍子
39〜41小節目は3/4拍子
42小節目は6/8拍子
43小節目〜は3/4拍子
【58小節目アウフタクト】
[指揮を参考にして、アインザッツで合わせる]
非常にシンプルな動きですが、トランペット以外誰も演奏していない「むき出し」なところです。こういった箇所でのアンサンブル力は評価の対象としても非常に重要視されます。
まず、各トランペット奏者が指揮者(指揮棒)に合わせようと、それぞれ「指揮者 対 各演奏者」という一対一の関係になると、一向にアンサンブルになりません。どんなときでも同じですが、「それぞれが指揮者に合わせる」のではなく、「指揮者の指示をきっかけ、参考」にして、「1st(トップ奏者)のアインザッツでアンサンブルをする」ことが大切です。
この点については過去の記事
「室内楽(アンサンブル)4」
「室内楽(アンサンブル)でのアインザッツ」
もぜひ参考にしてください。アインザッツをきっかけにしたアンサンブルを日常化するためには、合奏だけでなく様々な練習形態でも同じように行うことが一番です。
パート練習やセクション練習などのときに、メトロノームをカチカチ鳴らしてパートリーダーさんが「1,2,3,4!」とか言って合わせているようでは、アンサンブル力は一向に身につきません。
いわゆる「縦を揃える」とうのは、誰か(メトロノームも含む)の持っている、もしくは表現しているテンポに全員が「合わせにいく」のではなく、確固たるテンポ感、リズム感、フレーズ感をそれぞれの奏者が心や頭の中に強く感じ、それを演奏に表現すること、それと同時に他の奏者のテンポ感やリズム感、フレーズ感を耳や心で感じ取ること。これらがあればメトロームのカチカチに合わせる必要もありませんし、むしろそれがとても窮屈で演奏しにくいものと自覚できることでしょう。
[ピッチ、ハーモニーの合わせ方]
この作品のトランペットは、オクターブやユニゾンで書かれているところが結構あります。オクターブ(8度音程)やユニゾン(1度音程)というのは、ピッチが合っているかどうかが一番わかりやすい音程です。
では、各自のピッチを安定させ、パート内での音程を良くするために、どのような練習をすれば良いでしょうか。
キーボードやチューナーに対して自分の音が正しいかそうでないかを評価する、という行為は音楽的ピッチや音楽的音程感を一向に良くしてくれません。それどころか、「自分の音をどんな手段を使っても、合わせようとする」ことばかりに意識が向いてしまい、ピッチを唇や口周辺の力で変化させ、奏法が崩れてどんどん悪い方向へ進んでいきます。
そもそも、なぜ安定したピッチを求めているのか、根本的な目的を忘れていることが多いのです。美しい響きや美しいメロディを演奏するためにやっていたはずなのに、いつしか「ピッチが安定するためにピッチを安定させる」という目的がさっぱりわからない単なる「作業」になっていることが非常に多いのです。音楽的な目的意識や求めているものを常に明確にしておく必要があります。
では、具体的にどうすればいいのでしょうか。
まず自分の楽器のピッチを安定させるために一番大切なのは「音のツボに当てる」ということです。簡単に言えば、その楽器を持つ一番良くなるポイントで鳴らすこと。すべての音をツボに当てることができれば、もうこれだけで大概はピッチが安定します。
ただ、その楽器の一番良い音=トランペットらしい響きがどういう音なのかを知らなければ目指すもののイメージを持てないので、そこは、生で一流のプロの演奏を聴くとか(録音はあまり参考になりません)、プロにレッスンを受けるなどが必要かもしれません。
そして、すべての音をツボに当てられるためには、「美しい音階(音楽的に美しい音程感)」がないと難しいので、ソルフェージュ力を高めるためのトランペット以外の練習(声に出して歌うなど)やレッスンができると、より近道かと思います。
音のツボを当てられる奏者が揃えば、ある程度の安定したユニゾン、オクターブ、ハーモニーを聴かせることはできます。しかしここでも、「美しいユニゾン」「美しいハーモニー」とはどんな響きなのかを具体的にイメージできるかが非常に大切なので、やはり一流のプロのアンサンブル(楽器や編成問わず)やオーケストラの響きを生で聴くことです。頭の中にイメージのストックが多ければ多いほど、実際の演奏にも影響させやすくなります。
中でもおすすめは、クオリティの高いトロンボーン4重奏や人数の少ない合唱です。バロック音楽などもいいですね(バロック音楽の中でも古楽器で演奏しているものは現代ピッチに比べてとても低いのでびっくりしないでくださいね)。
奏法面から言うと、2人以上の奏者の音が安定した響きに聴こえるためには、単なるチューナー的ピッチの統一ではなく、「音色」「音のスピード感」「演奏スタイル(曲に合っているか)」の要素が非常に大切です。要素や方向性が似ていたり近いもののほうがより安定した響きになるのは想像つくと思います。
ちなみに、65小節目からも同じようにパート内で安定したアンサンブルが求められますが、ここはミュート演奏の指示です。
ミュートの種類にもよりますが、「音のツボ」に当たらないと、くぐもった音になることが多いです。
それに慣れるためにも、ミュートは演奏するときだけ使うのではなく、個人練習などでミュートを付けた状態でずっと安定した演奏ができるか(=音のツボに当たり続けているか)の確認をするために使ってみるのも良いと思います。
また、ミュートはメーカーや種類によって音色が大きく異なりますので、できれば全員が同じミュートで演奏しましょう。
【73小節目】
[テンポの遅い3連符に注意]
ハバネラのメロディには必ずと言っていいほど3連符が出てきます。この、ねっとりとしたメロディが雰囲気を盛り上げているのですが、あまりに歌い込みすぎて、3連符のリズムが崩れてしまわないよう、注意が必要です。
往々にしてこのようなリズムに変形しやすいです。
※わかりやすいように、この作品の倍の長さ(2拍での3連符)に置き換えています。
右のリズムになってしまうと、もはや3連符ではありません。これはポップスによく出てくるリズムで、なんとなく耳に慣れ親しんでいるので、ついついこうなってしまう方も結構多いのです。
対策としては、3連符の最初の音をあまり引っ張りすぎず、すぐに2つ目、3つ目の音に向かってしまうのが良いと思います。そして、3つ目の音を、気持ち長めに歌うことで3連符らしさが出てきます。
ハバネラの間、3連符には注意してください。
【112〜114小節目】
ハバネラから抜け、冒頭の主題に戻ってきたので、また3拍子と6拍子の切り替えに意識してください。
特に、この112小節〜114小節は、楽譜上6/8拍子で書いてありますが、3/4拍子の音楽です。トランペットパート内でのアンサンブル力が試される箇所ですから、拍子の取り方、テンポの感じ方、タンギングのクオリティといった様々なものの統一感を持った上での演奏を心がけましょう。
【練習番号K】
ここから3/4拍子になりますが、最初の小節だけは6/8拍子です。他のパートもすべて6/8拍子ですから、バスクラ、トロンボーン、ユーフォ、テューバ、コントラバスのリズムの感じ方にも注意が必要です。
[まとめ]
この作品は、小編成用での演奏が可能なので、より「ウインドアンサンブル」なオーケストレーションになっています。ということは、自分の担当しているすべての音に対する責任感も大きいのです(自分以外に同じことをしている人が少ないか、だれもいないから)。
心細くなったり、それが緊張の原因になることもあるかもしれませんが、「全員が主役」と意識し、室内楽を楽しんでいるような、それぞれの楽器らしい音色や奏者の個性を生かしたアンサンブルを心がけてください。
みんなが同じ目線で作り上げることを意識し、決して指揮者に付き従う奏者にならないようにしましょう。
ということで、これですべての課題曲解説が終わりました。
次回からは、少し話題を広げて、効率的な練習方法やコンクールなどの舞台に上がるときのこと、メンタル的なことなどを書いていこうと思っていますので、ぜひ引き続きお付き合いください。
それでは、また来週!
当ブログの写真・記事等の(全部、一部問わず)無断利用、ネット上(TwitterやFacebookなどのSNSを含む)などへの無断転載を禁止します。
at 05:42, 荻原明(おぎわらあきら), 吹奏楽コンクール課題曲2016
-, -, pookmark
2016.06.07 Tuesday
吹奏楽コンクール課題曲2016トランペット解説【2.スペインの市場で / 山本雅一】前編
みなさんこんにちは!
先月より、今年度の吹奏楽コンクール課題曲のトランペット解説を行ってまいりましたが、やっと最後の曲解説に入りました。最後は課題曲2「スペインの市場で」です。
現在、課題曲2を残してすでに掲載を終えています。これまで書いてきた課題曲解説の本文をご覧になりたい方は以下をクリックしてください。
↓
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」前編
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」後編
課題曲5.焔 前編
課題曲5.焔 後編
課題曲3.ある英雄の記憶 〜「虹の国と氷の国」より 前編
課題曲3.ある英雄の記憶 〜「虹の国と氷の国」より 後編
課題曲1.マーチ・スカイブルー・ドリーム 前編
課題曲1.マーチ・スカイブルー・ドリーム 後編
この作品を演奏しない方も、そもそも課題曲とは無関係の方にも参考になることをできる限り書いておりますので、ぜひ一度目を通してみてください。
今回のお話を読む前に、この作品の演奏をまず聴いてください。YouTubeで検索するといろいろ出てきます。
とっても聴きやすく、明るく爽やかな印象を受けるかと思います。個人的には冒頭が「魔女の宅急便」の「海の見える街」の後半に聴こえます(笑)
スペイン風の音楽って、日本人になじみやすいのでしょうか。カルメンが人気だったりするのも何か共通する点があるのかもしれませんね。
では、曲を聴いた後、この作品の楽譜、できればスコアをご覧になってください。多分この作品を演奏される方みなさんが直面したことだと思いますが、聴いてるのと楽譜を読むのとではだいぶ違う印象、言うならば読みにくさを感じませんか?
それはなぜか、そしてどうすれば読みやすくなるのか考えてみましょう。
《書き方は何通りもある》
楽譜というのは、同じ演奏を再現するための書き方が何通りもあります。
例えば、4拍子の曲を2拍子に書くこと、可能ですね。小節線の数が倍に増えます。
12/8拍子を4/4拍子にすることも可能です。1拍を3連符ににすればいいのです。
「2/4 + 1/4 + 1/8 + 1/16 + 1/16」という変拍子を書いても、これらを合計すると結局は1小節内に4分音符が4つ入っていることと同じですから、聴いてる人には普通の4拍子だと感じさせることもできます。ストラヴィンスキーが、こんな手法を使っていることがありますね。
ということは、この作品に出てくる「3/4拍子と6/8拍子は1小節の中の音価が同じ(8分音符6つ分)」なので、どちらの拍子でも書くことができる、ということになります。
この作品のスコアを再度見てみると、3拍子と6拍子が時折変わっています。しかし、最初に聴いてもらった時の印象を思い出してもらうとわかるように、聴こえ方は変拍子のようにトゲトゲした違和感は全くなく、スムーズに流れています。
《捉え方が違う》
では、拍子が変わると何が変化するのでしょうか。
一番大きな変化は、カウントの仕方です。「1,2,3」と4分音符を1拍とし、3つカウントすれば3/4拍子になり、「1トット、2トット」もしくは8分音符を1拍として「1,2,3/4,5,6」とカウントすれば6/8拍子です。これらは、メロディやリズムがどちらのカウントの仕方をするとしっくりくるか、という感覚によって変化します。
しかし、この作品の面白いところ(複雑なところ)は、一概にメロディ、ハーモニー、ベースすべてのパートが、一斉に3拍子または6拍子に変更されているわけではなく、メロディだけが3拍子になるなどの、いわば「カラクリ」のような箇所がいくつも出てくるのです。「会報すいそうがく」に作者が寄せているコメントの中に出てきた「仕掛け」というのはこのことだと思います。
こういった音楽はよくあります。作曲者によっては、パートごとに拍子を変更していることもあり、レスピーギはその手法をとっています(6/8と2/4が混在しているなど)。この作品の場合は、そういったことをせずに、そのまま楽譜を書いていることが、「楽譜の読みにくさ」の原因なのです。
実際に、この作品の33小節目の1stトランペットの楽譜を見てみましょう。
何だかとても読みにくい楽譜ですよね。この部分、聴く側として3/4拍子に聴こえるので、本来スマートに楽譜を書くとするなら、こうすべきです。
結果的に耳に入ってくるものは同じでも、書き方はこのように変えられる、というのが楽譜の特徴でもあります。
したがって、この作品を演奏していて「なんか吹きにくい!リズムがとりにくい!楽譜が読めない!」となった時、ぜひ3拍子と6拍子を変更して書き直して(捉え方を変えて)みてください。例えば38小節目のトランペットは6/8拍子にしてみると「なるほど!」と吹きやすくなると思います。この小節は、前から続いている木管のメロディ以外は6/8拍子で構成されていますので、他のパートも全部6拍子で捉えます。したがって、ベースライン(低音楽器)の奏者が楽譜に書いている通りの3拍子と捉えて演奏してしまうと、「(3/4拍子としての)楽譜上2拍目ウラの音」を強く吹いてしまいかねません。しかし、音楽としては6/8拍子ですから、この音は(1小節内が付点4分音符2つと捉えた場合の6/8拍子の)「1拍目のウラ(3つ目の音)」なのです。
こういった「カラクリ」を理解し、本来持っているメロディや音楽の持っている形を表現しようとしない限り、この作品を完成することはできません。書いてある楽譜(拍子、音符、音価、連桁)をそのまま無理矢理読もうとせず、自然に歌えるリズム感を優先し、尊重して柔軟に読み替えられるようにしてください。
指揮者がどう振るか。それにかかってくる部分も大きいですね。
《ジャンプ力の違いと捉える》
今回の記事は楽典的、楽譜の基礎みたいな話になっておりますが、演奏者は楽譜を読むことが使命ですので、今は少し大変でもこの機会にぜひ柔軟に楽譜を読む力を身につけられるチャンスだと捉え、頑張ってください。
しかし、楽譜は所詮楽譜です。記号を印刷した単なる紙でしかありません。その紙には、作品を演奏するすべての情報が書いてあるわけでもなく、ましてや作者の思いがすべて込められているわけではありません。なぜなら楽譜の表記にはルールがあり、作曲者はそれに従って書く必要があるわけで、「妥協(しかたなくそう書いている部分)」が必ず含まれていることを演奏者は忘れてはなりません。
したがって、演奏者は「楽譜に書かれている少ない情報から、作曲者がどう表現して欲しいのかを感じ、読み取り、そして自分はどう表現したいのかも含めて演奏という耳に聴こえる形にしなければならない」のです。
ですから、この作品に話を戻して、「拍子を捉える」ということに関しても、単に「1,2,3!1,2,3!」「1トット!2トット!」と楽譜を一生懸命に見て吹くだけでは表現したとは言えません。拍を感じるためのイメージが必要です。
そこで一番わかりやすいのが「跳躍(ジャンプ)のイメージ」です。
トランポリンをやっている人を想像してください。その人は常に同じ高さのところまで跳ぶことを繰り返しています。
それを見ているうちに、トランポリンのマットに着地するタイミングが「感覚的」にわかってくると思います。
なぜわかるか。それはトランポリンで跳躍をしている人の「軌道」を見ているからです。
それが「テンポ」や「拍子」なのです。
音楽における拍も、光の点滅のようないつくるかわからない拍のアタマを何の情報もなく、いわば賭けのように根拠のない感覚でカウントしているのではなく、トランポリンのように拍と拍の間に「軌道」「動作」が必ず存在しています。その運動をイメージした結果、着地する確固たるタイミングが見えてくる(強く感じられる)ようになることが音楽において大切です。
この作品でいうなら、3/4拍子と6/8拍子は、1小節内の音価(音符の数)=1小節にかかる時間は同じなので、その中をどう分けるか(カウントするか)だけの違いになります。
要するに、トランポリンで高く飛んでいるその間に「1,2,3」と均等に捉えればそれは3/4拍子になり、「1トット,2トット」もしくは「1,2,3/4,5,6」と捉えればそれは6/8拍子になる、ということです。
大切なのは、同じ時間をかけて1小節を大きくジャンプしているイメージを持った上で拍を数えたか、という点です。
これは小節単位に限らず、1拍という範囲でも同じですし、4小節とか8小節という大きな範囲の「フレーズ」でも同じです※。「イメージの基本はまずは跳躍」と捉えてください。
この感覚を常に持って演奏することができれば、例えば「走る(テンポが速くなる)」演奏がしにくくなります(ジャンプしているイメージの最中に次の拍を感じることができないから)。
※フレーズ感など、音楽の「流れ」を感じさせるためには、同じ場所を繰り返しジャンプしているだけのイメージだけでは本当は難しく、例えば均等な感覚で配置された複数のトランポリンからトランポリンへどんどんジャンプして進んでいくような、そういった「前に前に絶えず進んでいく躍動感」を感じ、表現する必要があります。
《メトロノームでの通し練習はしない》
そこでひとつ提言したことがあります。このブログで何度も言っているのですが、
「メトロノームのクリック音に合わせてメロディを演奏しない」
という点です。
これまでの話を理解してもらえればもう説明する必要もないのですが、メトロノームというのはあくまでも「点」(トランポリンでいうところの「着地の瞬間」)を教えてくれているにすぎません。しかも、動きや軌道がそこにはない(少ない)ため「いつくるか明確にわかりにくい」要素が相まって、結果的に「拍のアタマを『狙う』」意識にどんどん変化してしまうのです。
これでは、躍動感はおろか、人間的で自然的なテンポ感を維持し続けること、そしてそういった演奏をすることなど不可能です。
しかも「拍のアタマが合えばそれでいい」という感覚に陥る可能性が高く、「音符(音楽)の推進力」「フレーズ感」がまったく育ちません。
メトロノームは呼吸を考慮してくれるわけもないので、「ブレスはしないほうがスムーズ」という感覚に陥ることもあるので、呼吸が乱れ、結果的に管楽器を演奏する上で一番重要な「ブレスコントロール」がおそろかになってしまいます。音色が悪くなり、力で演奏するクセが出てきてしまうので、バテやすい、タンギングが上手にいかない、演奏できる音域が狭い、ダブルアンブシュアになってしまう、音圧のコントロールができないなどの様々な弊害が出てきてしまいます。
よって、メトロノームに合わせて曲を吹く、ましてや曲を通すなんてことは音楽の練習にはまったくならない、ということを理解して欲しいと思います。
吹奏楽部などの個人練習やパート練習だけにとどまらず、合奏の時までもメトロノームを濫用することに僕は猛烈に反対します。
ではメトロノームは何のための道具か、と言いますと、
「おおよそのテンポを瞬時に理解するため」
「反復練習のオトモ」
以上です。これ以上に使い道がありません。
しかし、現代音楽を演奏するならまだしも、おおよそのテンポを理解するためにわざわざメトロノームなどを出してくる必要もないと思います。ちかくに秒針のある時計があれば120と60は容易に割り出せますし、80程度のテンポの音楽を覚えておけば、それに合わせて40と160も割り出せます。
それだけ感覚的に持っておけば、だいたいのテンポはすべてわかります。
したがって、フィンガリング練習などの反復練習時に使うくらいしかメトロノームの必要性はない、と僕は考えます。(レコーディングやポップスの世界の話には言及しておりませんのでご了承ください)
ということで、今回は楽譜の読み方、解釈の仕方、拍子のイメージの仕方、メトロノームについて書きました。
この作品を演奏される方はまず、楽譜の読みにくいところは、その場面の音楽が持つ拍子としては3拍子か6拍子のどちらなのかを理解してください。それに合わせて拍子を書き直してみるのも勉強になるかもしれません。
では次回は曲に沿って解説をしていきます。
この作品を演奏されない方も、課題曲とは無関係の方も参考になることをたくさん書きますので、来週も引き続きご覧ください。
それではまた来週!
先月より、今年度の吹奏楽コンクール課題曲のトランペット解説を行ってまいりましたが、やっと最後の曲解説に入りました。最後は課題曲2「スペインの市場で」です。
現在、課題曲2を残してすでに掲載を終えています。これまで書いてきた課題曲解説の本文をご覧になりたい方は以下をクリックしてください。
↓
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」前編
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」後編
課題曲5.焔 前編
課題曲5.焔 後編
課題曲3.ある英雄の記憶 〜「虹の国と氷の国」より 前編
課題曲3.ある英雄の記憶 〜「虹の国と氷の国」より 後編
課題曲1.マーチ・スカイブルー・ドリーム 前編
課題曲1.マーチ・スカイブルー・ドリーム 後編
この作品を演奏しない方も、そもそも課題曲とは無関係の方にも参考になることをできる限り書いておりますので、ぜひ一度目を通してみてください。
今回のお話を読む前に、この作品の演奏をまず聴いてください。YouTubeで検索するといろいろ出てきます。
とっても聴きやすく、明るく爽やかな印象を受けるかと思います。個人的には冒頭が「魔女の宅急便」の「海の見える街」の後半に聴こえます(笑)
スペイン風の音楽って、日本人になじみやすいのでしょうか。カルメンが人気だったりするのも何か共通する点があるのかもしれませんね。
では、曲を聴いた後、この作品の楽譜、できればスコアをご覧になってください。多分この作品を演奏される方みなさんが直面したことだと思いますが、聴いてるのと楽譜を読むのとではだいぶ違う印象、言うならば読みにくさを感じませんか?
それはなぜか、そしてどうすれば読みやすくなるのか考えてみましょう。
《書き方は何通りもある》
楽譜というのは、同じ演奏を再現するための書き方が何通りもあります。
例えば、4拍子の曲を2拍子に書くこと、可能ですね。小節線の数が倍に増えます。
12/8拍子を4/4拍子にすることも可能です。1拍を3連符ににすればいいのです。
「2/4 + 1/4 + 1/8 + 1/16 + 1/16」という変拍子を書いても、これらを合計すると結局は1小節内に4分音符が4つ入っていることと同じですから、聴いてる人には普通の4拍子だと感じさせることもできます。ストラヴィンスキーが、こんな手法を使っていることがありますね。
ということは、この作品に出てくる「3/4拍子と6/8拍子は1小節の中の音価が同じ(8分音符6つ分)」なので、どちらの拍子でも書くことができる、ということになります。
この作品のスコアを再度見てみると、3拍子と6拍子が時折変わっています。しかし、最初に聴いてもらった時の印象を思い出してもらうとわかるように、聴こえ方は変拍子のようにトゲトゲした違和感は全くなく、スムーズに流れています。
《捉え方が違う》
では、拍子が変わると何が変化するのでしょうか。
一番大きな変化は、カウントの仕方です。「1,2,3」と4分音符を1拍とし、3つカウントすれば3/4拍子になり、「1トット、2トット」もしくは8分音符を1拍として「1,2,3/4,5,6」とカウントすれば6/8拍子です。これらは、メロディやリズムがどちらのカウントの仕方をするとしっくりくるか、という感覚によって変化します。
しかし、この作品の面白いところ(複雑なところ)は、一概にメロディ、ハーモニー、ベースすべてのパートが、一斉に3拍子または6拍子に変更されているわけではなく、メロディだけが3拍子になるなどの、いわば「カラクリ」のような箇所がいくつも出てくるのです。「会報すいそうがく」に作者が寄せているコメントの中に出てきた「仕掛け」というのはこのことだと思います。
こういった音楽はよくあります。作曲者によっては、パートごとに拍子を変更していることもあり、レスピーギはその手法をとっています(6/8と2/4が混在しているなど)。この作品の場合は、そういったことをせずに、そのまま楽譜を書いていることが、「楽譜の読みにくさ」の原因なのです。
実際に、この作品の33小節目の1stトランペットの楽譜を見てみましょう。
何だかとても読みにくい楽譜ですよね。この部分、聴く側として3/4拍子に聴こえるので、本来スマートに楽譜を書くとするなら、こうすべきです。
結果的に耳に入ってくるものは同じでも、書き方はこのように変えられる、というのが楽譜の特徴でもあります。
したがって、この作品を演奏していて「なんか吹きにくい!リズムがとりにくい!楽譜が読めない!」となった時、ぜひ3拍子と6拍子を変更して書き直して(捉え方を変えて)みてください。例えば38小節目のトランペットは6/8拍子にしてみると「なるほど!」と吹きやすくなると思います。この小節は、前から続いている木管のメロディ以外は6/8拍子で構成されていますので、他のパートも全部6拍子で捉えます。したがって、ベースライン(低音楽器)の奏者が楽譜に書いている通りの3拍子と捉えて演奏してしまうと、「(3/4拍子としての)楽譜上2拍目ウラの音」を強く吹いてしまいかねません。しかし、音楽としては6/8拍子ですから、この音は(1小節内が付点4分音符2つと捉えた場合の6/8拍子の)「1拍目のウラ(3つ目の音)」なのです。
こういった「カラクリ」を理解し、本来持っているメロディや音楽の持っている形を表現しようとしない限り、この作品を完成することはできません。書いてある楽譜(拍子、音符、音価、連桁)をそのまま無理矢理読もうとせず、自然に歌えるリズム感を優先し、尊重して柔軟に読み替えられるようにしてください。
指揮者がどう振るか。それにかかってくる部分も大きいですね。
《ジャンプ力の違いと捉える》
今回の記事は楽典的、楽譜の基礎みたいな話になっておりますが、演奏者は楽譜を読むことが使命ですので、今は少し大変でもこの機会にぜひ柔軟に楽譜を読む力を身につけられるチャンスだと捉え、頑張ってください。
しかし、楽譜は所詮楽譜です。記号を印刷した単なる紙でしかありません。その紙には、作品を演奏するすべての情報が書いてあるわけでもなく、ましてや作者の思いがすべて込められているわけではありません。なぜなら楽譜の表記にはルールがあり、作曲者はそれに従って書く必要があるわけで、「妥協(しかたなくそう書いている部分)」が必ず含まれていることを演奏者は忘れてはなりません。
したがって、演奏者は「楽譜に書かれている少ない情報から、作曲者がどう表現して欲しいのかを感じ、読み取り、そして自分はどう表現したいのかも含めて演奏という耳に聴こえる形にしなければならない」のです。
ですから、この作品に話を戻して、「拍子を捉える」ということに関しても、単に「1,2,3!1,2,3!」「1トット!2トット!」と楽譜を一生懸命に見て吹くだけでは表現したとは言えません。拍を感じるためのイメージが必要です。
そこで一番わかりやすいのが「跳躍(ジャンプ)のイメージ」です。
トランポリンをやっている人を想像してください。その人は常に同じ高さのところまで跳ぶことを繰り返しています。
それを見ているうちに、トランポリンのマットに着地するタイミングが「感覚的」にわかってくると思います。
なぜわかるか。それはトランポリンで跳躍をしている人の「軌道」を見ているからです。
それが「テンポ」や「拍子」なのです。
音楽における拍も、光の点滅のようないつくるかわからない拍のアタマを何の情報もなく、いわば賭けのように根拠のない感覚でカウントしているのではなく、トランポリンのように拍と拍の間に「軌道」「動作」が必ず存在しています。その運動をイメージした結果、着地する確固たるタイミングが見えてくる(強く感じられる)ようになることが音楽において大切です。
この作品でいうなら、3/4拍子と6/8拍子は、1小節内の音価(音符の数)=1小節にかかる時間は同じなので、その中をどう分けるか(カウントするか)だけの違いになります。
要するに、トランポリンで高く飛んでいるその間に「1,2,3」と均等に捉えればそれは3/4拍子になり、「1トット,2トット」もしくは「1,2,3/4,5,6」と捉えればそれは6/8拍子になる、ということです。
大切なのは、同じ時間をかけて1小節を大きくジャンプしているイメージを持った上で拍を数えたか、という点です。
これは小節単位に限らず、1拍という範囲でも同じですし、4小節とか8小節という大きな範囲の「フレーズ」でも同じです※。「イメージの基本はまずは跳躍」と捉えてください。
この感覚を常に持って演奏することができれば、例えば「走る(テンポが速くなる)」演奏がしにくくなります(ジャンプしているイメージの最中に次の拍を感じることができないから)。
※フレーズ感など、音楽の「流れ」を感じさせるためには、同じ場所を繰り返しジャンプしているだけのイメージだけでは本当は難しく、例えば均等な感覚で配置された複数のトランポリンからトランポリンへどんどんジャンプして進んでいくような、そういった「前に前に絶えず進んでいく躍動感」を感じ、表現する必要があります。
《メトロノームでの通し練習はしない》
そこでひとつ提言したことがあります。このブログで何度も言っているのですが、
「メトロノームのクリック音に合わせてメロディを演奏しない」
という点です。
これまでの話を理解してもらえればもう説明する必要もないのですが、メトロノームというのはあくまでも「点」(トランポリンでいうところの「着地の瞬間」)を教えてくれているにすぎません。しかも、動きや軌道がそこにはない(少ない)ため「いつくるか明確にわかりにくい」要素が相まって、結果的に「拍のアタマを『狙う』」意識にどんどん変化してしまうのです。
これでは、躍動感はおろか、人間的で自然的なテンポ感を維持し続けること、そしてそういった演奏をすることなど不可能です。
しかも「拍のアタマが合えばそれでいい」という感覚に陥る可能性が高く、「音符(音楽)の推進力」「フレーズ感」がまったく育ちません。
メトロノームは呼吸を考慮してくれるわけもないので、「ブレスはしないほうがスムーズ」という感覚に陥ることもあるので、呼吸が乱れ、結果的に管楽器を演奏する上で一番重要な「ブレスコントロール」がおそろかになってしまいます。音色が悪くなり、力で演奏するクセが出てきてしまうので、バテやすい、タンギングが上手にいかない、演奏できる音域が狭い、ダブルアンブシュアになってしまう、音圧のコントロールができないなどの様々な弊害が出てきてしまいます。
よって、メトロノームに合わせて曲を吹く、ましてや曲を通すなんてことは音楽の練習にはまったくならない、ということを理解して欲しいと思います。
吹奏楽部などの個人練習やパート練習だけにとどまらず、合奏の時までもメトロノームを濫用することに僕は猛烈に反対します。
ではメトロノームは何のための道具か、と言いますと、
「おおよそのテンポを瞬時に理解するため」
「反復練習のオトモ」
以上です。これ以上に使い道がありません。
しかし、現代音楽を演奏するならまだしも、おおよそのテンポを理解するためにわざわざメトロノームなどを出してくる必要もないと思います。ちかくに秒針のある時計があれば120と60は容易に割り出せますし、80程度のテンポの音楽を覚えておけば、それに合わせて40と160も割り出せます。
それだけ感覚的に持っておけば、だいたいのテンポはすべてわかります。
したがって、フィンガリング練習などの反復練習時に使うくらいしかメトロノームの必要性はない、と僕は考えます。(レコーディングやポップスの世界の話には言及しておりませんのでご了承ください)
ということで、今回は楽譜の読み方、解釈の仕方、拍子のイメージの仕方、メトロノームについて書きました。
この作品を演奏される方はまず、楽譜の読みにくいところは、その場面の音楽が持つ拍子としては3拍子か6拍子のどちらなのかを理解してください。それに合わせて拍子を書き直してみるのも勉強になるかもしれません。
では次回は曲に沿って解説をしていきます。
この作品を演奏されない方も、課題曲とは無関係の方も参考になることをたくさん書きますので、来週も引き続きご覧ください。
それではまた来週!
当ブログの写真・記事等の(全部、一部問わず)無断利用、ネット上(TwitterやFacebookなどのSNSを含む)などへの無断転載を禁止します。
at 06:53, 荻原明(おぎわらあきら), 吹奏楽コンクール課題曲2016
-, -, pookmark
2016.05.31 Tuesday
吹奏楽コンクール課題曲2016トランペット解説【1.マーチ・スカイブルー・ドリーム / 矢藤学】後編
みなさんこんにちは!
先週より課題曲1「マーチ・スカイブルー・ドリーム」の解説をしております。
現在、課題曲2を残してすでに掲載を終えています。これまで書いてきた課題曲解説の本文をご覧になりたい方は以下をクリックしてください。
↓
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」前編
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」後編
課題曲5.焔 前編
課題曲5.焔 後編
課題曲3.ある英雄の記憶 〜「虹の国と氷の国」より 前編
課題曲3.ある英雄の記憶 〜「虹の国と氷の国」より 後編
課題曲1.マーチ・スカイブルー・ドリーム 前編
では、今週は曲に沿って書いていきます。
この作品を演奏しない、という方も、きっと参考になることがたくさん書いてあるはずですので、とりあえず一度ご覧いただければと思います。
【冒頭】
[ダブルタンギングは表現方法のひとつ]
冒頭部分の印象的なファンファーレは、サックスやユーフォニアムも一緒に演奏しているとは言え、この動きは金管だからこそ発揮できるスタイルですから、ほぼトランペットに託されている場面と言えるでしょう。
ここはダブルタンギングで演奏することが好ましいと考えます。「え、シングルでできるよこれくらい(俺シングルタンギング速いもん!)」なんて思う方もいらっしゃるかもしれません。
「俺、シングルタンギングでこのテンポまで速めてできるようになったぜ」といった「シングルタンギング速い速い自慢」は、「ハイノート出る出る自慢」の次くらいに耳にします。リップトリル速い速い自慢なんてものありますね。
確かに、シングルタンギングで速いリズムを演奏できるならば、それはそれで表現の選択肢が広くなるわけですから大変結構なことです。しかし、ダブルタンギングやトリプルタンギングは「シングルでできない人が妥協して行う方法」ではありません。
シングルタンギングでは表現できない独特な「演奏表現方法のひとつ」なんです。
ダブルタンギングでファンファーレを「タカターン!」と吹くのと、シングルで「タタターン!」と吹くのでは、同じメロディであっても受ける印象は変わります。ダブルで演奏した時特有の「音符どうしがやや接近している印象」はトランペットをはじめとした金管楽器特有のかっこよさを醸し出します。一方、シングルで演奏すると「丁寧さ」や「正確性」「落ち着き」の印象を与える力を持っています。
ですから、どのように表現したいのかでどちらのタンギングを使うのかを考えることも必要であり、この場面では、シングルでできるできない関係なく、全員がダブルで演奏することが望ましいと個人的には考えます。
シングルかダブルのどちらで演奏するのか、パートで話題になることもあると思うのですが、常にどちらかに統一すべきだと僕は思います。「シングルでしかできないから」という人はぜひ沢山練習して身につけてください。「シングルでできるよこんなの余裕!」という人はまずその言葉を慎んだ上で、そのフレーズ、メロディはシングルとダブル、どちらが相応しいのかを「音楽的観点から選択」するようにしてください。
[ダブルタンギングの練習方法]
では、タブルタンギングの練習方法についても少し触れておきましょう。
タンギングはシングルも全て含めて「舌の使い方」に焦点を当てて練習しすぎてしまう場合がとても多く見られます。もちろん、舌によって行う奏法ではありますが、一番大切なのは「空気の流れ」を意識することです。
発音は、空気の流れや空気圧が存在して初めて「音(おん)」となり、舌の動きだけでは音にならないのです。
ですから、ダブルタンギングを練習する上でも、まずは空気の流れをしっかり確保し、意識することから始まります。
この作品の冒頭を使って練習してみましょう。
この楽譜を演奏できるようにするには、まずはすべてをつなげて吹けるようにします。
こうすることで、「このメロディは空気の流れ(ブレスコントロール)によって演奏できている」ことを自覚できますね。何度か吹いてみましょう。
次に、このように吹きます。
タンギングを添えても、空気の流れが遮断されずに吹けているかがポイントです。タンギングの方法によっては空気を遮断することで明瞭な発音をする場合もありますが、この場合は空気の流れを止めないタンギングの方法を模索しましょう。
これができたら、ダブルタンギングに変更します。空気の流れを意識できるようにオリジナルでは休符になっているアタマにも音符を入れました。
タブルタンギングであっても空気の流れを遮断しないで吹けるようになるまで研究を繰り返した練習をしましょう。
ここで詳しくは書きませんが、もうひとつ大切なことは「TKTK」の「K」の発音位置です。我々が日常発音している「K」、いわゆる「カ行」の発音は舌の奥(口の奥)で発音していますが、ダブルやトリプルの「K」はそこではなく、もっともっと前方位置の「T」のすぐ近くで行う、ということだけここに書いておきます。
ちなみに、この部分でいうところの八分音符はスタッカートで演奏するのが一般的だと思います。こういうのがきっと作曲者の言う「楽譜に書かれていない(中略)演奏をする上で自然に発生する表現」のひとつだと思います。
[ダブルタンギングはテヌートで演奏するもの]
ダブルタンギングというのは、素早いリズムで演奏することが通常です。
ですので、ダブルで演奏している時に、やたらとスタッカートぎみに表現しようと心がける必要はありません。聴こえてくる音は短い時間で次々と繰り出されていくのですから、結果的にスタッカートに聴こえてしまいます。
したがって、どんなに速く演奏する場面であっても、空気の流れを遮断しないで、テヌートぎみに吹けば、そのほうがむしろしっかりした音の連続に聴こえてきます。無理にスタッカートにする必要はありません。
ダブルタンギングについては過去の記事
「タンギング7(ダブル、トリプルタンギング)」
「タンギング8(ダブル、トリプルタンギング)」
を参考にして頂くか、これから始まる僕のトランペット講習会で、「タンギング」がテーマの日が数回あります。そちらに参加して頂けると非常に効率よくテクニックを身につけることができますので、ぜひご検討下さい。詳しくはこちらをクリック。
なお、上記の解説はトリプルタンギングにおいても同様の解釈です。
[吹き初めが休符の場合]
そしてもうひとつここで書いておきたいことがあります。
この作品はトランペットの吹き始めが休符になっています。このような拍のアタマや1拍目から音が始まっていない場面にはよく遭遇しますよね。ポップスやジャズでもとても多く出てきます。
こういった時、音を出すところが「吹き初め」と考えてはいけません。『最初の休符もメロディに含める』と捉えましょう。
どういうことかと言うと、演奏するとき、我々は空気を取り込んでタンギング準備をし、舌をオープンする(音が出る)、という流れで演奏をしていますね。そのときの「音を出し始めるところ=音楽(メロディの始まり)」と解釈すると、フレーズを表現できない場合がとても多いのです。
この作品の場合は、冒頭の八分休符がそれにあたります。この八分休符から吹き始めるつもりで呼吸の流れから音を出すセッティングまでを行います。もちろん、休符ですから音を出すわけにはいきませんが、舌がタンギング準備を完了していれば、口の中から空気が漏れ出ることはありませんから、意識も体も、休符の部分ですでに吹き始めている状態にしてしまいます(舌で密閉されているので実際には音が出ていない)。
「音は出さない(出せない)けれど、休符もメロディ部分と捉えてすでに演奏している状態」です。
休符の部分は舌で密閉していますから、空気を外に出せず「ストレス」を感じることでしょう。そのストレスが、1拍目のウラにある音符に対して強い力で開放され、より推進力のあるフレーズを生み出せるのです。
休符も含めて音楽と捉える。これは非常に大切なことですから、他の作品で出てきた時に思い出して下さい。
【練習番号B】
[2nd,3rdの方へ]
1stのみ、アウフタクトからメロディとして参加します。では2nd,3rdはもう少しの間ボーっとしていて良いかというと、もちろんそうではありません。
話がそれますが、みんながワイワイ盛り上がっているパーティ会場やカラオケ、飲み会などの席に後から参加したことありますか?僕はあれ、すごい苦手なんですね。最初からみんなでワイワイやっていれば何てことないのですが、途中から参加するとあのテンションに最初ついていけず、どうしたらいいか非常に戸惑ってしまうんです。みなさんはどうでしょうか。
何の話かと言いますと、この練習番号Bのように1stだけ先に演奏していて、2nd,3rdが後から一緒になる場面の時、自分の出番のところだけ意識して吹き始めようとすると、音楽に乗り遅れてしまうのです。
これ、結構聴いている人に「なんかずれたぞ」と露骨にバレてしまいます。
ですから、2nd,3rdの人たちはぜひ、練習の時には1stと一緒にメロディを吹いてみましょう。合奏ではもちろん一緒に吹けないでしょうが(指揮者に一度だけ吹かせてくれるようにお願いしてもいいかもしれません)、ともかく自分の演奏する箇所だけが音楽ではなく、ずっと演奏に参加しているのだと意識して合奏に参加してください。
[ジャンプするメロディ]
このメロディは八分音符の間に休符が入っています。
メロディの間に休符が含まれている場合、どのように表現するかを必ずイメージして演奏しましょう。
この部分はどのように演奏すると自然な表現になりますか?
ひとつの案としては「軽やかに飛び越える」というのはいかがでしょう。
その表現を実現するためにはどのようなブレスコントロールやタンギングをすると良いか、ぜひいろいろ研究してみてください。
参考までに過去の記事「スタッカート」や「「走る」ということについて3」も読んでみてください。
【練習番号C】
いわゆる「Bメロは中低音楽器がメロディ担当」のシーンで「この時トランペットは裏打ちをする」という更に定番シーンですが、ここであまり一生懸命に吹かないようにしましょう。その理由は「バテ防止」だけでなく、一音一音を一生懸命吹きすぎることでフレーズ感(音楽の流れ)をせき止めてしまい、非常に重々しく聴こえてしまうからです。
タンギングの質にこだわり、形をはっきり出すことを第一に、トロンボーンなどの近くにいる楽器のメロディをよく耳に入れてアンサンブルをしてください。音を短くする意識が強すぎると、「音」としての存在を忘れて「打楽器」のようなアタック音だけの演奏をしてしまいがちです。必ず「1つの音がたとえ短くても、全パートに音律があり、みんなで和音を作っている」ことを忘れずに演奏しましょう。
この場面は木管楽器の多くも同じことをしていますから、トランペットが前面に出てきて音楽を先導する必要もありません。バランス感を重視しましょう。
【練習番号D 1小節前(1st,2nd)】
この部分の短いファンファーレはトランペット(とユーフォニアム)だけで演奏している部分です。かっこよく「ダブルタンギング」で決めて下さい。その直後のアウフタクトに現れる主題に勢い余って流れ込まないようにしましょう。切り替える時間がないのですが、役割としても立場としても別物ですから、個人練習を積み重ねて、上手に切り替えられるようにしましょう。
【練習番号E 2小節前 Trio】
転調し、それを聴く人に感じさせる最初の動機をトランペットが担当しています。
この部分のように、順番に音を出して積み重ねていく表現を「ベルトーン」と呼びます。ベル(鐘)のように聴こえるからそう呼ばれているのだと思いますが、よく「ベルなんだから音を出したらすぐ抜いて」とfp指示をする人がいます。しかし、それをあまり極端にしてしまうと「積み重なった(和)音」がよくわからずベルトーンの魅力を充分発揮できません。音を強く張れ、とは言いませんが、やたらと音を抜こうとせず、しっかりと和音を積み重ねている自覚を持って演奏して下さい。ぜひパート練習でじっくり研究したいところですが、客観的にどう聴こえるのかを重視しないと意味ないですから、いろんな人に聴いてもらったり、録音してみたり(録音方法には注意が必要)、工夫して練習をしてみましょう。
また、この部分で重要なのは2ndの実音Hです。この音を聴いた時に「あれ?何か(雰囲気が)変わった?」と聴く人は強く感じることでしょう(転調します)。だからといってやたら強く吹いたり、特別なことをする必要はありません。きちんとバランス良く、ツボに当たった良い音で吹ければそれで充分です。
自分のパートだけでなく、結果的にこの部分はどんな和音を奏でているのか、トランペット奏者全員が予め自覚しておきたいところです。個人練習やパート練習の時に、ピアノなどを使って和音を確認し、各自インプットをしてから吹いてみましょう。
【練習番号E】
この場面は演奏はしていませんが、ミュートをセットする時間です。
結構時間があるので、余裕を持ってセットすることはできますが、とても静かな場面です。変に勢いを付けてねじ込むと「キュッ!」とコルクが鳴ってしまう恐れがあります。ゆっくり丁寧に付けましょう。(かと言って緩く入れると演奏中に落ちるかもしれないので注意)
参考までに過去の記事「ミュート1」「ミュート2」を読んでみてください。
【練習番号F】
この場面にしかない、しかもトランペットしか担当していない伴奏リズムです。課題曲マーチにたびたび出てきますね、こういうの。
手が抜けないのです。この先もずっと吹かないといけないのに。
ともかく、ここはすべてシングルタンギングでいくのが良いと思います。2拍目がシンコペーションの書き方をしていますが、あまり大げさに意識的なシンコペーションの表現をする必要はないと思います。「シンコペーションによって推進力が強まる」ことができる演奏はまわりにも良い影響を与えられると思いますので、丁寧に練習してください。
しかし、テンポが速い中での演奏ですから、2拍目真ん中の八分音符にもスタッカートを付け、結果的に1拍間すべて16分音符で吹いてしまうのが良いと思います。練習番号Cと同様、スマートに、しかしリズムをしっかり聴かせるためにタンギングの質にはこだわりましょう。ミュートをしている時には音がモゴモゴしやすいのですが、これは音のツボに当たっていない時顕著にそうなってしまいます。音のツボにしっかり当てるコントロールを得るために、まずはそれぞれの音をロングトーンで見つけてください。その後、楽譜のリズムで練習してみましょう。
もし1つのパートを複数人で吹いているようでしたら、この場面はそれぞれ1本ずつにしてもいいかと思います。交代制にすれば、この後にくるすぐミュートopenのシーンも慌てずに済みますし。
ミュートの素早いopenの仕方も、先程リンクしたミュートの記事に書いてありますので参考にしてください。
【練習番号G】
冒頭と同じ練習をしてみましょう。どんどん和音が変わって、聴いていても吹いていても不安定で気持ち悪い流れではありますが、こういった場面こそ前後の音程感が曖昧にならないよう、声に出して歌ってみるなどのソルフェージュの力で安定性を高められるよう心がけましょう。
前回の記事(前編)に書きましたが、作曲者曰くこの作品はテンポの変化がありません。ですから、練習番号Hに入る時にも、いわゆる「タメ」をしないように注意しましょう。感覚的にそうしたくなるとは思うのですが(こういったスタイルの作品の演奏経験がある人は特に)、むしろ突っ込んでいくくらいの気持ちがないと、どうしても重くなってしまいます。
また、この場面はフォルテがまだ1つです。次の練習番号Hからがff(フォルテシモ)ですから、頑張って吹きたい場面ではありますが、まだもう少しガマンしましょう。推進力のある音と明瞭なタンギング、そして感覚的テンポをしっかり持ち、スピード感溢れる演奏をすれば、f(フォルテ)でも力強く感じさせる演奏はいくらでもできます。決してデシベル的要素だけで強弱を捉えないように注意してください。
【練習番号H】
[バンド全員での音量競争にならないで!]
Animatoと書いてあるので、通常でしたらテンポは上がるはずですが、前回の記事に書いたようにテンポ変化はしないと作曲者からコメントがありましたので、気をつけて下さい。
生き生きしたメロディを表現するためにはまず「音形(音のキャラクター性)」を統一させます。具体的には「八分音符以下はスタッカート(歯切れよく)」「四分音符以上は音価を守ってしっかりテヌート(推進力を作る)」にします。
これだけ守って統一させれば、それほど頑張って吹かなくても曲の求めている雰囲気はしっかり出せます。
吹奏楽でよくやってしまうのが、音量競争です。特にTutti(全員での演奏)時に f や ff が出てくると、ここぞとばかりにみんなが一生懸命デシベル的大音量を出そうと頑張ってしまいます。中でもトロンボーンなどの猛烈に大きな音が出せる楽器や、太鼓やシンバルなどの噪音楽器は、一台だけでも全員をかき消してしまう威力を持っているので注意が必要です。
音量ばかり大きくして注目を集めようとしている政治家の街頭演説って、「うるさい」と思うだけで聞きたいと思いません(むしろ離れたい)。
それよりも美しい声やイケメン声で心地よく耳に入ってくるほうがよっぽど魅力的で聴きたい!と思うはずです。
生き生きとした雰囲気や力強い響きは、筋肉に負担をかけて絞り出すものではありません。それぞれの楽器がその楽器らしさを失わずに響かせるための様々な「コントロール」が大切です。
ぜひ街頭演説ではなくて魅力的なサウンドで演奏するように心がけましょう。
【練習番号 I (1st)】
さて出てきました、トランペットソロ。他の数多くある課題曲マーチと一線を画してユニークな箇所ですよね。
しかし、何か特別なことをしようと思う必要もありません。ここまでのffの演奏そのままで突っ込んでいくほうが失敗もしないし良いと思います。
ひとりで吹くわけですから、相対的な観点からすれば結果的に音量もfに落ちますし、場面が変わるわけでもないので吹き方も変える必要はありません。
ですので、僕が思うに、ソロのためにその前を休ませておいて、変な緊張感を煽るよりは、その前からずっと吹いていて、シレっとソロも担当してしまうのが一番安定すると思います。
吹く人も周りの人も、あまり特別扱いしないほうが良いのではないでしょうか。
ただ、少しヴィブラートをかけて「ソロらしさ」を感じさせるのも良いと思います。結局はソロを務める奏者のセンスですね。
ということで、課題曲の曲解説を一回で書くのは文字の量が多くてしんどいです(笑)。読んで頂いている方もしんどいですよね。申し訳ないです。来年からは3回か4回に分けて書こうかな。
ともかく、この作品を演奏する団体が一番多いであろうと勝手に予測していますので、ぜひパートの皆さんで読んで参考にして頂ければ幸いです。
次回からは、ついに最後、課題曲2について書いていきます。
次回も曲解説に留まらない記事にしますので、演奏されない方もぜひ読んでくださいね。
また来週!
先週より課題曲1「マーチ・スカイブルー・ドリーム」の解説をしております。
現在、課題曲2を残してすでに掲載を終えています。これまで書いてきた課題曲解説の本文をご覧になりたい方は以下をクリックしてください。
↓
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」前編
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」後編
課題曲5.焔 前編
課題曲5.焔 後編
課題曲3.ある英雄の記憶 〜「虹の国と氷の国」より 前編
課題曲3.ある英雄の記憶 〜「虹の国と氷の国」より 後編
課題曲1.マーチ・スカイブルー・ドリーム 前編
では、今週は曲に沿って書いていきます。
この作品を演奏しない、という方も、きっと参考になることがたくさん書いてあるはずですので、とりあえず一度ご覧いただければと思います。
【冒頭】
[ダブルタンギングは表現方法のひとつ]
冒頭部分の印象的なファンファーレは、サックスやユーフォニアムも一緒に演奏しているとは言え、この動きは金管だからこそ発揮できるスタイルですから、ほぼトランペットに託されている場面と言えるでしょう。
ここはダブルタンギングで演奏することが好ましいと考えます。「え、シングルでできるよこれくらい(俺シングルタンギング速いもん!)」なんて思う方もいらっしゃるかもしれません。
「俺、シングルタンギングでこのテンポまで速めてできるようになったぜ」といった「シングルタンギング速い速い自慢」は、「ハイノート出る出る自慢」の次くらいに耳にします。リップトリル速い速い自慢なんてものありますね。
確かに、シングルタンギングで速いリズムを演奏できるならば、それはそれで表現の選択肢が広くなるわけですから大変結構なことです。しかし、ダブルタンギングやトリプルタンギングは「シングルでできない人が妥協して行う方法」ではありません。
シングルタンギングでは表現できない独特な「演奏表現方法のひとつ」なんです。
ダブルタンギングでファンファーレを「タカターン!」と吹くのと、シングルで「タタターン!」と吹くのでは、同じメロディであっても受ける印象は変わります。ダブルで演奏した時特有の「音符どうしがやや接近している印象」はトランペットをはじめとした金管楽器特有のかっこよさを醸し出します。一方、シングルで演奏すると「丁寧さ」や「正確性」「落ち着き」の印象を与える力を持っています。
ですから、どのように表現したいのかでどちらのタンギングを使うのかを考えることも必要であり、この場面では、シングルでできるできない関係なく、全員がダブルで演奏することが望ましいと個人的には考えます。
シングルかダブルのどちらで演奏するのか、パートで話題になることもあると思うのですが、常にどちらかに統一すべきだと僕は思います。「シングルでしかできないから」という人はぜひ沢山練習して身につけてください。「シングルでできるよこんなの余裕!」という人はまずその言葉を慎んだ上で、そのフレーズ、メロディはシングルとダブル、どちらが相応しいのかを「音楽的観点から選択」するようにしてください。
[ダブルタンギングの練習方法]
では、タブルタンギングの練習方法についても少し触れておきましょう。
タンギングはシングルも全て含めて「舌の使い方」に焦点を当てて練習しすぎてしまう場合がとても多く見られます。もちろん、舌によって行う奏法ではありますが、一番大切なのは「空気の流れ」を意識することです。
発音は、空気の流れや空気圧が存在して初めて「音(おん)」となり、舌の動きだけでは音にならないのです。
ですから、ダブルタンギングを練習する上でも、まずは空気の流れをしっかり確保し、意識することから始まります。
この作品の冒頭を使って練習してみましょう。
この楽譜を演奏できるようにするには、まずはすべてをつなげて吹けるようにします。
こうすることで、「このメロディは空気の流れ(ブレスコントロール)によって演奏できている」ことを自覚できますね。何度か吹いてみましょう。
次に、このように吹きます。
タンギングを添えても、空気の流れが遮断されずに吹けているかがポイントです。タンギングの方法によっては空気を遮断することで明瞭な発音をする場合もありますが、この場合は空気の流れを止めないタンギングの方法を模索しましょう。
これができたら、ダブルタンギングに変更します。空気の流れを意識できるようにオリジナルでは休符になっているアタマにも音符を入れました。
タブルタンギングであっても空気の流れを遮断しないで吹けるようになるまで研究を繰り返した練習をしましょう。
ここで詳しくは書きませんが、もうひとつ大切なことは「TKTK」の「K」の発音位置です。我々が日常発音している「K」、いわゆる「カ行」の発音は舌の奥(口の奥)で発音していますが、ダブルやトリプルの「K」はそこではなく、もっともっと前方位置の「T」のすぐ近くで行う、ということだけここに書いておきます。
ちなみに、この部分でいうところの八分音符はスタッカートで演奏するのが一般的だと思います。こういうのがきっと作曲者の言う「楽譜に書かれていない(中略)演奏をする上で自然に発生する表現」のひとつだと思います。
[ダブルタンギングはテヌートで演奏するもの]
ダブルタンギングというのは、素早いリズムで演奏することが通常です。
ですので、ダブルで演奏している時に、やたらとスタッカートぎみに表現しようと心がける必要はありません。聴こえてくる音は短い時間で次々と繰り出されていくのですから、結果的にスタッカートに聴こえてしまいます。
したがって、どんなに速く演奏する場面であっても、空気の流れを遮断しないで、テヌートぎみに吹けば、そのほうがむしろしっかりした音の連続に聴こえてきます。無理にスタッカートにする必要はありません。
ダブルタンギングについては過去の記事
「タンギング7(ダブル、トリプルタンギング)」
「タンギング8(ダブル、トリプルタンギング)」
を参考にして頂くか、これから始まる僕のトランペット講習会で、「タンギング」がテーマの日が数回あります。そちらに参加して頂けると非常に効率よくテクニックを身につけることができますので、ぜひご検討下さい。詳しくはこちらをクリック。
なお、上記の解説はトリプルタンギングにおいても同様の解釈です。
[吹き初めが休符の場合]
そしてもうひとつここで書いておきたいことがあります。
この作品はトランペットの吹き始めが休符になっています。このような拍のアタマや1拍目から音が始まっていない場面にはよく遭遇しますよね。ポップスやジャズでもとても多く出てきます。
こういった時、音を出すところが「吹き初め」と考えてはいけません。『最初の休符もメロディに含める』と捉えましょう。
どういうことかと言うと、演奏するとき、我々は空気を取り込んでタンギング準備をし、舌をオープンする(音が出る)、という流れで演奏をしていますね。そのときの「音を出し始めるところ=音楽(メロディの始まり)」と解釈すると、フレーズを表現できない場合がとても多いのです。
この作品の場合は、冒頭の八分休符がそれにあたります。この八分休符から吹き始めるつもりで呼吸の流れから音を出すセッティングまでを行います。もちろん、休符ですから音を出すわけにはいきませんが、舌がタンギング準備を完了していれば、口の中から空気が漏れ出ることはありませんから、意識も体も、休符の部分ですでに吹き始めている状態にしてしまいます(舌で密閉されているので実際には音が出ていない)。
「音は出さない(出せない)けれど、休符もメロディ部分と捉えてすでに演奏している状態」です。
休符の部分は舌で密閉していますから、空気を外に出せず「ストレス」を感じることでしょう。そのストレスが、1拍目のウラにある音符に対して強い力で開放され、より推進力のあるフレーズを生み出せるのです。
休符も含めて音楽と捉える。これは非常に大切なことですから、他の作品で出てきた時に思い出して下さい。
【練習番号B】
[2nd,3rdの方へ]
1stのみ、アウフタクトからメロディとして参加します。では2nd,3rdはもう少しの間ボーっとしていて良いかというと、もちろんそうではありません。
話がそれますが、みんながワイワイ盛り上がっているパーティ会場やカラオケ、飲み会などの席に後から参加したことありますか?僕はあれ、すごい苦手なんですね。最初からみんなでワイワイやっていれば何てことないのですが、途中から参加するとあのテンションに最初ついていけず、どうしたらいいか非常に戸惑ってしまうんです。みなさんはどうでしょうか。
何の話かと言いますと、この練習番号Bのように1stだけ先に演奏していて、2nd,3rdが後から一緒になる場面の時、自分の出番のところだけ意識して吹き始めようとすると、音楽に乗り遅れてしまうのです。
これ、結構聴いている人に「なんかずれたぞ」と露骨にバレてしまいます。
ですから、2nd,3rdの人たちはぜひ、練習の時には1stと一緒にメロディを吹いてみましょう。合奏ではもちろん一緒に吹けないでしょうが(指揮者に一度だけ吹かせてくれるようにお願いしてもいいかもしれません)、ともかく自分の演奏する箇所だけが音楽ではなく、ずっと演奏に参加しているのだと意識して合奏に参加してください。
[ジャンプするメロディ]
このメロディは八分音符の間に休符が入っています。
メロディの間に休符が含まれている場合、どのように表現するかを必ずイメージして演奏しましょう。
この部分はどのように演奏すると自然な表現になりますか?
ひとつの案としては「軽やかに飛び越える」というのはいかがでしょう。
その表現を実現するためにはどのようなブレスコントロールやタンギングをすると良いか、ぜひいろいろ研究してみてください。
参考までに過去の記事「スタッカート」や「「走る」ということについて3」も読んでみてください。
【練習番号C】
いわゆる「Bメロは中低音楽器がメロディ担当」のシーンで「この時トランペットは裏打ちをする」という更に定番シーンですが、ここであまり一生懸命に吹かないようにしましょう。その理由は「バテ防止」だけでなく、一音一音を一生懸命吹きすぎることでフレーズ感(音楽の流れ)をせき止めてしまい、非常に重々しく聴こえてしまうからです。
タンギングの質にこだわり、形をはっきり出すことを第一に、トロンボーンなどの近くにいる楽器のメロディをよく耳に入れてアンサンブルをしてください。音を短くする意識が強すぎると、「音」としての存在を忘れて「打楽器」のようなアタック音だけの演奏をしてしまいがちです。必ず「1つの音がたとえ短くても、全パートに音律があり、みんなで和音を作っている」ことを忘れずに演奏しましょう。
この場面は木管楽器の多くも同じことをしていますから、トランペットが前面に出てきて音楽を先導する必要もありません。バランス感を重視しましょう。
【練習番号D 1小節前(1st,2nd)】
この部分の短いファンファーレはトランペット(とユーフォニアム)だけで演奏している部分です。かっこよく「ダブルタンギング」で決めて下さい。その直後のアウフタクトに現れる主題に勢い余って流れ込まないようにしましょう。切り替える時間がないのですが、役割としても立場としても別物ですから、個人練習を積み重ねて、上手に切り替えられるようにしましょう。
【練習番号E 2小節前 Trio】
転調し、それを聴く人に感じさせる最初の動機をトランペットが担当しています。
この部分のように、順番に音を出して積み重ねていく表現を「ベルトーン」と呼びます。ベル(鐘)のように聴こえるからそう呼ばれているのだと思いますが、よく「ベルなんだから音を出したらすぐ抜いて」とfp指示をする人がいます。しかし、それをあまり極端にしてしまうと「積み重なった(和)音」がよくわからずベルトーンの魅力を充分発揮できません。音を強く張れ、とは言いませんが、やたらと音を抜こうとせず、しっかりと和音を積み重ねている自覚を持って演奏して下さい。ぜひパート練習でじっくり研究したいところですが、客観的にどう聴こえるのかを重視しないと意味ないですから、いろんな人に聴いてもらったり、録音してみたり(録音方法には注意が必要)、工夫して練習をしてみましょう。
また、この部分で重要なのは2ndの実音Hです。この音を聴いた時に「あれ?何か(雰囲気が)変わった?」と聴く人は強く感じることでしょう(転調します)。だからといってやたら強く吹いたり、特別なことをする必要はありません。きちんとバランス良く、ツボに当たった良い音で吹ければそれで充分です。
自分のパートだけでなく、結果的にこの部分はどんな和音を奏でているのか、トランペット奏者全員が予め自覚しておきたいところです。個人練習やパート練習の時に、ピアノなどを使って和音を確認し、各自インプットをしてから吹いてみましょう。
【練習番号E】
この場面は演奏はしていませんが、ミュートをセットする時間です。
結構時間があるので、余裕を持ってセットすることはできますが、とても静かな場面です。変に勢いを付けてねじ込むと「キュッ!」とコルクが鳴ってしまう恐れがあります。ゆっくり丁寧に付けましょう。(かと言って緩く入れると演奏中に落ちるかもしれないので注意)
参考までに過去の記事「ミュート1」「ミュート2」を読んでみてください。
【練習番号F】
この場面にしかない、しかもトランペットしか担当していない伴奏リズムです。課題曲マーチにたびたび出てきますね、こういうの。
手が抜けないのです。この先もずっと吹かないといけないのに。
ともかく、ここはすべてシングルタンギングでいくのが良いと思います。2拍目がシンコペーションの書き方をしていますが、あまり大げさに意識的なシンコペーションの表現をする必要はないと思います。「シンコペーションによって推進力が強まる」ことができる演奏はまわりにも良い影響を与えられると思いますので、丁寧に練習してください。
しかし、テンポが速い中での演奏ですから、2拍目真ん中の八分音符にもスタッカートを付け、結果的に1拍間すべて16分音符で吹いてしまうのが良いと思います。練習番号Cと同様、スマートに、しかしリズムをしっかり聴かせるためにタンギングの質にはこだわりましょう。ミュートをしている時には音がモゴモゴしやすいのですが、これは音のツボに当たっていない時顕著にそうなってしまいます。音のツボにしっかり当てるコントロールを得るために、まずはそれぞれの音をロングトーンで見つけてください。その後、楽譜のリズムで練習してみましょう。
もし1つのパートを複数人で吹いているようでしたら、この場面はそれぞれ1本ずつにしてもいいかと思います。交代制にすれば、この後にくるすぐミュートopenのシーンも慌てずに済みますし。
ミュートの素早いopenの仕方も、先程リンクしたミュートの記事に書いてありますので参考にしてください。
【練習番号G】
冒頭と同じ練習をしてみましょう。どんどん和音が変わって、聴いていても吹いていても不安定で気持ち悪い流れではありますが、こういった場面こそ前後の音程感が曖昧にならないよう、声に出して歌ってみるなどのソルフェージュの力で安定性を高められるよう心がけましょう。
前回の記事(前編)に書きましたが、作曲者曰くこの作品はテンポの変化がありません。ですから、練習番号Hに入る時にも、いわゆる「タメ」をしないように注意しましょう。感覚的にそうしたくなるとは思うのですが(こういったスタイルの作品の演奏経験がある人は特に)、むしろ突っ込んでいくくらいの気持ちがないと、どうしても重くなってしまいます。
また、この場面はフォルテがまだ1つです。次の練習番号Hからがff(フォルテシモ)ですから、頑張って吹きたい場面ではありますが、まだもう少しガマンしましょう。推進力のある音と明瞭なタンギング、そして感覚的テンポをしっかり持ち、スピード感溢れる演奏をすれば、f(フォルテ)でも力強く感じさせる演奏はいくらでもできます。決してデシベル的要素だけで強弱を捉えないように注意してください。
【練習番号H】
[バンド全員での音量競争にならないで!]
Animatoと書いてあるので、通常でしたらテンポは上がるはずですが、前回の記事に書いたようにテンポ変化はしないと作曲者からコメントがありましたので、気をつけて下さい。
生き生きしたメロディを表現するためにはまず「音形(音のキャラクター性)」を統一させます。具体的には「八分音符以下はスタッカート(歯切れよく)」「四分音符以上は音価を守ってしっかりテヌート(推進力を作る)」にします。
これだけ守って統一させれば、それほど頑張って吹かなくても曲の求めている雰囲気はしっかり出せます。
吹奏楽でよくやってしまうのが、音量競争です。特にTutti(全員での演奏)時に f や ff が出てくると、ここぞとばかりにみんなが一生懸命デシベル的大音量を出そうと頑張ってしまいます。中でもトロンボーンなどの猛烈に大きな音が出せる楽器や、太鼓やシンバルなどの噪音楽器は、一台だけでも全員をかき消してしまう威力を持っているので注意が必要です。
音量ばかり大きくして注目を集めようとしている政治家の街頭演説って、「うるさい」と思うだけで聞きたいと思いません(むしろ離れたい)。
それよりも美しい声やイケメン声で心地よく耳に入ってくるほうがよっぽど魅力的で聴きたい!と思うはずです。
生き生きとした雰囲気や力強い響きは、筋肉に負担をかけて絞り出すものではありません。それぞれの楽器がその楽器らしさを失わずに響かせるための様々な「コントロール」が大切です。
ぜひ街頭演説ではなくて魅力的なサウンドで演奏するように心がけましょう。
【練習番号 I (1st)】
さて出てきました、トランペットソロ。他の数多くある課題曲マーチと一線を画してユニークな箇所ですよね。
しかし、何か特別なことをしようと思う必要もありません。ここまでのffの演奏そのままで突っ込んでいくほうが失敗もしないし良いと思います。
ひとりで吹くわけですから、相対的な観点からすれば結果的に音量もfに落ちますし、場面が変わるわけでもないので吹き方も変える必要はありません。
ですので、僕が思うに、ソロのためにその前を休ませておいて、変な緊張感を煽るよりは、その前からずっと吹いていて、シレっとソロも担当してしまうのが一番安定すると思います。
吹く人も周りの人も、あまり特別扱いしないほうが良いのではないでしょうか。
ただ、少しヴィブラートをかけて「ソロらしさ」を感じさせるのも良いと思います。結局はソロを務める奏者のセンスですね。
ということで、課題曲の曲解説を一回で書くのは文字の量が多くてしんどいです(笑)。読んで頂いている方もしんどいですよね。申し訳ないです。来年からは3回か4回に分けて書こうかな。
ともかく、この作品を演奏する団体が一番多いであろうと勝手に予測していますので、ぜひパートの皆さんで読んで参考にして頂ければ幸いです。
次回からは、ついに最後、課題曲2について書いていきます。
次回も曲解説に留まらない記事にしますので、演奏されない方もぜひ読んでくださいね。
また来週!
当ブログの写真・記事等の(全部、一部問わず)無断利用、ネット上(TwitterやFacebookなどのSNSを含む)などへの無断転載を禁止します。
at 05:50, 荻原明(おぎわらあきら), 吹奏楽コンクール課題曲2016
-, -, pookmark
2016.05.24 Tuesday
吹奏楽コンクール課題曲2016トランペット解説【1.マーチ・スカイブルー・ドリーム / 矢藤学】前編
[トランペット講習会2016のお知らせ]
「ラッパの吹き方」著者の荻原明が、トランペット奏者の多くが最も苦手意識や疑問を持つ「ハイノート」「呼吸」「タンギング」「リップスラー」の4大テーマに限定し、少人数制で楽器を吹きながら理論と実践両面からのアプローチで解決の糸口を見つけていきます。
詳細、お申し込みは下のバナーからご覧ください。
「トランペット ウォームアップ本」Amazonにて好評発売中!
[荻原明トランペットリサイタル開催]
この度トランペットリサイタルを開催することになりました。
草加にあるとても素敵なサロンで演奏します。定員20名ほどの会場ですので、ご興味ございましたらぜひお早めのご予約をお願いいたします。
9月18日(日)14:00開演(13:40開場)
9月24日(土)17:00開演(16:40開場)
9月25日(日)14:00開演(13:40開場)
詳細はこちらをご覧ください。
[大編成トランペットアンサンブル参加者募集中!]
10月10日開催のプレスト音楽教室アンサンブル発表会に参加していただけるトランペット、トロンボーン、ユーフォニアム、テューバ奏者を募集しております。なかなか実現できない大編成トランペットアンサンブルを気軽に楽しく体験しませんか?練習は土日祝日に全3回ですので、参加しやすいと思います!
詳細、参加お申し込みはこちら
なお、その他に金管4重奏、5重奏、8重奏、プロ奏者とのデュエットステージ、トランペット小編成、ユーフォテューバ4重奏も企画しており、こちらも募集しております。
詳細、お申し込みはこちらのバナーよりご覧ください。
課題曲に関する進め方やお願いごとなどがございます。こちらの記事もご覧下さい「吹奏楽コンクール課題曲トランペット解説2016【はじめに】」
みなさんこんにちは!
只今、「吹奏楽コンクール課題曲トランペット解説2016」開催中です。
今週から課題曲1について解説します。これまで課題曲4,5,3と書いてまいりましたので、残すところあと1曲です。課題曲2を演奏される方、もう少々お待ちくださいね。ただ、演奏されない曲の中にも、様々な角度から書いておりますので、かなり参考になることがあるはずです、ぜひ一度目を通してみてください。
これまで書いてきた課題曲解説の本文をご覧になりたい方は以下をクリックしてください。
↓
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」前編
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」後編
課題曲5.焔 前編
課題曲5.焔 後編
課題曲3.ある英雄の記憶 〜「虹の国と氷の国」より 前編
課題曲3.ある英雄の記憶 〜「虹の国と氷の国」より 後編
「まってました!」と思った方、たぶん多いと思います。アンケートをとったわけではありませんが、きっと今年のコンクールのほとんどの団体はこの作品を演奏されるのではないでしょうか(消去法で)。
さて、ほかの作品もそうでしたが、まずはスコアに書いてある作曲者本人によるコメントの中からいくつかピックアップしてみたいと思います。
《発想記号に含まれる意味》
作曲者は「テンポは終始一貫した設定であること」とコメントしているのですが、その先にこう書かれています。
「発想記号([中略]Animato Grandioso)は曲想のためのもので、速度に関する意図はありません。」
これには少々驚きました。というのも「Animato」という発想記号は、「生き生きと速く、元気に速く」という意味で、一般的にこの記号が出てきたら、テンポが速くなります。ですから、このコメントを読まずに楽譜だけを見た人の多くは、終始一貫したテンポで演奏せよという作曲者の指示はどこからも得ることができず、様々な解釈で演奏することになるでしょう。
ですからこの場合、もしテンポ変化をしてほしくないと思うのであればAnimato以外の楽語を用いるとか、メトロノーム記号を書くなど「譜面上だけで演奏する人全員が同じように理解できる書き方」をすべきだと思います。
特にこの作品では一番盛り上がるクライマックス(練習番号H)にAnimatoが書かれているので、テンポを上げて演奏しても何ら違和感がありませんし、そのほうが盛り上がるので、そう演奏してしまう団体がいるのではないかと思います。しかし、コンクールの場でテンポを速くしてしまったことで審査員に「コメントを読んでないのかね?」と、減点対象になるのだとしたら、その団体はとてもかわいそうです。
作曲者は通常、楽譜だけで演奏者に意思(意図)を伝えるよう心がけなくてはならないし、そのために楽譜があります。
現代音楽のように特殊な奏法や、一般的ではない楽譜の書き方をしていたり、演奏(楽器)以外に必要なものがあり、それをどのように使用するのかなどに関しては別に書き込んだ指示書があっても仕方ありませんが、この作品は普通の吹奏楽編成の楽曲であり、普通の(コンサート)マーチであり、ましてや「課題曲」なのですから、徹底して欲しいと感じました。
どうあれ、作曲者は「テンポは一定」と(わかりにくい場所に)書いてあるので、コンクールに限りそれを遵守したほうが良さそうです。
《演奏者任せの吹奏楽譜は本来必要のない一手間がかかる》
そしてコメントの後半にこう書かれています。
『…「場面ごとに表情をつけること」です。楽譜に書かれていない「デュナーミク」「スタッカート」「テヌート」「アクセント」など、演奏をする上で自然に発声する表現を大切にしてください。むしろそれらを奏者に託すため、楽譜には最小限のことしか書いていません。」
おっしゃることはとてもよくわかります。教育的配慮も含まれているかもしれません。ちなみに「デュナーミク(ドイツ語)」はこのブログでは「ダイナミクス(英語)」と書いています。fやpといった音量変化、強弱のことです。
このコメントを見た瞬間、課題曲4のコメントを思い出しました。今回の課題曲解説でも課題曲4についてはすでに書いているので、詳しくはそちらをご覧頂ければと思いますが、ソロの楽譜ならまだしも、大勢で演奏をする吹奏楽譜でアーティキュレーションの丸投げはいかがなものか、と思うのです。
この作品はマーチですし、とてもシンプルなメロディで、構成も明確です。ですので確かに多くの奏者が統一した「一般的な表現」になるとは思います。
ただ、吹奏楽は数十人でひとつの作品を作り上げるのですから、最初の段階で各奏者の解釈がバラバラだと、本来は必要でない「一手間」が生まれてしまうのです。それが、
「指揮者があらかじめどのように吹くのかを決めて指示をしておく」
ということ。本来このアクションは必要ないものです。楽譜にさえ書いておけば、各奏者は譜読みの段階でほぼ同じ見解、方向性を持つことができるわけで、スタッカートが書いてある音符に対してわざわざテヌートで表現しようとする可能性はとても低いはずです。とてもキレのあるスタッカートを演奏するか、優しく弾むスタッカートをするかは奏者によって異なる可能性はありますが、それでも奏者全員「ここはスタッカートだ」と認識しているだけで、向いている方向は同じになりますから、そういった状態で指揮者が、
「この場所のスタッカートはこのように演奏しましょう」と決定することで、音楽がまとまっていくわけです。これが通常(理想)の合奏です。
しかし、アーティキュレーションがまったく記されていない楽譜の場合、そうはいきません。解釈は無限に広がってしまうし、それを否定することもできません。いわば奏者によって向いている方向がバラバラになってしまうのです。もっと良くないのが経験年数の少ない奏者が多い部活動の場合「アーティキュレーションについて何の意識も持たない」という奏者が生まれてしまう可能性があることです。ただ音符をリズムに合わせて並べるだけだと、その音楽の持っている性質がまるで発揮されない演奏になるかもしれません。
したがって、効率よく合奏をしたいのであれば、パート譜を配る時に「この場面はスタッカートです」「ここはテヌートです」のような指示をするという手間がかかり、結局、作曲者が最初から書き込んでおけばよかったのでは?ということになるのです。
本来合奏は各奏者が(楽譜に書かれていることをしっかりと)作り上げてきた音楽を尊重しつつ、「方向性を定めて作品を仕上げる」場であり、楽譜に書かれていないことをひとつひとつ指示したり確認したりする時間ではありませんし、そこに時間をかけることは非常にもったいと思います。時間がとても限られている部活動であればなおのこと、ですよね。
ですから、少し話は違いますが、合奏でひとりの奏者を捕まえて「テンポ!(指揮棒で譜面台バシバシ叩く)」とか「ピッチ悪い!(チューナーで周波数を確認する)」とか、本当はそういうことをする場面でもありません。理想を言えば合奏までに徹底的にそれを作り上げていくことが大切なのです。こういうの、とっても効率悪いです。
課題曲4もそうでしたが、作曲された方は職業音楽家ではないようですから、きっとご自身が経験されてきたこれまでの「音楽作り」のみから生まれた独特な楽譜の書き方や解釈になってしまったのかもしれません。課題曲としてはいかがなものでしょうか。
《効率の良い練習とは》
効率的の良い練習とはどのようなものか、僕のイメージする理想的な楽曲完成までの進め方を書いてみます。
[個人練習:吹けないところを吹けるようにすることが先]
個人練習というと、楽譜を「アタマから終わりまでなんとなく吹いている」方がとても多いです。もちろん、楽譜をもらった直後に一回通すのは良いと思います。それも目的意識があれば、ですが。
ある程度の経験年数がある人は実際に音を出さなくても楽譜を見ただけで「ここは吹けそうだ」とわかると思います。そういったところは後回しにして、ここは時間をかけないと吹けないだろうな、というところだけをピックアップしておきます。大きな作品であれば吹けない箇所に鉛筆で薄く印をつけておいてもいいかもしれませんね(あとで簡単に消せる程度)。
吹けないところが出てきたら、まず「なぜそこが難しいのか」原因を考えます。フィンガリング(運指)が難しいのか、リズムが理解できていないのか、音が取りにくいのか、楽譜そのものが読みにくい(書き方が悪い)のか、など。
原因がわかったら、今度はそれを解決するための方法を模索します。決してやってほしくないのが、難しい箇所を何万回も吹いているうちに「惰性で吹けるようになった」という状態です。この方法は、違う難しい箇所や作品に遭遇した時にまた同じように何万回も吹かなければならなくなる応用がきかない練習です。時間と労力ばかりかかってしまい、しかも成長しません。
難しく感じる場所には必ず理由があるので、その原因を見つけてください。
例えばフィンガリングが難しいのであれば、まずはその箇所の調が何かを探ってください。一概に○調と言い切れない場合や何調かわかりにくい場合もありますが、わかる範囲で箇所の音階を理解し、吹けるようにします(できれば暗譜で音階を行ったり来たり、スタート地点がどこであってもスラスラ吹けるまでにしておく)。
その後、難しいと思われる(指がひっかかってしまう)最小限のポイントを見つけてください。多分、音2つか3つだけがそのメロディを吹きにくくしていると思います。その最小限の音の並びを、リズムやテンポを変えて徹底的に練習をします。
練習方法については過去の記事「フィンガリング練習」を読んでみてください。
また、リズムや音が取りにくい場合は、わざわざ楽器を使わなくてもいいですよね。ピアノを使って声に出して歌えるようにするとか、そういったアプローチから入っていくほうが効率的です。
そのような練習が先決です。
[パート練習:目的や目標を決めてから行う]
パート練習はきっとどこの団体でもやっていることでしょう。
しかし、惰性で行ってはいけません。大切なのは目的、目標です。
楽譜を最初から最後まで通して「…うん、いいんじゃない(よくわかんないけど)」みたいな展開にだけはなりたくないのです。パート練習という時間をただ過ごせて満足、となってしまうのは非常によくありません。
こうなってしまう一番の原因は「目的や目標設定がはっきりしていないから」です。パート練習は何を目的とし、どんな結果を求めて行うのかをそのつどリーダーさんや先輩などが決め、それができるようになる(全員が理解できる)まで行います。したがって、その目標に到達できればすぐに終えてしまっても良いと思うのです(他に目標がなければ)。逆に解決しない場合はいつまでもパート全員で悩まずに、誰のどんなところを解決すべきかを具体的にし、「どうしたらそれが解決できるのか」を課題に個人練習に立ち返るなどして、また後日パートで集まる日程を決めるのが良いと思います。
そして、パート練習の時にはメトロノームや、パートリーダーさんのような立場の人が床だのイスだの机だのに打楽器のバチでバンバン叩いてテンポを取ることは決してやってはいけません。手拍子も必要ありません。そんなことをするのでしたら、一緒に吹いてください。
室内楽をイメージしてもらえればわかると思いますが、各自がしっかりしたテンポ感を持っていさえいれば指揮者などいなくても意思疎通はすぐにできますから、テンポは乱れません。逆にテンポが乱れてしまった場合、その原因を見つけて考え、そして解決することで、各奏者の演奏レベルも上がります。メトロノームのカチカチ音に合わせて音楽を作るというのは、フレーズ感や音の処理に対して意識を持てずに機械的で雑な演奏になる原因のひとつです。何よりも各奏者がメトロノームと一対一の関係に集中してしまい、隣の人の演奏にまったく関心を持てなくなってしまいます。これではアンサンブル力を培うことはできません。メトロノームを音楽を司る神様のように崇めるのはやめましょう。メトロノームというのは「おおよそのテンポがどのくらいなのか」を瞬時に「確認する」ただの道具であり、演奏しながら使うものではありません。
むしろ使わないほうが自分の中のテンポ感培われて、良くなります。
[セクション練習:それよりも曲に合わせた様々な編成で合わせてみましょう]
パート練習以外に「セクション練習」をしているところも多いと思います。要するに金管楽器全員での練習です。それはそれで非常に中身のある練習ではありますが、意外にも金管全員(だけ)で合わせて意味のある箇所というのは結構限られているものです。
ですので、なんとなく「今日はセクション練習しよう」というのではなくて、「練習番号○を完成させるためにセクション練習をしよう」といった具体的な目標を持った上で集合することが大切です。パート練習と同じ。当然ながら、セクション練習を行うまでに個人の譜読み、パートでの練習をしっかりを築いた上でないと意味がありません。そしてこの場合もメトロノームに合わせるようなことはしてはいけません。金管アンサンブル(10人以上でも)指揮者がなくても曲を完成させることはできるのです。もちろん、指導してくださる先生がいる場合は別です。
そして、もっと大切なのが、「場面ごとに関係の強い楽器との練習」です。例えばある場面でトランペットとクラリネット、フルートが同じメロディを担当しているのであれば、そのメンバーで合わせをしてみるとか、トランペット3rdとホルン、テナーサックスが関連性の高いことをしているのであればそのメンバーだけで合わせるなどです。トランペットパートが演奏すると、それに呼応してトロンボーンが動きだす、なんて場面があればそれもチェックしておきたいですよね。
しかし、これをしている団体が結構少ないんです。多分、スケジュールを組むのが大変だからだと思います(先生が)。しかし、工夫していけばそんな事務作業はいくらでも解決できますから、「面倒だからパート練習、セクション練習、合奏」みたいな単純な区分けだけで毎日の練習をしてほしくないと思っています。
結果的に、パートやセクションで行うべき練習を合奏でやってしまっているところが多いです。しかしこれを合奏でしてしまことで該当しない奏者がとても無駄な時間を過ごすことになってしまいます。身に覚えありませんか?合奏中ずーっと誰かが捕まっていて、他の人が何もすることなくボーっと座っているだけの無駄な時間。個人練習でもしていたほうがよっぽど意味がありますよね。
ですから合奏を進める方も、もしセクションに問題があるな、とわかったら課題だけ出しておき、合奏ではひとまず置いておくなどの工夫や割り切りが大切だと思います。
指揮者がなんでもかんでも合奏で片付けてしまうと、奏者は「合奏でなんとかしてくれる」と人任せになりがちで、自主性がどんどん失われてしまいます。
ぜひ合奏では「それぞれが持ち寄った完成品」をひとつの素晴らしい大きな作品として磨き上げていく時間であるよう、心がけてください。
これらの話はもちろん理想です。それぞれの団体の様々な事情によってはこのようにはできないかもしれません。ともかくどうあれ「効率良い練習」を毎日毎回心がけていくことが、結果的に完成度の高い演奏になりますので、工夫して実践してみてください。
ということで今回はここまでです。
来週は作品に沿って解説をしていきます。この曲を演奏されない方も、トランペットがよく直面するリズムやフレーズを練習するための手順を解説なども掲載しますので、ぜひ引き続きご覧ください。
それではまた来週!
【トランペット講習会2016開催のお知らせ】
トランペット奏者の多くが最も苦手意識や疑問を持つ「ハイノート」「呼吸」「タンギング」「リップスラー」の4大テーマに限定し、少人数制で楽器を吹きながら理論と実践両面からのアプローチで解決の糸口を見つけていきます。講習会は年間通して全18回の開催。お仕事や勉強でお忙しい方でもきっと参加できることでしょう!
講習会の詳細、お申し込みはこちら
【トランペット ウォームアップ本好評発売中!】
「ラッパの吹き方」著者、荻原明によるウォームアップ教本、Amazonにて好評発売中!(こちらをクリック!)
「トランペット ウォームアップ本」は単なる楽譜ではなく、なぜウォームアップをする必要があるのか、具体的に何をすべきかを6つのステップに分けてしっかりと解説しています。レベルに合わせた楽譜も掲載しているので、初心者からベテランの方まで無理なく進めることができます。
また、各ステップの間にはコラムやチェックポイントなどの読み物も充実し、多くのイラストとともに舌の正しい使い方や正しい呼吸についても解説。
この「ウォームアップ本」であなたはもっとトランペットが好きになるでしょう!
【初心者の方には基礎練習の教本として!】
マウスピースのセッティングや音の出し方など基礎中の基礎の解説もしっかり書かれているので、トランペットをはじめたばかりの方には、基礎練習の本としてもご利用いただけます。
荻原明 著
B5伴 63ページ
定価 2,000円+税
ISBN 978-4-86543-558-0
【「ラッパの吹き方」から生まれた「まるごとトランペットの本」好評発売中!】
当ブログ「ラッパの吹き方」をベースにした著書「まるごとトランペットの本」が青弓社より発売中です。
『トランペットの歴史や種類、選び方、メンテナンス、吹くときの姿勢といった基礎知識から、プロ奏者の著者ならではのウォームアップや練習方法、イメージの作り方、演奏のトラブルシューティング、楽譜の読み方までを多数の写真や楽譜を交えて大紹介!(表紙カバーより)』
全国各書店、大手楽器店、Amazon等インターネットでもお求め頂けます。
>>Amazonのページはこちら
荻原 明 著
四六判 208ページ 並製
定価:1600円+税
ISBN978-4-7872-7359-8 C0073
【「ラッパの吹き方」Facebookページ 】
過去の記事を掘り出してまとめたり、ブログ更新情報やお知らせなどをしていきます!ぜひこちらもご覧頂き、「いいね!」をお願い致します!
「ラッパの吹き方」Facebookページはこちら
※Facebookアカウントをお持ちでなくても閲覧は可能です。
Follow @ogiwara_a
@Rappa_fukikataをフォロー
[プレスト音楽教室(東京・文京区)のご案内]
荻原が講師をしている音楽教室です。音大受験生から初心者の方まで幅広い年齢層の方が受講しています。本格的に上達したい方も、趣味としてゆっくり楽しく吹きたい方も、それぞれのご希望に合わせたレッスンメニューをご用意しておりますのでご安心下さい。無料体験レッスン随時受付中!お気軽にご連絡下さい!
オンラインで楽々お申込み。プレスト音楽教室無料体験レッスン申込みフォームはこちらからどうぞ。
読みやすく、使い勝手の良い荻原明編曲(当ブログ著者)による金管アンサンブル楽譜、販売中!
様々な場面で活用できる金管アンサンブル楽譜をクローバーアートミュージックにて販売中です!製本された楽譜だけでなく、PDFデータ化した楽譜をメールなどで受け取れる購入方法もございます!ぜひ一度サイトをご覧下さい!
無料サンプル楽譜も配布中です!
詳しくはクローバーアートミュージック ホームページをご覧下さい!
《店舗でのお取扱いについて》
■ドルチェ楽器管楽器アヴェニュー東京(新宿)
■山野楽器ウインドクルー(新大久保)
■管楽器専門店トーンファルベ(鹿児島)
にて現在販売しております。お近くにお越しの際にはぜひご覧に下さい。
《ツイッター、Facebook》
@CloverArt_musicをフォロー
クローバーアートミュージックFacebookページはこちら
「ラッパの吹き方」ブログに関するご意見、トランペットに関するご質問、各種お問い合わせはこちらのメールフォームからお願い致します。
※頂いたトランペットに関するご質問は、後日記事として使用させて頂く可能性があります。ご了承下さい。
なお、お返事はgmailにていたします。携帯電話へ返信をご希望される場合は、PCやgmailからの受信が可能な状態かご確認下さい。万が一返信できない場合、そのまま放置してしまうこともございます。こちらも合わせてご了承下さいませ。
JUGEMテーマ:吹奏楽
当ブログの写真・記事等の(全部、一部問わず)無断利用、ネット上(TwitterやFacebookなどのSNSを含む)などへの無断転載を禁止します。
2016.05.17 Tuesday
吹奏楽コンクール課題曲2016トランペット解説【3.ある英雄の記憶 〜「虹の国と氷の国」より / 西村友】後編
みなさんこんにちは!
只今、「吹奏楽コンクール課題曲トランペット解説2016」開催中です。
これまでに課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」、課題曲5「焔」について書きました。本文をご覧になりたい方は以下をクリックしてください。
↓
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」前編
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」後編
課題曲5.焔 前編
課題曲5.焔 後編
課題曲3.ある英雄の記憶 〜「虹の国と氷の国」より 前編
なお、課題曲1,2,についてはまだ掲載しておりません。順次アップしていきますので少々お待ち下さい。
今週は課題曲3の後編。曲に沿って解説をしていきますが、この作品を演奏されない方も、そもそも課題曲を演奏されない方も参考になる内容ですので、ぜひご覧ください。
【冒頭】[音楽的に揃うタテの線]
冒頭はトランペットパートだけで演奏するファンファーレです。
よくテンポに合わせる時には指揮者(指揮棒)をよく見る、なんて言いますが、指揮棒の動きにぴったり合わせることなど不可能です。指揮棒は細く長く、ブレながら宙を舞っているわけですから、どこが拍のアタマかなんてわかりません。人間が動かしているのものに絶対的位置など設定できるわけがないのです。指揮者はメトロームではありません。もっと重要な役割を持った人なのです(指揮者について詳しくは「音色に対するこだわり」、「理想的なパート練習 3」)。
では何で合わせるのか。
奏者ひとりひとりが確固たるテンポを演奏前に強く持つことです(初見合奏でなければどのくらいのテンポか、ある程度想像できると思います)。
まずはここから。
そしてその時その時の指揮者のうごき、表情から察することのできる「意志」「表情」「雰囲気」「おおよそのテンポ」を参考にし、安定した正しく、この場面に合った呼吸をし、体に負担がかかるような不自然なことをせずに音を出します(指揮者は機械ではありませんから、まったく同じテンポを毎回振ることはできませんし、ありません)。
これで「音楽的タテの線」は相当揃うと思います。
音楽というのは、機械にプログラミングされた精密なものではありません。あくまでも人間が行っていることですから、毎回の演奏が少しずつ違って当たり前だし、それが面白いのです。
吹奏楽の世界、特にコンクールに向けた合奏では、それがいかにも「良くないこと」のように捉えられるのですが、「安定感がある」ことと、「人間らしさ=不安定」はまったく別物です。もちろん、ミスや演奏が崩れてしまうことを望むわけではなく、人間が作り上げるものに完璧に同じものは存在しない、ということです。
工場のロボットが何百個、何千個と変化なく生産するのと同様な音楽を作ろうとしてはいけません。音楽は、職人がひとつひとつ丁寧に作り上げる陶芸や彫刻、大地に咲く花のような、方向性や目的、意志は同じであっても、ひとつひとつが違う魅力を持ったものでなければならないのです。
話が逸れました。
ええと、冒頭はすべての音にアクセントがついています。
「アクセントはタンギングの強さで表現する」と舌に力を入れて頑張ってしまう方がいらっしゃるのですが、アクセントというのは舌に力を込めて表現するのではありません。音色や音の中身(音圧)、音の推進力など様々なものが要素になります。
そもそも、「アクセントが書いてあるからアクセントで吹きます」というのはあまりにも安直です(しかも意味がよくわからない)。こういうときは次のように考えてみましょう。
「アクセントがついているこのメロディは、どんな演奏になったらかっこいいのだろうか」
「作曲者はなぜこの場面にアクセントをつけたのだろうか(どんなイメージを持っているのだろうか)」
「もしもアクセントがなかったらこの場面はどうなってしまうのか」
こういった感じで考えてみます。
特に最後の「もしもアクセントがなかったら」という「真逆の発想」は、様々な場面でとても明確に答えを導きだせる方法です。例えば、
「この場面にクレッシェンドがなかったら」
「(pの場面が)もしffだったら」
「ここにrit.がなかったら」
「フェルマータがなかったら」
など。「それだと物足りないなあ」「かっこ悪い!」「そんなんじゃなくて、もっとこうしたい!」などと思えれば、自然と楽譜(作曲者)が求めているイメージに導かれます。ぜひいろいろな場面でこの方法を使ってみてください。
また、アクセントについては過去の記事「アクセント」も参考にしてください。
【練習番号A】
冒頭のファンファーレがピークになるのが練習番号Aアタマです。この先、トランペットの音はなくなりますが、練習番号Aの3小節目からデクレッシェンドがあり、練習番号Bに向かって落ち着いていきます。
トランペットが演奏している間はデクレッシェンドがまだ出てこないので、意識的にデクレッシェンドにならない吹き方=音を張り続けている状態を心がけます。
音を張り続けているように聴こえるためには、圧力を維持し続けるための「力」や「推進力」が必要です。「維持しているつもり」だけでは、減衰して聞こえるかもしれません。特に音の吹き終わる瞬間(音の処理)が緩むと、それだけでデクレッシェンドに聴こえてしまうので、最後の最後まで吹ききる(むしろ音の処理はクレッシェンドするくらいのつもりで)演奏を心がけてください。
【練習番号E】[文字によるアーティキュレーション指示は誤解を招きやすい]
stacc.の指示があります。これはもちろん「スタッカート」のことです。この箇所、スタッカートに対して2通りの考え方ができます。なぜなら、文字で出てきた時というのは、同じ音価(音符)が続く時に多く用いられるからで、「これから先に出てくる音符すべてにスタッカート」という捉え方が一般的だからなのです。しかしこの部分、三連符+四分音符のパターン。よってこう考えられます。
考え方1:三連符だけスタッカート
考え方2:四分音符も全部スタッカート
最終的には指揮者の判断になりますが、もし四分音符もスタッカートだったら、わざわざ四分音符で書くかなあ?という疑問が残ります。そうだとしたら四分音符ではなく八分音符で書かないかなぁ、と。
これも、もしかするとわざと選択の幅を増やしてのことかもしれません(いちいち音符に入力するのが面倒だったとも考えられますが)。
文字によるアーティキュレーション指示は、解釈がやっかいです。楽譜によっては、どこまでがその指示なのかわからないものもあります。もし、いちいち音符に入力するのが面倒だとしても「こうして欲しい」と具体的なイメージがあるのでしたら、文字にしないで音符すべてに書いたほうがいいです。僕はあまり好きではないです。
ともかく、三連符にスタッカートをつけることは明白ですので、奏法について解説します。
スタッカートが連続している時には、次のスタッカートを演奏するために、舌をすぐ次の音を出すための準備(=舌で空気の流れを止める動き)が必要です。
その際、舌がopenしている時間を短くするために(音を短くするために)、「すぐ舌で塞がなければ」と思うあまり、きちんと音になる前に塞いでしまうことが多発します。
その結果、きちんと音のツボを捉えられず、ピッチも音色も不安定なスタッカートの音になってしまいやすいのです。
それぞれの音がしっかりと鳴っている状態(=音のツボに当たっている状態)を出すためには、その音が一番鳴る口の中の空間をたとえ瞬間的であっても作る必要があります。なので、スタッカートが連続する時には、口の中(舌)は結構あわただしく動いているのです。ただし、素早い動きなだけで、力をかけているわけではありません。あくまでも「滑舌よく動く舌」であるだけなので負担はかかりません。
この作品に限らず、スタッカートはどこにでも出てきますから、ぜひ基礎練習の時間にしっかり音のツボに当たっているスタッカートを演奏できるよう、練習してみてください。
音のツボに関しては「ハイノート(ハイトーン)へのアプローチ6」を読んでみてください。
【43小節目(1st,2nd)】
「en dehors(オ・ドール)」=表面に出して、という意味のフランス語です。正直、初めて見ましたこの楽語。トランペットだけがメロディを担当していますから、もちろん先頭に立って主張するようにしましょう。わざわざフランス語で書く必要があるのか、そもそも書く必要があるのか疑問。
【練習番号G】[リップトリルの練習をしましょう]
引き続き主旋律をホルンと一緒に演奏しています。注目すべきは47小節目。フィンガリングが若干難しいですね。まずは「付点8分+16分」と「三連符」のリズムがしっかり差別化できるような演奏を心がけてください。いわゆる付点音符(1拍目,4拍目)のリズムが緩くなり、三連符寄りになってしまうと、途端にだらしない演奏になってしまいます。
また、1stに関しては3拍目の最後の音から4拍目の「実音G→H」が少し吹きにくいかと思います(47小節目、51小節目)。Gの音をフィンガリング3番に置き換えて演奏するのも手ですし、自身の成長を目指すならG→H音に留まらずに、たくさんのリップトリルを毎日の練習メニューに取り入れてみましょう。トランペットはこのような3度音程の移動が(特に音域が高くなるにつれ)同じフィンガリングで演奏することが多くなり、そこで上がりきれずに音をはずしてしまうことが多くなりがちです。ですので、リップトリル練習は常に練習に取り入れておきたいものです。
【練習番号H】
バンド全体のアンサンブルが非常に難しいところです。
トランペットパートに限定して書きますが、まず、三連符のアタマが休符になっているとき、休符を「ウン」とか「ン」と数えたり意識しているとそれだけで出遅れてしまいます。休符の次にある音符が、拍のアタマに音があるつもりで吹くくらいがちょうどよくなります。1拍1拍をウンウンウン、と数えながら吹けば吹くほどフレーズ感がなくなり、出遅れる原因になるので注意してください。
また、トランペットが音を出していない休符や拍の部分は低音楽器が演奏してる「掛け合い」のような状態です。その低音楽器をきちんと聴いてから入ろうとするのも確実に出遅れる原因になります。他のパートを聴くことは決して悪いことではありませんが、こういった厳しいタイミングでアンサンブルをする場所で他の奏者の音を聴きすぎるとズレやすいので注意してください。
練習番号Hの3小節目(55小節目)は「三連符の8分音符ひとつ」を「1」としたときに、1〜2拍目を「2+2+2」と考えることもできますね。解釈はいろいろできますから、ぜひいろいろな可能性を考えて、指揮者とともに良いアンサンブルを構築できるように工夫して練習してください(工夫しない練習とは、例えばメトロノームのカチカチ音に合わせ続ける練習とかです。これでは何の意味も発展も進歩もありません)。
【練習番号J】[演奏しやすい楽譜ほど作品の表現の幅がひろがります]
トランペットの出番はありませんが、この箇所に書いてある「Pochi. più mosso」の「Pochiss.」は「Pochissimo(ポチッシモ)」で、「とても少し」という意味です。楽譜に出てくる文字で最後に「 . 」が付いていたら文字が省略されていると思ってください。
ですので、例えば「rit.」を「リット」と、さもそれが正式な単語かのように呼ぶ方がとても多いのですが、表記上そうしているだけで、声に出す時は「リタルダンド」と呼ぶほうが良いのでは?と僕は勝手に思っているので省略形であまり言いません(伝われば別にどうでもいいことですけどね)。そういえば「diminuendo」のことを「ディム(dim.)」と呼ぶ人には出会ったことないですね。ディム…ガンダムのモビルスーツみたい。
ところで、「少し」というのはみなさんもご存知「poco(ポーコ)」です。「Pochissimo」はこれよりももっと少しだけ、という時に使うのかもしれませんが、pocoで充分ではないか、細かすぎやしないかと思います(作曲者のこだわりがあるのかと思うのですが)。pocoという超メジャーな楽語があるにもかかわらず、一瞬「なんだっけ?」と思わせる出現率の低い楽語を用いてくるところなんかも「わざとかなぁ?(教育的配慮?)」と勘ぐってしまう理由のひとつです。
具体的なテンポ表記(メトロノーム表記)がされていない以上、どのくらいテンポを落とすのかは指揮者と演奏者次第ということなのですから、楽譜上の「少し」も「ほんの少し」も変わらないと思うのです。
作曲者のこだわりよりスムーズに演奏できる楽譜(楽語)で構成されていたほうがより自然に演奏できるし、発想の幅が広がり、音楽を作る楽しみも聴く楽しみも増えると思っているのは僕だけでしょうか。楽語ひとつで細かいこと言い過ぎ?(笑)
ちなみに練習番号Kの1小節前にも「pochiss.rit.」が出てきますが、こんなの初めて見ました。poco rit.じゃダメですか?(2位じゃダメですか?←古い)
【78小節目】[高音域をやさしく演奏する]
吹き始めはその1小節前ですが、78小節目からは特に1stはG音まで上がります。高音域を吹くと、大きくて強く、鋭い音を「つい」出して(出て)しまう方は、今こそ他の方法で高音域を出す技術を身につけたいところです。
吹奏楽は特に高音域を求められるときは往々にして大きな音量でもあります。また、「出さなきゃいけない」プレッシャーに負けて「どんな手段でもとにかく音を出すことが先決」と無理な奏法で高音域を吹くクセを持ってしまった人がとても多いです。
これらに共通していることは「力によって出す」という方法です。
音量が大きくなっているときは、腹筋を強く使っています。腹筋に(どのような使い方であれ)力がかかると、お腹の中にある内臓をひとつにまとめている袋、「腹腔(ふくくう)」に圧力がかかり、腹腔のすぐ上にある横隔膜を強く押し上げます。トランペットを吹いている最中は(通常)鼻から空気は抜けませんし、アパチュアという小さな穴しか出口がないので、結果的に空気が溜まっている肺から口の中までの空気圧が高くなります。
そうすると、唯一の空気の出口であるアパチュアに勢いよく空気が流れていくのです。
この非常に力強い空気の流れは、スピードもとても速くなりますから、結果的に音量の大きい高音域が出るのです。
これは音を出す方法のひとつですから、度が過ぎた使い方でなければ問題ありません。しかし、高音域と大音量はイコールでは結べません。ピアニッシモで高音域を出す場面は当たり前に出てきますから、そのための奏法を練習する必要があります。
具体的にどうすればいいのか。過去の記事にハイノートについてとてもたくさん書いてあります。こちらから参考になる記事を見つけてみてください(ハイノートカテゴリー記事群にジャンプ)。
この78小節目はまさに木管楽器と調和した音量を求められています。トランペットらしい美しい音色はそのままに(変にブレンドさせた音を作ろう=トランペットらしくない音を出そうと思ってはいけません)、良いバランスでアンサンブルしたいところです。
【練習番号M】[ブレスは”休符”や”隙”を見つけてするものではありません]
最初に1stが旋律を担当し、2nd,3rdが途中から引き継ぎます。このメロディは、ついつい1小節ごとに(付点4分音符を吹いた後に)吹き直したくなる人(ブレスをとってしまう人)が多くなりそうですが、メロディとしては最低でも4小節ひとフレーズで吹いてください。
フレーズについては過去の記事「フレーズ」を参考にしてください。
長い音や休符が出てくると、それらすべてを「ブレスポイント」と思ってしまうのは間違いです。休符は「休(む)」という字を使いますが、休息時間ではありません。音が出ていないだけで音楽は常に進んでいるのです。
そして、ブレスは「隙」ができたから吸うのではありません。音楽的な流れの中に自然に組み込める「ブレスポイント」がたくさんありますから、それをぜひ見つけてください。一番良くないのは「ブレスはできるだけするものではない(ブレスしないで吹けたらどんなに素晴らしいだろうか!)」と思うことです。先ほどと矛盾しているようですが、ブレスを厄介者のような存在にすると、どんどん「音楽」「作品」から呼吸が分離してしまい、実際に聴いていても、本当にブレスが邪魔な存在に感じてしまうのです。
しかし、呼吸をすることはだれもが生きるための当然の行為なのですから、呼吸(ブレス)すらも音楽の中に取り込んでしまえば、決して「邪魔者」や「ないほうがいいもの」にはなりえないのです。
【115小節目〜(1st)】[朗々と響かせて演奏するために必要なこと]
もうここは完全にトランペットソロであり(もちろん複数で吹いてもいいのですが)、腕の見せ所です。大きな音でしっかり吹こう、と思うのは間違っていませんが、それだけのボキャブラリーからはどうしても「頑張る」「力を込める」という方向性になりがちです。そこで、もう少し具体的に奏法面からもしっかりとアプローチして演奏できるようにしましょう。
客席までトランペットの素晴らしいサウンドを朗々と届かせるためには、「音のツボ」に当り続けていることが必須です。ツボに当たっていないのに頑張って吹いていても客席に音は届かず(届いても音色が悪い)体力ばかりが消耗され、報われません。言い換えるならば、音のツボにさえ当たっていれば音というのはとりあえずしっかり客席まで聴こえます。
次に「音の中身」を意識しましょう。言い方を変えればこれは「音の密度」であり、「圧力バランス」がそれを決定します。度を超さないバランスの良い「強い圧力」でそれぞれの音符の最後までブレることなく吹き続けることが大切です。楽譜に指示がないのに音を抜いたり(音を抜くクセが出てしまったり)、2分音符なのにそれよりも短い長さで吹き終わってしまうというのは良くありません。
もうひとつ大切なのはタンギングです。タンギングというのは例えるなら「音の外壁」です。タンギングの種類によって鉄製の外壁か木製か、または綿のコーティングか、といった具合に変化します。タンギングの質を変えるのは「発音」です。舌にかける筋力ではありません。
簡単にいえば「Tを頭文字にした発音」を用いると、一番明瞭でしっかりした音の外壁が作られ、「D」「N」「S」の順番で徐々に柔らかい外壁になっていきます。
タンギングはすべて「Tu(トゥ)」だと思っている方が多いのですが(そういう書き方をしている教本が多いのが悪い)、頭文字を変えることで外壁の質が変化し(「Du(ドゥ)」「Nu(ヌ)」など)、母音が変化することで出す音域が変化します(「To(トォ)」「Tu(トゥ)」「Ti(ティ)」など)。
もうひとつは「ヴィブラート」です。好みもありますが、ソロ(っぽい)シーンには積極的に使うべきだと僕は思っています(ハモってる場合はトップ奏者、メロディ担当限定)ヴィブラートをかけることで「他の楽器との差別化」がより明確になります。要は目立つんですね。かっこいいヴィブラート、ぜひかけてみてください。
この作品は短いながらも変化に富んでおり、演奏していても聴いていても楽しいのでは、と思いました。
演奏する上でまず大切なのは「イメージ」です。そのイメージは、自分の頭の中にあるものですから、誰にも否定されません。そして、そのイメージを演奏に反映させることも誰も咎めません。もちろん、イメージが自分の中から飛び出した瞬間から、誰かの目や耳にとまるわけですから、ここで何かしらのアクションが起こる可能性はありますが、音楽とはそもそもそういうものなので、そこか覚悟が必要です。ぜひこの作品、場面から受けるイメージを演奏に思い切り出してください。
課題曲3の解説はここまでです。次回は他の作品について書いていきますので、引き続きおつきあいください。
それでは、また来週!
只今、「吹奏楽コンクール課題曲トランペット解説2016」開催中です。
これまでに課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」、課題曲5「焔」について書きました。本文をご覧になりたい方は以下をクリックしてください。
↓
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」前編
課題曲4.マーチ「クローバー・グラウンド」後編
課題曲5.焔 前編
課題曲5.焔 後編
課題曲3.ある英雄の記憶 〜「虹の国と氷の国」より 前編
なお、課題曲1,2,についてはまだ掲載しておりません。順次アップしていきますので少々お待ち下さい。
今週は課題曲3の後編。曲に沿って解説をしていきますが、この作品を演奏されない方も、そもそも課題曲を演奏されない方も参考になる内容ですので、ぜひご覧ください。
【冒頭】[音楽的に揃うタテの線]
冒頭はトランペットパートだけで演奏するファンファーレです。
よくテンポに合わせる時には指揮者(指揮棒)をよく見る、なんて言いますが、指揮棒の動きにぴったり合わせることなど不可能です。指揮棒は細く長く、ブレながら宙を舞っているわけですから、どこが拍のアタマかなんてわかりません。人間が動かしているのものに絶対的位置など設定できるわけがないのです。指揮者はメトロームではありません。もっと重要な役割を持った人なのです(指揮者について詳しくは「音色に対するこだわり」、「理想的なパート練習 3」)。
では何で合わせるのか。
奏者ひとりひとりが確固たるテンポを演奏前に強く持つことです(初見合奏でなければどのくらいのテンポか、ある程度想像できると思います)。
まずはここから。
そしてその時その時の指揮者のうごき、表情から察することのできる「意志」「表情」「雰囲気」「おおよそのテンポ」を参考にし、安定した正しく、この場面に合った呼吸をし、体に負担がかかるような不自然なことをせずに音を出します(指揮者は機械ではありませんから、まったく同じテンポを毎回振ることはできませんし、ありません)。
これで「音楽的タテの線」は相当揃うと思います。
音楽というのは、機械にプログラミングされた精密なものではありません。あくまでも人間が行っていることですから、毎回の演奏が少しずつ違って当たり前だし、それが面白いのです。
吹奏楽の世界、特にコンクールに向けた合奏では、それがいかにも「良くないこと」のように捉えられるのですが、「安定感がある」ことと、「人間らしさ=不安定」はまったく別物です。もちろん、ミスや演奏が崩れてしまうことを望むわけではなく、人間が作り上げるものに完璧に同じものは存在しない、ということです。
工場のロボットが何百個、何千個と変化なく生産するのと同様な音楽を作ろうとしてはいけません。音楽は、職人がひとつひとつ丁寧に作り上げる陶芸や彫刻、大地に咲く花のような、方向性や目的、意志は同じであっても、ひとつひとつが違う魅力を持ったものでなければならないのです。
話が逸れました。
ええと、冒頭はすべての音にアクセントがついています。
「アクセントはタンギングの強さで表現する」と舌に力を入れて頑張ってしまう方がいらっしゃるのですが、アクセントというのは舌に力を込めて表現するのではありません。音色や音の中身(音圧)、音の推進力など様々なものが要素になります。
そもそも、「アクセントが書いてあるからアクセントで吹きます」というのはあまりにも安直です(しかも意味がよくわからない)。こういうときは次のように考えてみましょう。
「アクセントがついているこのメロディは、どんな演奏になったらかっこいいのだろうか」
「作曲者はなぜこの場面にアクセントをつけたのだろうか(どんなイメージを持っているのだろうか)」
「もしもアクセントがなかったらこの場面はどうなってしまうのか」
こういった感じで考えてみます。
特に最後の「もしもアクセントがなかったら」という「真逆の発想」は、様々な場面でとても明確に答えを導きだせる方法です。例えば、
「この場面にクレッシェンドがなかったら」
「(pの場面が)もしffだったら」
「ここにrit.がなかったら」
「フェルマータがなかったら」
など。「それだと物足りないなあ」「かっこ悪い!」「そんなんじゃなくて、もっとこうしたい!」などと思えれば、自然と楽譜(作曲者)が求めているイメージに導かれます。ぜひいろいろな場面でこの方法を使ってみてください。
また、アクセントについては過去の記事「アクセント」も参考にしてください。
【練習番号A】
冒頭のファンファーレがピークになるのが練習番号Aアタマです。この先、トランペットの音はなくなりますが、練習番号Aの3小節目からデクレッシェンドがあり、練習番号Bに向かって落ち着いていきます。
トランペットが演奏している間はデクレッシェンドがまだ出てこないので、意識的にデクレッシェンドにならない吹き方=音を張り続けている状態を心がけます。
音を張り続けているように聴こえるためには、圧力を維持し続けるための「力」や「推進力」が必要です。「維持しているつもり」だけでは、減衰して聞こえるかもしれません。特に音の吹き終わる瞬間(音の処理)が緩むと、それだけでデクレッシェンドに聴こえてしまうので、最後の最後まで吹ききる(むしろ音の処理はクレッシェンドするくらいのつもりで)演奏を心がけてください。
【練習番号E】[文字によるアーティキュレーション指示は誤解を招きやすい]
stacc.の指示があります。これはもちろん「スタッカート」のことです。この箇所、スタッカートに対して2通りの考え方ができます。なぜなら、文字で出てきた時というのは、同じ音価(音符)が続く時に多く用いられるからで、「これから先に出てくる音符すべてにスタッカート」という捉え方が一般的だからなのです。しかしこの部分、三連符+四分音符のパターン。よってこう考えられます。
考え方1:三連符だけスタッカート
考え方2:四分音符も全部スタッカート
最終的には指揮者の判断になりますが、もし四分音符もスタッカートだったら、わざわざ四分音符で書くかなあ?という疑問が残ります。そうだとしたら四分音符ではなく八分音符で書かないかなぁ、と。
これも、もしかするとわざと選択の幅を増やしてのことかもしれません(いちいち音符に入力するのが面倒だったとも考えられますが)。
文字によるアーティキュレーション指示は、解釈がやっかいです。楽譜によっては、どこまでがその指示なのかわからないものもあります。もし、いちいち音符に入力するのが面倒だとしても「こうして欲しい」と具体的なイメージがあるのでしたら、文字にしないで音符すべてに書いたほうがいいです。僕はあまり好きではないです。
ともかく、三連符にスタッカートをつけることは明白ですので、奏法について解説します。
スタッカートが連続している時には、次のスタッカートを演奏するために、舌をすぐ次の音を出すための準備(=舌で空気の流れを止める動き)が必要です。
その際、舌がopenしている時間を短くするために(音を短くするために)、「すぐ舌で塞がなければ」と思うあまり、きちんと音になる前に塞いでしまうことが多発します。
その結果、きちんと音のツボを捉えられず、ピッチも音色も不安定なスタッカートの音になってしまいやすいのです。
それぞれの音がしっかりと鳴っている状態(=音のツボに当たっている状態)を出すためには、その音が一番鳴る口の中の空間をたとえ瞬間的であっても作る必要があります。なので、スタッカートが連続する時には、口の中(舌)は結構あわただしく動いているのです。ただし、素早い動きなだけで、力をかけているわけではありません。あくまでも「滑舌よく動く舌」であるだけなので負担はかかりません。
この作品に限らず、スタッカートはどこにでも出てきますから、ぜひ基礎練習の時間にしっかり音のツボに当たっているスタッカートを演奏できるよう、練習してみてください。
音のツボに関しては「ハイノート(ハイトーン)へのアプローチ6」を読んでみてください。
【43小節目(1st,2nd)】
「en dehors(オ・ドール)」=表面に出して、という意味のフランス語です。正直、初めて見ましたこの楽語。トランペットだけがメロディを担当していますから、もちろん先頭に立って主張するようにしましょう。わざわざフランス語で書く必要があるのか、そもそも書く必要があるのか疑問。
【練習番号G】[リップトリルの練習をしましょう]
引き続き主旋律をホルンと一緒に演奏しています。注目すべきは47小節目。フィンガリングが若干難しいですね。まずは「付点8分+16分」と「三連符」のリズムがしっかり差別化できるような演奏を心がけてください。いわゆる付点音符(1拍目,4拍目)のリズムが緩くなり、三連符寄りになってしまうと、途端にだらしない演奏になってしまいます。
また、1stに関しては3拍目の最後の音から4拍目の「実音G→H」が少し吹きにくいかと思います(47小節目、51小節目)。Gの音をフィンガリング3番に置き換えて演奏するのも手ですし、自身の成長を目指すならG→H音に留まらずに、たくさんのリップトリルを毎日の練習メニューに取り入れてみましょう。トランペットはこのような3度音程の移動が(特に音域が高くなるにつれ)同じフィンガリングで演奏することが多くなり、そこで上がりきれずに音をはずしてしまうことが多くなりがちです。ですので、リップトリル練習は常に練習に取り入れておきたいものです。
【練習番号H】
バンド全体のアンサンブルが非常に難しいところです。
トランペットパートに限定して書きますが、まず、三連符のアタマが休符になっているとき、休符を「ウン」とか「ン」と数えたり意識しているとそれだけで出遅れてしまいます。休符の次にある音符が、拍のアタマに音があるつもりで吹くくらいがちょうどよくなります。1拍1拍をウンウンウン、と数えながら吹けば吹くほどフレーズ感がなくなり、出遅れる原因になるので注意してください。
また、トランペットが音を出していない休符や拍の部分は低音楽器が演奏してる「掛け合い」のような状態です。その低音楽器をきちんと聴いてから入ろうとするのも確実に出遅れる原因になります。他のパートを聴くことは決して悪いことではありませんが、こういった厳しいタイミングでアンサンブルをする場所で他の奏者の音を聴きすぎるとズレやすいので注意してください。
練習番号Hの3小節目(55小節目)は「三連符の8分音符ひとつ」を「1」としたときに、1〜2拍目を「2+2+2」と考えることもできますね。解釈はいろいろできますから、ぜひいろいろな可能性を考えて、指揮者とともに良いアンサンブルを構築できるように工夫して練習してください(工夫しない練習とは、例えばメトロノームのカチカチ音に合わせ続ける練習とかです。これでは何の意味も発展も進歩もありません)。
【練習番号J】[演奏しやすい楽譜ほど作品の表現の幅がひろがります]
トランペットの出番はありませんが、この箇所に書いてある「Pochi. più mosso」の「Pochiss.」は「Pochissimo(ポチッシモ)」で、「とても少し」という意味です。楽譜に出てくる文字で最後に「 . 」が付いていたら文字が省略されていると思ってください。
ですので、例えば「rit.」を「リット」と、さもそれが正式な単語かのように呼ぶ方がとても多いのですが、表記上そうしているだけで、声に出す時は「リタルダンド」と呼ぶほうが良いのでは?と僕は勝手に思っているので省略形であまり言いません(伝われば別にどうでもいいことですけどね)。そういえば「diminuendo」のことを「ディム(dim.)」と呼ぶ人には出会ったことないですね。ディム…ガンダムのモビルスーツみたい。
ところで、「少し」というのはみなさんもご存知「poco(ポーコ)」です。「Pochissimo」はこれよりももっと少しだけ、という時に使うのかもしれませんが、pocoで充分ではないか、細かすぎやしないかと思います(作曲者のこだわりがあるのかと思うのですが)。pocoという超メジャーな楽語があるにもかかわらず、一瞬「なんだっけ?」と思わせる出現率の低い楽語を用いてくるところなんかも「わざとかなぁ?(教育的配慮?)」と勘ぐってしまう理由のひとつです。
具体的なテンポ表記(メトロノーム表記)がされていない以上、どのくらいテンポを落とすのかは指揮者と演奏者次第ということなのですから、楽譜上の「少し」も「ほんの少し」も変わらないと思うのです。
作曲者のこだわりよりスムーズに演奏できる楽譜(楽語)で構成されていたほうがより自然に演奏できるし、発想の幅が広がり、音楽を作る楽しみも聴く楽しみも増えると思っているのは僕だけでしょうか。楽語ひとつで細かいこと言い過ぎ?(笑)
ちなみに練習番号Kの1小節前にも「pochiss.rit.」が出てきますが、こんなの初めて見ました。poco rit.じゃダメですか?(2位じゃダメですか?←古い)
【78小節目】[高音域をやさしく演奏する]
吹き始めはその1小節前ですが、78小節目からは特に1stはG音まで上がります。高音域を吹くと、大きくて強く、鋭い音を「つい」出して(出て)しまう方は、今こそ他の方法で高音域を出す技術を身につけたいところです。
吹奏楽は特に高音域を求められるときは往々にして大きな音量でもあります。また、「出さなきゃいけない」プレッシャーに負けて「どんな手段でもとにかく音を出すことが先決」と無理な奏法で高音域を吹くクセを持ってしまった人がとても多いです。
これらに共通していることは「力によって出す」という方法です。
音量が大きくなっているときは、腹筋を強く使っています。腹筋に(どのような使い方であれ)力がかかると、お腹の中にある内臓をひとつにまとめている袋、「腹腔(ふくくう)」に圧力がかかり、腹腔のすぐ上にある横隔膜を強く押し上げます。トランペットを吹いている最中は(通常)鼻から空気は抜けませんし、アパチュアという小さな穴しか出口がないので、結果的に空気が溜まっている肺から口の中までの空気圧が高くなります。
そうすると、唯一の空気の出口であるアパチュアに勢いよく空気が流れていくのです。
この非常に力強い空気の流れは、スピードもとても速くなりますから、結果的に音量の大きい高音域が出るのです。
これは音を出す方法のひとつですから、度が過ぎた使い方でなければ問題ありません。しかし、高音域と大音量はイコールでは結べません。ピアニッシモで高音域を出す場面は当たり前に出てきますから、そのための奏法を練習する必要があります。
具体的にどうすればいいのか。過去の記事にハイノートについてとてもたくさん書いてあります。こちらから参考になる記事を見つけてみてください(ハイノートカテゴリー記事群にジャンプ)。
この78小節目はまさに木管楽器と調和した音量を求められています。トランペットらしい美しい音色はそのままに(変にブレンドさせた音を作ろう=トランペットらしくない音を出そうと思ってはいけません)、良いバランスでアンサンブルしたいところです。
【練習番号M】[ブレスは”休符”や”隙”を見つけてするものではありません]
最初に1stが旋律を担当し、2nd,3rdが途中から引き継ぎます。このメロディは、ついつい1小節ごとに(付点4分音符を吹いた後に)吹き直したくなる人(ブレスをとってしまう人)が多くなりそうですが、メロディとしては最低でも4小節ひとフレーズで吹いてください。
フレーズについては過去の記事「フレーズ」を参考にしてください。
長い音や休符が出てくると、それらすべてを「ブレスポイント」と思ってしまうのは間違いです。休符は「休(む)」という字を使いますが、休息時間ではありません。音が出ていないだけで音楽は常に進んでいるのです。
そして、ブレスは「隙」ができたから吸うのではありません。音楽的な流れの中に自然に組み込める「ブレスポイント」がたくさんありますから、それをぜひ見つけてください。一番良くないのは「ブレスはできるだけするものではない(ブレスしないで吹けたらどんなに素晴らしいだろうか!)」と思うことです。先ほどと矛盾しているようですが、ブレスを厄介者のような存在にすると、どんどん「音楽」「作品」から呼吸が分離してしまい、実際に聴いていても、本当にブレスが邪魔な存在に感じてしまうのです。
しかし、呼吸をすることはだれもが生きるための当然の行為なのですから、呼吸(ブレス)すらも音楽の中に取り込んでしまえば、決して「邪魔者」や「ないほうがいいもの」にはなりえないのです。
【115小節目〜(1st)】[朗々と響かせて演奏するために必要なこと]
もうここは完全にトランペットソロであり(もちろん複数で吹いてもいいのですが)、腕の見せ所です。大きな音でしっかり吹こう、と思うのは間違っていませんが、それだけのボキャブラリーからはどうしても「頑張る」「力を込める」という方向性になりがちです。そこで、もう少し具体的に奏法面からもしっかりとアプローチして演奏できるようにしましょう。
客席までトランペットの素晴らしいサウンドを朗々と届かせるためには、「音のツボ」に当り続けていることが必須です。ツボに当たっていないのに頑張って吹いていても客席に音は届かず(届いても音色が悪い)体力ばかりが消耗され、報われません。言い換えるならば、音のツボにさえ当たっていれば音というのはとりあえずしっかり客席まで聴こえます。
次に「音の中身」を意識しましょう。言い方を変えればこれは「音の密度」であり、「圧力バランス」がそれを決定します。度を超さないバランスの良い「強い圧力」でそれぞれの音符の最後までブレることなく吹き続けることが大切です。楽譜に指示がないのに音を抜いたり(音を抜くクセが出てしまったり)、2分音符なのにそれよりも短い長さで吹き終わってしまうというのは良くありません。
もうひとつ大切なのはタンギングです。タンギングというのは例えるなら「音の外壁」です。タンギングの種類によって鉄製の外壁か木製か、または綿のコーティングか、といった具合に変化します。タンギングの質を変えるのは「発音」です。舌にかける筋力ではありません。
簡単にいえば「Tを頭文字にした発音」を用いると、一番明瞭でしっかりした音の外壁が作られ、「D」「N」「S」の順番で徐々に柔らかい外壁になっていきます。
タンギングはすべて「Tu(トゥ)」だと思っている方が多いのですが(そういう書き方をしている教本が多いのが悪い)、頭文字を変えることで外壁の質が変化し(「Du(ドゥ)」「Nu(ヌ)」など)、母音が変化することで出す音域が変化します(「To(トォ)」「Tu(トゥ)」「Ti(ティ)」など)。
もうひとつは「ヴィブラート」です。好みもありますが、ソロ(っぽい)シーンには積極的に使うべきだと僕は思っています(ハモってる場合はトップ奏者、メロディ担当限定)ヴィブラートをかけることで「他の楽器との差別化」がより明確になります。要は目立つんですね。かっこいいヴィブラート、ぜひかけてみてください。
この作品は短いながらも変化に富んでおり、演奏していても聴いていても楽しいのでは、と思いました。
演奏する上でまず大切なのは「イメージ」です。そのイメージは、自分の頭の中にあるものですから、誰にも否定されません。そして、そのイメージを演奏に反映させることも誰も咎めません。もちろん、イメージが自分の中から飛び出した瞬間から、誰かの目や耳にとまるわけですから、ここで何かしらのアクションが起こる可能性はありますが、音楽とはそもそもそういうものなので、そこか覚悟が必要です。ぜひこの作品、場面から受けるイメージを演奏に思い切り出してください。
課題曲3の解説はここまでです。次回は他の作品について書いていきますので、引き続きおつきあいください。
それでは、また来週!
当ブログの写真・記事等の(全部、一部問わず)無断利用、ネット上(TwitterやFacebookなどのSNSを含む)などへの無断転載を禁止します。
JUGEMテーマ:吹奏楽
at 06:45, 荻原明(おぎわらあきら), 吹奏楽コンクール課題曲2016
-, -, pookmark